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O plus E 2020年Webページ専用記事#1
 
 
野性の呼び声』
(20世紀スタジオ /ディズニー配給 )
      (C)2020 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2020年2月28日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2020年2月20日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  名作冒険小説の6度目の映画化で,主役の犬の描写が見もの  
  原作は1903年に米国人作家ジャック・ロンドンが書いた中編小説で,数々の文学選集や世界文学全集に収録されている名作のようだ。この題名または「荒野の呼び声」で9冊もの邦訳文庫本が出版されているのは,著作権が切れていることもあるのだろう。大型犬が主役として活躍する冒険物語で,1908年から2009年までに5回も映画化されている。6度目の本作を当欄で取り上げるからには,見どころは当然,どこまで犬たちをCGで描いているかである。
 もう1つの話題は,本作が「20世紀フォックス映画」ブランドが消えた最初の公開作品だということだ。今世紀に入ってから,2013年に親会社(ホールディング・カンパニー)名は「21th Century Fox」になり,映画部門だけが伝統あるこの名称を維持していた。2017年に映像業界の巨人となったディズニーに買収されることが公表され,2019年春正式にその傘下に入った。数作前から,我が国内での配給ルートもウォルト・ディズニー・ジャパンに移っている。映画事業担当のこの会社名からもFoxが消え,本作から「20th Century Studios」になった。ディズニー傘下に入らなかったニュースやスポーツ中継中心の「Fox Corporation」との混同を避けるためと言われている。
 以前から企画されていたためか,スチル画像のクレジットにはまだFoxが残っている。著作権管理の都合上,まだ数作はこれが続くのだろう。映画本編の前に出るオープニング・ロゴは,予告編は従来通りだったのに,本作の公開版では,デザインもファンファーレも従来と同じなのに,文字だけが「20th Century Studios」に差替えられていた。よって,本作の表題欄の表記もそれに従っている。Fox時代の膨大な映像資産があるので,「20th Century Studios(20世紀スタジオ)」社がこれを継承し,ディズニー傘下での棲み分けをして行くのだろう。ファミリー映画はディズニー・ブランドで,ピクサー作品はDisney/Pixar名で,「SWシリーズ」はLucas Film名義で,マーベルコミックものはMarvel Studios製作とし,「20世紀スタジオ」は上記に属さない一般作品,即ち,かつて「Touchstone Pictures」が担っていたジャンルの作品群を担当して行くと予想されている。
 さて,本題の本作の物語である。時代は19世紀末で,主人公はセント・バーナードとスコットランド系牧羊犬の混血種のバックは,温暖なカリフォルニア州サンタクララバレーの地で,ミラー判事の飼い犬として穏やかな生活を送っていた。ところが,4歳の時に悪人に捕獲され,シアトルに運ばれ,当時高値で取引されていた「そり犬」として売られてしまう。カナダのユーコン凖州へ移動し,郵便配達の犬ぞりの先導犬を務めた後,持ち主が変わり,虐待を受ける。そこで孤独な旅の男ソーントンに窮地を救われ,彼と心を通わせるようになる。彼らは地図のない未開の地アラスカへと共に旅立つが,ソーントンの死を悟ったバックは,自然の中で野性の生活を送る…という物語である。ほぼ原作に忠実な展開であり,犬版のロードムービーだと言える。
 映画の冒頭は長閑な加州の生活で,犬が家族の中に溶け込んで暮している。いかにもディズニー映画の世界だ。その後の冒険物語中でも,終始,人間との心の交流が描かれている。賢い犬が主人公の映画は,これまでにも多々あったが,いずれもファミリー映画だ。本作も完全にその範疇に入る。それなら,「20世紀スタジオ」ブランドではなく,いっそディズニー映画として広報宣伝した方がヒットしたのに,もったいないと感じた。
 監督は,クリス・サンダース。アニメ版『アラジン』(92)等の原案,『ムーラン』(98)の脚本を担当し,ディズーアニメのスタッフを務めて来た人物である。『リロ・アンド・スティッチ 』(02)で初の共同監督と脚本を担当したが,長編映画の単独監督はこれが初体験である。ここまでファミリー映画一辺倒の経歴で,ディズニー色が強い人選なら,やはりディズニー・ブランドにすべきだったと思う。
 人間の主役ソーントン役はハリソン・フォードだが,中盤以降しか登場しない。過去には,1935年版でクラーク・ゲイブルが,72年版ではチャールトン・へストンが演じた役であるから,これくらいの大物俳優が演じるのは当然とも言える。彼に至るまでの飼い主は,ミラー判事役にブラッドリー・ウィットフォード,郵便配達夫ペロー役に『最強のふたり』(12年9月号)のオマール・シー,過酷な労働を強いるハル役に実写版『美女と野獣』(17年5月号)のダン・スティーヴンスが配されている。
 問題は,主役のバックを演じる犬の選択とCG描画の比率である。以下では,筆者の思考過程をそのままなぞって記すが,ネタバレを好まない読者はここまでで読むのを止め,観賞後に読んで頂きたい。
 ■ 予告編を観た段階では,調教した本物の犬とCG描画の比率は,50:50程度だと想像していた。熊と闘ったり,氷の下の水中に飛び込むシーンもあるから,それらはCG描写に違いない。ただし,単独で登場する動きのない姿(写真1)は,どう観ても本物の犬である。映画本編に入っても,しばらくその思いは変わらなかった。家の中で飼い主と戯れる姿も,中盤以降でハリソン・フォードと並んだ姿もしかりである(写真2)。最近のCG技術を用いれば,このクオリティの犬をCGで描くことは可能であるが,その必要性を感じなかったからである。かなり演技力を要するシーンも多々あったが,それとて映画用にしっかり訓練された犬なら可能と思われた。過去5作は,すべてそうした方法で撮影されている。

