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O plus E誌 2020年3・4月号掲載
 
 
『2分の1の魔法
(ウォルト・デイズニー映画 )
      (C)2020 Disney/Pixar
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [TOHOシネマズ日比谷他にて,近日公開予定]   2020年2月21日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ピクサー社22作目は,久々のオリジナルストーリー  
  CGアニメの元祖ピクサー・アニメーション・スタジオ制作の長編作品の22作目である。毎年ほぼコンスタントに年1作のペースで作られ,米国では6月公開が定番パターンだった。昨年6月に第21作『トイ・ストーリー4 』(19年7・8月号)が公開されてから1年も経たない内に,本作の登場である。この後,第23作『ソウル』が今年6月に控えているので,もの凄い制作ペースである。
 残念なことに,『トイ・ストーリー4』にも本作にも,併映の短編がついていない。いつも密度の濃い力作で,楽しみにしていたのだが,さすがに長編がこの制作ペースだと,オマケにまで手が回らなかったのだろうか。それよりも気になったのは,スケジュール的にプラスαの存在である本作のクオリティである。心なしか,広報宣伝にも力が入っていない気がした。まま子扱いされなければいいなと思っていたのだが,可哀相なことにコロナ・ウイルス騒ぎに巻き込まれ,本邦では公開延期になってしまった。米国では,まだそこまでの自粛ムードではないのか,3月6日に公開され,無事,公開週末の興収No.1の座に収まっている。良かった,良かった。
 前々作『インクレディブル・ファミリー』(18年7・8月号),前作『トイ・ストーリー4』は確実にヒットが見込める後継作品だったが,本作は久々のオリジナルストーリーである。題名通り,「ハリー・ポッター」並みの魔法が登場する。かつて世界は魔法に満ち溢れていたのに,科学の発達で生活が便利になり,誰も魔法を使わなくなった。そんな「魔法が消えかけた世界」で暮らす兄弟の物語という設定だ。それじゃかなり昔のことで,中世からせいぜい産業革命の時代かと思ったら,空には飛行機,市中にはクルマで,スマホもあるから,まるで普通の現代社会だ。家はキノコ型で近未来かと思わせるが(写真1),まだ自動運転車ではないので,さほどの未来でもない(写真2)
 
 
 
 
 
写真1 キノコ型の家に2つの月という不思議な世界
 
 
 
 
 
写真2 兄弟が乗るのは自動運転でなく,普通のワゴン
 
 
  それでいて,登場人物の大半は耳の長いエルフだ。さらに,警官は半人半獣のケンタウロスや単眼のサイクロップス,レストランの女性経営者は獅子の胴体と蝙蝠の翼をもつマンティコア(写真3)で,兄弟の家には小型ドラゴンまでいる(写真4)。即ち,現代社会とファンタジー世界がミックスした異世界が,本作の世界観である。
 
 
 
 
 
写真3 レストラン経営者のコリーは翼のあるマンティコア
 
 
 
 
 
写真4 ライトフット家で飼っているペットのドラゴン
 
 
  バーリーとイアンの兄弟は,亡き父にもう一度会いたいと願っていたが,イアンは父が母に託して遺してくれた魔法の杖と呪文で,「父を24時間だけよみがえらせる魔法」を試みる。これが失敗に終わり,父ウィルデンは下半身しか復活しなかった(写真5)。題名の「2分の1」はここから来ている。兄弟は父を完全に蘇らせるため,残る「2分の1の魔法」を求めて旅に出る……。結末は,願いが叶って親子が対面する感動のシーンで終わると,誰もが予想するだろうが,さてそうなるのか…?
 
 
 
 
 
写真5 魔法は失敗で,父親は下半身だけが復活
 
 
  監督は,数々のCGアニメのストーリー・アーティストを務めてきたダン・スキャンロン。『モンスターズ・ユニバーシティ』(13)で長編監督デビューを果たし,これが2作目である。声の出演は,弟イアン役が現役スパイダーマンのトム・ホランド,兄バーリー役が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ジュラシック・ワールド』両シリーズのクリス・プラットと,正に主演級スターの投入だ。2人は,『アベンジャーズ』シリーズでも共演している。
 さて,本作の評価だが,これと言って大きな欠点はない。キャラクター造形は上手いと思うし,CG技術に目新しさはないが,美しいと感じるシーンも随所で登場する(写真6)。物語展開も,ビジュアルも音楽も,「ディズニー&ピクサー」ブランドに恥じない出来映えだ。予備知識なしに映画館に入って,いきなり観たとしても,十分楽しめるはずだ。その意味では,観て損はない。
 
 
 
 
 
写真6 イアンと父が眺める海と夕陽の描写が美しい
(C)2020 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
 
 
  その半面,大きな驚きや感動はなく,こりゃ凄いと感心するほどの傑作でもない。盛り上げ方は,家族ものの定番の域を出ない。亡き父との再会というテーマも,死者の国で先祖と出会う第19作『リメンバー・ミー』(18年3・4月号)の焼き直しとの気もする。何事も無難で,かつてのピクサーらしい挑戦心が感じられない。本作を,本家ディズニー製やドリームワークス製のCGアニメだと言って見せても,そのまま通用してしまうと思う。
 前3作はいずれも☆☆☆評価の逸品揃いであった。それらと比べると,本作の評価は厳しくならざるを得ない。当欄は,これまでずっとピクサー社に肩入れして来た。そのため,多くを求め過ぎているのだろうか?
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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