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O plus E誌 2014年3月号掲載
 
第86回アカデミー賞の予想
   
   
 

 毎年恒例になってしまった3月号でのアカデミー賞予想である。ここ数年は,2月中旬の校了日までに予想を書き,本誌発売日前後に受賞者が判明するパターンだったが,今年の授賞式は3月3日(日本時間)と遅くなってしまった。という訳で,本誌入手後に,読者諸兄も予想を楽しんで頂きたい(当たっても,外れても,別に何ということはないのだが)。
 昨年同様,作品賞候補9作品の内,7本は観ているが,『あなたを抱きしめる日まで』(3/15公開)と『her/世界でひとつの彼女』(6/28公開)が未見である。主演女優賞,助演女優賞対象作では,『8月の家族たち』(4/18公開)を観ていないので,以下はその範囲内での願望と予想であることを断っておきたい。
 まず,当欄の関心事のCG/VFX関連では,長編アニメ部門は,本号で紹介の『アナと雪の女王』が断トツの大本命だ。これまでライバルだったドリームワークスやピクサーは,今年は全く敵ではなく,後者に至ってはノミネートすらされていない。ライバル不在の年というだけでなく,過去数年どの年であっても,受賞しただろう。ついでに,同作がオリジナル歌曲賞も取ると思う。対象の代表曲「Let It Go」自体も佳曲だが,他の楽曲も好い出来だったので,それもプラスに働くだろう。
 視覚効果賞部門は,『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)が大本命だ。強いていえば,対抗は『アイアンマン3』だが,大分差がある。当欄としては,技術的にも発想的にも斬新な『ゼロ・グラビティ』に作品賞,監督賞も取って欲しいが,主要部門には手強いライバルが多い。それでも,技術部門の撮影賞,美術賞,編集賞,音響賞,音響編集賞等々の大半は取ることだろう。
 願望は上記だが,作品賞・監督賞の予想としては,『それでも夜は明ける』とスティーブ・マックィーン監督が有望だと思う。「黒人監督初のオスカー」というメディア向けのネタが後押ししている。主演男優賞は,そろそろ『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のL・ディカプリオに取らせてやりたいが,『ダラス・バイヤーズクラブ』のM・マコノヒーが本命だ。『ウルフ…』でもディカプリオの上司役を好演していたから,役柄上も部下の方が分が悪い。
 主演女優賞部門は,5本中3本しか観ていないが,その中で,当欄としては当然『ゼロ・グラビティ』のサンドラ・ブロックを推しておきたい。『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットはユニークな役柄を好演しているが,どうもこの主人公を好きになれない。演技もさることながら,当の女性主人公自身が,健気で応援したくなる人物の方がいいではないか。
 その他の部門では,以下を予想しておこう。
・助演男優賞:ジャレッド・レト vs. ジョナ・ヒル
・助演女優賞:ジェニファー・ローレンス
      (2年連続は難しいかと思うが……)
・衣装デザイン賞:『華麗なるギャツビー

注:上記記事は,O plus E誌掲載記事に加筆し,2月16日に書いたものです。

   
  (追記)[2014年2月24日]
 その後,長編ドキュメンタリー部門のノミネート作品『アクト・オブ・キリング』(4月号に掲載する)を観た。その取材・制作手法は斬新で,描かれている事実も衝撃で,愕然とした。何というドキュメンタリーだ。候補5作品のうち,これしか観ていないので,まともな予想にはならないが,オスカーに値する話題作だと述べておきたい。
 
   
   
