O plus E VFX映画時評 2024年7月号
(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています)
楽しい映画だった。さすが,ディズニー陣営と渡り合えるブランドとなったイルミネーションの最新作に相応しい出来映えである。複数のシリーズ(フランチャイズ)を抱えながら,昨年春に『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(23年4月号)のメガヒットを飛ばした上に,全くのオリジナル作品『FLY!/フライ!』(24年3月号)もかなりの秀作であった。まだその国内公開から半年も経っていないのに,今度は本家『怪盗グルー』シリーズの4作目である。大人気のミニオンが登場するゆえ,安定した興行収入が約束されたも同然だ。
内容以前に苦言を呈したいことがある。原題はシンプルな『Despicable Me 4』であるのに,邦題はナンバーを振らず,個々の題名をつけている。これじゃ,過去作の順番が分からず,登場人物の関係も復習しにくい。改善してくれないと,今後もますますそうなってしまう。スピンオフ作品も含め,ここで過去作を整理しておく。
●メインシリーズ
①『怪盗グルーの月泥棒 3D』(10年11月号)
3D映画ブームの最中に新登場。ややスランプ気味の怪盗グルーは,「縮ませ光線銃」で空の月を縮小して盗むことを目論む。黄色いミニオンたちは第1作から手下だった。孤児の三姉妹(マーゴ,イディス,アルゴス)に慕われ,一緒に暮すことになる。宿敵は,眼鏡にジャージー姿のベクターで,元の大きさに戻った月と共に宇宙に。
②『怪盗グルーのミニオン危機一発』(13年10月号)
三姉妹を養女にしたグルーは,父親役に邁進。「悪党連盟」所属だったが,「反悪党同盟(AVL)」にスカウトされる。相棒の女性ルーシーと恋仲になり,結婚する。ミニオン達は悪党に浚われてピンチに。敵役は怪盗エルマッチョ(実はメキシコ料理の店長エドアルド)だった。
③『怪盗グルーのミニオン大脱走』(17年7月号)
冒頭から悪党ブレットが登場し,ダイヤを盗む。彼を取り逃したことでグルーとルーシー夫妻はAVLをクビになる。今度は三姉妹がブレットに誘拐される。グルーに双子の兄ドルーがいたことが判明し,協力してブレットを逮捕する。グルーに愛想をつかしたミニオンズは出て行くが,終盤戻って来る。本作での出番は少ない。
④『怪盗グルーのミニオン大変身』(24年7月号)
本作。7年ぶり。概要は後述。
●スピンオフシリーズ
⑤『ミニオンズ』(15年8月号)
古代から棲息していたミニオン達はその時代の権力(T-Rex,ファラオ,ナポレオン等)に仕えてきた歴史が語られる。1968年NYに来て,ケビン,スチュアート,ボブのトリオが主導し,大悪党のスカーレットがエリザベス女王の王冠を盗む計画に加わり,騒動を引き起こす。最後に登場したグルーがスカーレットを倒し,ミニオン達は彼を新しいボスと決める。グルーにはまだ髪の毛がある。
⑥『ミニオンズ フィーバー』(22年Web専用#4)
11歳のグルーは全編で登場するが,三姉妹と遭遇する前の前日譚であるから,スピンオフ扱いらしい。ミニオンは上記のトリオに加えて歯科矯正中のオットーが加わる。時代は1970年代,少年グルーが悪党集団ヴィシャス・シックスに憧れ,団員募集に応募したことから起こる騒動を描いている。グルーを助けるため,ミニオン達が鍼灸師にカンフーの手ほどきを受ける。ギャグに加え,アクションも大きな魅力になっていた。
⑦『Minions 3(原題)』(2027年6月30日北米公開予定)
既に3作目の製作が確定している。
という風に整理したが,表題に数字がないので,こうしないと時代順も新登場人物の参加順も分からない。東宝系は『ドラえもん のび太の……』のように個別の題名を付けることが多い(『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』両シリーズも同様だ)。一方,ディズニー陣営は,本家もピクサーも『アナと雪の女王2』(19年11・12月号)『トイ・ストーリー4』(19年7・8月号)のようにナンバーリング路線で分かりやすい。イルミネーション作品でも,『ペット』シリーズは『ペット2』(同)としているのだから,本フランチャイズは,せめてメインシリーズだけでも,番号付け方式にして欲しい。「ミニオン」の名を入れたいのなら,『怪盗グルーとミニオンたち4』『怪盗グルーとミニオンたち5』…のようにすれば済む。内容まで付したい場合は,『怪盗グルーとミニオンたち4:メガミニオンへの大変身』ように記せばよいだけだ。