 
 
 
 
 
写真1 バックはセント・バーナードと牧羊犬の混血種。どう観ても,本物の犬に見えた。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 バックが心を許した友のソーントン。一緒に人類未踏の地アラスカを目指す。
 
 
  ■ 主役のバックは,かなり表情豊かに描かれている。驚いたり,照れたり,拗ねたりもする。それも顔面の表情だけでなく,挙動と同期している。いくら訓練された犬でも,ここまでの演技をさせることは難しい。もうその段階で,CG描画だと察することができる。ウサギを追って穴の中に入るシーンもCGだろう。手付けのアニメーションではなく,俳優が演じ,MoCapやFacial Capturingを利用しているに違いない。こうしたシーンの頻度が高くなり,映画の冒頭1/4位の段階で実写対CGの比率は,40:60位かなと思い始めていた。
 ■ 捕獲され,棍棒で叩かれて恐怖を覚えるシーンはCG だろう。そりの上から鞭で打たれるシーンもしかりだ。動物虐待に関しては,かなり厳しい審査が入るから,そうしたシーンでは本物の犬を打擲することはできない。オマール・シーンが演じる郵便配達人に買われ,犬ぞりのチームに入った頃から,犬の演技も一変する。先導犬のスピッツと戦って,リーダーの地位を得るバトルはCGでしか有り得ない。ということは,スピッツ(犬の名前であって,犬種ではない)もCGのはずだ。さらに,橇を引く犬のチーム内でのバックの挙動の描写であり,これも実写での演技ではないはずだ(写真3)。となると,一匹だけCG映像で合成する方が面倒だから,同じシーンでのすべての犬はCG描写だということになる。湖面の氷が割れて,中に落ちた女性を助けるシーンや,犬ぞりを先頭を務めながら,大雪崩を回避する中盤のシーンは圧巻だった。もうこの辺りで,比率は20:80ではないかと感じていた。最終的な比率は,映画を観た後でVFXメイキング記事を読んで初めて知った。正解は,この記事の末尾に記しておく。

 
 
 
 
 
 
 
写真3 犬ぞりチームの猛スピードでの疾走,チームプレイの演技は秀逸。
一匹だけ CGの訳はないから,犬はすべてCG描写なのだろう。
 
 
  ■ 上記の雪崩も本物ではないが,その他のシーンでは,予告編にも登場する大型の熊,多頭のカモシカ等がCGだと思われる。カヌーでの急流移動中のシーンは半分くらいがVFX合成であり,途中で登場する滝のシーンは当然CGだと見てとれた。ユーコン凖州,アラスカの雄大な自然が登場するが,これはどうだろう? 現地ロケをかなり行ったようだが,写真4のようなシーンは実景であっても,背景がVFX合成であっても不思議ではない。こんな撮影に好都合な岩場があるとは限らないし,あってもそこに本物の犬を連れて行くよりも, CGで描いた方が断然楽だ。こうした観点から,この映画が終わる頃には,バックの実写対CGの比率は10:90だろうと想像していた(答えは末尾)。

 
 
 
 
 
写真4 カナダ・ユーコン凖州の広大な自然。本物かVFX合成かは識別できない。
(C)2020 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
  ■ 事前知識は持たずに試写に臨んだが,CG/VFXの担当は予想通りMPC社だった。ほぼ全編1社で処理している。現在,これだけ見事にデジタル製の動物を描けるのは,『ジャングル・ブック』(16年8月号)『ライオン・キング』(19年Web専用#4)の両作で腕を磨いた同社しか考えられない。『キング・コング』(06年1月号) や『猿の惑星』シリーズ(11〜17)でWeta Digital社が先行した技術に,MPCが追いつき,追い越している。大型犬バックの動きは,元体操選手のテリー・ノタリーが1人で演じていたそうだ。エンドロールで印象的だったのは,PreVisとPostVisの両方をかなり積極的に利用していることだ。その両方の主担当はHalon Entertainmentで,PreVisはMPC社内のPreVis部門が,PostVisはAsylum社が補助的な役割を果たしている。

 
 
 
 [正解] バックの描写は,CGが100%とのことである。これ自体が宣伝文句であり,モデルとなった大型犬が少しだけ使われている可能性もないではないが,ほぼすべてをCGで描き切るだけの技術力があることは確実だ。
 
 
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