  ◆第86回アカデミー賞の結果を振り返って  
 
 昨年よりも約1週間遅くなったアカデミー賞授賞式の前に,自らの予想を読み返して,今年はちょっとマズかったなと,少し後悔した。主要部門の大半で願望と予想の両方を書いたので,これじゃどちらが受賞しても当たったことになってしまうではないか。本当は「予想」の方が重かったのだが,そう伝わっただろうか?
 発表後,親しい知人から「今年もかなり当たりましたね。さすがです」と褒められたが,上記の曖昧性をもたせていたのだから,余り自慢できない。馬券で言えば,馬単でなく,馬連かワイド馬券を買って的中したようなものだ(厳密には,単勝の2点買いだが……)。
 まず,当欄の最大の関心事,「視覚効果賞」は『ゼロ・グラビティ』,「長編アニメーション賞」(+「オリジナル歌曲賞」)は『アナと雪の女王』で,昨年同様,そのものズバリ的中した。ともに大本命だったのだから,この両部門は当たって当然だろう。
「作品賞」と「監督賞」は,願望が『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソ・キュアロン監督)で,予想の本命は『それでも夜は明ける』(スティーヴ・マックイーン監督)としたが,「作品賞」は後者,「監督賞」は前者(願望)が受賞したので,案の定,広い(ずるい?)予想で両方当てたことになってしまった。黒人監督初の受賞という政治的配慮が強く働くのではと予想したのだが,一気にそこまでは行かなかったようだ。『それでも夜は明ける』の作品賞受賞に対して,「黒人監督が撮った作品が初めて…」という報道をいくつも見かけたが,なるほど話題としては,これで十分だ。映像として斬新だった『ゼロ・グラビティ』への配慮が,「監督賞」を与えるように向かったのかと思う。
 映像作品創造への最大の責任は監督にあるのだから,本来,「作品賞」と「監督賞」が同じになるのが自然である。長いアカデミー賞の歴史でも,大戦後は,別作品から監督賞が出るのは10年に1度程度であったのに,今世紀に入ってからは,この定形パターンが崩れ始めている。特に,昨年と今年は,投票権のあるアカデミー会員内で調整機能が働いていると感じた。
 改めて考えても,『それでも夜は明ける』は,しっかり作られた魂を打つ重厚な映画だと思うが,今一つ好きになれない。もう一度,観る気にもなれない。ただし,今なお根強い人種差別に悩む米国国民なら,何度でも自国の忌まわしい歴史を直視する必要はあると思う。その意味で,常識のあるアカデミー会員なら,この有力候補作品を落選させてはまずいと考えたことだろう。世界の耳目を集める映画界の最大の祭典であるとはいえ,所詮,アカデミー賞は米国内の業界人組織のイベントであり,投票権のある会員のほぼすべてが米国人である。他国の一般観客とは視点が違って当然だ。
 その半面,主催者の映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)は,「科学」という言葉が入っているように,新しい映画制作技術にも高い関心と評価を与える業界団体であり,多数の技術部門賞があるのはその表われである。欧州系の映画祭が,業界人や映画通が好む文芸調の作品重視の傾向があるのとは,一線を画し,映画産業全体の繁栄を重んじているとも言える。また,特定の作品に関わらない純粋な科学技術部門の表彰式は別の週に開催され,筆者の知己である大学教授たちもしばしば受賞している。
 この観点からすれば,映画制作手法としても飛び切り斬新で,目を見張る映像の『ゼロ・グラビティ』に,「監督賞」初め,最多の7部門のオスカーが与えられたのは,納得できる結果であったと言える。当欄では,「撮影賞」「美術賞」「編集賞」「音響賞」「音響編集賞」等の受賞を予想したが,「美術賞」は逃したものの,「作曲賞」を得ている。『それでも…』が,作品賞の他は「助演女優賞」「脚色賞」の計3部門受賞に留まり,当欄は低い評価しか与えなかった『アメリカン・ハッスル』が最多10部門にノミネートされながら,無冠に終わったのと比べると,『ゼロ・グラビティ』への関心度と評価の高さが伺える。当欄の昨年度総合ベスト5のトップに選んでいただけあって,素直に喜ばしい。
「主演男優賞」「主演女優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」も,願望と予想を書いたり,2人の候補を併記したり,「2年連続は難しいかと思うが」などという予防線まで張ったのだが,「願望」は叶わず,ほぼ予想通りのまずまず順当な結果で終わった。しっかり当たったと言えるのは,「衣装デザイン賞」に『華麗なるギャツビー』を挙げたことだろうか。

  (上記は,O plus E誌2014年4月号掲載文に加筆したものです[2014年3月8日記])  
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