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O plus E誌 2013年3月号掲載
 
第85回アカデミー賞の予想
   
   
 

 今年もオスカーの時期がやって来た。こうした映画評欄に関わる者としては,ゴールデングローブ(GG)賞のノミネートから,アカデミー賞授与式までの2ヶ月余は,心が弾む季節である。映像技術専門誌の広告欄を飾る各VFXスタジオのアピールも,新聞・雑誌等での予想記事も,眺めているだけで楽しい。たかが映画の,ある一国の業界内イベントに過ぎないのだが,その結果に目くじら立てるも良し,気に入った作品の受賞を喜ぶも良しではないかと感じる。
 さて当欄の予想は,今年は余り気乗りがしないのだが,すっかり恒例となり,昨年結構当たったゆえに,勝ち逃げ(?)する訳には行かなくなった。例年通り,「予想」よりも,「期待」や「願望」中心であるとの言い訳付きで書き留めておくことにしよう。
 気乗りがしないのは,作品賞9作品の内,7作品は観たが,まだ『リンカーン』『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』の2本の試写が(大阪では)なく,未見だからである。とりわけ,前者は最多の11部門にノミネートされている最有力候補なので,その試写を観ていないのでは,まともな予想にならない。それでも敢えて述べるなら,『リンカーン』が作品賞を含む,5~6部門を制するかと思う。昨年は米国大統領選があり,公開直後から評価が高く,それでいて前哨戦のGG 賞をとれなかったからである。GG賞の受賞作を外して入れたがる,少々臍曲がりのアカデミー賞会員の投票意欲を集めるのには最適だ。とまあ,映画そのものを観ていなくても,この程度の予測(邪推?)はできるのだが……。
 既に観た7作品の中からなら,筆者は『ゼロ・ダーク・サーティ』(本号)と『アルゴ』(12年11月号)を高く評価する。ところが,この2作品が監督賞候補から外れているのは驚いた。前者のキャスリン・ビグローには,3年前に『ハート・ロッカー』(10年3月号)で作品賞,監督賞を受賞しているが,これが早過ぎたという反省からだろうか。当該作品欄で述べたが,前作を遥かに凌ぐ,完成度である。後者のベン・アフレックは,当欄が2年連続で一般作品のベスト1に選び,監督としての力量は抜群だと評価した。誰の思いも同じらしく,早くもGG賞ドラマ部門の作品賞,監督賞を受賞してしまった。となると,陰険な(?)アカデミー会員たちは,「まだ,早いよ。青いよ」と言わんがばかりに,監督賞にはノミネートすらしなかったという訳だ(実際には,アカデミー賞候補投票の締切はGG賞の結果発表より前だが,有力候補は大体分かる)。既に業界内で物議を醸し出しているが,今年のオスカーレースへの興味が半減したのは,このためもある。
 候補となった監督賞5人の中からは,筆者は『愛、アムール』(本号)のミヒャエル・ハネケ監督を推す。これは全く個人的願望で,世評では『リンカーン』のスティーブン・スピルバーグ,『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(13年2月号)のアン・リーが有力のようだ。ともに既に一度受賞しているが,ベン・アフレックに「まだ,早いよ」と言いたいくらいだから,ハリウッド映画界のドン,S・スピルバーグが2度目の受賞を果たす可能性はかなり高いと感じる。
 当欄の関心事,視覚効果部門に関しては,先月号で本命『ライフ・オブ・パイ…』,対抗『ホビット 思いがけない冒険』(13年1月号)と予想した通りである。長編アニメ部門5作品の中では,ディズニー系の2作品『メリダとおそろしの森』(12年8月号)と『シュガー・ラッシュ』(次号で紹介)との戦いだろうが,前者がやや有利と見た。
 その他の部門は,「願望」として以下を挙げておこう。
・主演女優賞:ジェシカ・チャスティン
・助演男優賞:クリストフ・ヴァルツ
・外国語映画賞:『愛、アムール』
・脚本賞:『ジャンゴ 繋がれざる者』
・美術賞:『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
・オリジナル歌曲賞:「スカイフォール」(歌:アデル)
・ドキュメンタリー賞:『シュガーマン 奇跡に愛された男』
(書いてから気がついたのだが,これはGG賞の結果とほぼ同じだった)

注:上記は,O plus E誌掲載記事に大幅に加筆しています。今年の授賞式は現地時間2月24日(日)[日本時間で同25日の午前中]の予定ですが,上記記事は2月17日に書いたものです。

   
  [追記](2月22日執筆)
 一昨日(2月20日),ようやく『アンナ・カレーニナ』(4月号で紹介)の試写を観た。「撮影賞」「美術賞」「衣装デザイン賞」「作曲賞」の4部門にノミネートされている意欲作である。「美術賞」でも有力だと思うが,「衣装デザイン賞」の大本命だろう。本作を観るまでは『レ・ミゼラブル』が有力かなと考えていたのだが,本作の終盤にアンナ(キーラ・ナイトレイ)が着て登場するワインレッド色のドレスに圧倒された。オスカーは,これに決まりだ!
 
   
 
 
 
キーラ・ナイトレイの美しさにも,このドレスにも息を呑む
(C) 2012 Focus Features LLC. All rights reserved. photography by Eugenio Recuenco, Laurie Sparham
 
   
  [受賞者発表後の感想]
 結果的には,今年も「願望」と言い訳しながらも,的中率はかなり高かった。ただし,試写を観ていないのに,ノミネート部門や噂から,作品賞は『リンカーン』,監督賞はS・スピルバーグの3回目の受賞(2回目と書いた上記はミス)が有力と書いたのは大ハズレだった。監督賞にベン・アフレックがノミネートされなかったことが,却って同情を集めたのか,日ごとに『アルゴ』の世評が高くなっていた。さすがにアカデミー会員もこれはまずいと思ったのか,作品賞には『アルゴ』が選ばれ,ベン・アフレックはプロデューサの1人としてオスカー像を得るところとなったのは,既にご存知の通りである。ずっと彼の才能を愛でてきた当欄としては素直に嬉しい。試写を観た7本から選んだ2本には入れていたし,昨年度の一般作品ベスト1に挙げていたのだから,40%程度は正解としておこうか。
 有力候補は知りながらも,「願望」を述べた監督賞(アン・リーが2度目の受賞)と主演女優賞も見事にハズレだった。ジェニファー・ローレンスは『ウィンターズ・ボーン』(11年11月号)以来注目している女優で,演技力は確かだが,さすがに22歳は「まだ若い。早い」と思ったためである。
 その他の「助演男優賞」「外国語映画賞」「脚本賞」「美術賞」「衣装デザイン賞」「オリジナル歌曲賞」「視覚効果賞」「長編アニメーション賞」「ドキュメンタリー賞」は.8勝1敗で.外したのは「美術賞」(『リンカーン』が受賞)だけである.とりわけ,「視覚効果賞」「長編アニメーション賞」を的中できたのは.本欄の面目躍如だと自慢しておこうか。
 ちょっと残念なのは,2月号の『ライフ・オブ・パイ…』の紹介記事本文中で,「美術賞,撮影賞のオスカーの最有力候補だ」と書いておきながら,「撮影賞」を書き漏らしたことだ。
   
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