閑話休題。さて,作品内容とその評価である。「楽しかった」「さすが,イルミネーション」と書きながら,評点は平均点しかつけていない。映画評論としては,観たこともない題材,斬新な路線変更,技術的新規性がない限り,高い評点はつけにくい。本メインシリーズの場合,既にノワールものではなく,ファミリー映画としての安定路線を歩んでいる。即ち,高い水準で,固定ファンの期待を裏切らないレベルに達している。ところが,完成度は高いものの,大きな目新しさがないゆえに,観賞後の印象はやや薄く,映画評論としては,何を語るべきかで迷ってしまうのである。
美点は,ギャグ中心で,随所で笑いが入り,物語が心地よく展開することだ。大きなストーリー性はないが,その場その場で楽しませてくれるので,満足度は高い。緊迫感が薄いので,あまり記憶には残らないが,不快感は全くない。それゆえ,次回作も映画館に足を運んでみたくなる。この第4弾は,そういう種類の映画なのである。
それでは映画紹介にならないので,多数の画像を使って,グルーの家族たちとミニオンたちに関する大変化を記すことにする。
【グルーファミリーの一大事と本作の敵役】
映画は,アルプスと思しき山中から始まり,グルーが赤いスポーツカーに乗って,昔通った高校「悪事学園」の同窓会にやって来る。この同窓会の参加者は,いつもにも増して,極端な顔立ちの個性的な連中ばかりだった。ここで再会したのが因縁のライバル,マキシム・ル・マルで,本作の敵役である(写真1)。昆虫の研究をする彼は,虫男に変身してグルーを襲ったため,逮捕され,投獄される。
グルーへの怒りを募らせたマキシムが脅迫状を送るが,その内容を重くみた反悪党同盟は,彼とその家族の素性を隠し,名前まで変えて安全な町メイフラワーに転居させる(写真2)。ところが,隣人のポピーは悪党になることを目指す少女で,グルーの正体を暴き,危険な計画への参加するよう脅す(写真3)。これがマキシムに伝わり,グルーたちに魔の手が迫って来る。マキシムの相棒の女性はヴァレンティーナだ。お洒落だが危険で,かなり個性的な顔立ちで著しい長身痩躯である(写真4)。この2人が駆使する武器や飛行艇,ミニオンズたちが何をするかは観てのお愉しみとしておこう。全体としては,まさにジェットコースター・ムービであり,その切り替わりのテンポの良さは極上品である。
グルーファミリーにとっての大きな出来事は,ルーシー夫人との間に男児が生まれていたことだ(写真5)。グルーJr.と名付けられ,グルーが父親として甲斐甲斐しく遊んだり,AVLエージェントとしての手ほどきをするが(写真6),ジュニアは世話係のミニオンたちにはなつくものの,困ったことに父親には一向になつかない(写真7)。このジュニアを巡ってのギャグ,ドタバタ劇が本作の大きな魅力である。次回作以降も活躍が期待でき,好いキャラクターを投入したものだ。
養女三姉妹はと言えば,ジュニアの分だけ,やや出番は減っているが,しっかり存在感を発揮して,楽しませてくれる。グルーと同様,第1作目から全く同じ服装で通しているが,心なしか1〜2歳年長になっている気もする(ジュニアが生まれたのだから当然だが)(写真8)。第1作の画像と比べると、グルーのマフラーやイディスの帽子とセーターの質感が向上している。
【ミニオンたちの描かれ方と大変身】
前作③よりも格段に登場場面は多い。冒頭の同窓会には,グルーに帯同し,自分達のミニスポーツカーでやってくる。黒づくめの衣装は『メン・イン・ブラック』シリーズのパロディだろう(写真9)。ストーリーには余り関係ないギャグシーンにも登場して,笑いを誘う(写真10)。
そして,何と言っても大きな見どころは,初めての大変身である。グルーファミリーが転居したので,大勢のミニオンたちはAVLに引き取られ,そこで仕事をしている。ディレクターのサイラス・ラムズボトム氏から選ばれた5人が,各々カプセル内でスーパーパワーを得て,メガミニオンに生まれ変わる(写真11)。どんな重い物も扱う「超怪力」のメガデイブ,レーザービームで何でも焼き尽くす「超発射」のメガメル,マッハスピードで飛べる「超高速飛行」のメガガス,手足がゴムのように伸びる「超伸縮」のメガティム,身体が岩のようで何でも噛み砕く「超強固」のメガジェリーの5人だ(写真12)。最も凄まじいのはメガメルのレーザービームで,試験発射しただけで軽くAVLビルを突き破り,さらに宇宙空間の人工衛星まで破壊してしまう(写真13)。そんな連中だから,パワー制御はぎこちなく,グルーを助けるどころか,街中で大混乱を引き起こしてしまう。
【フルCG映画としての出来映え】
この点に関しては,あまり特筆すべきことがない。当初は3D上映に適したキャラクターや家屋,街並みの描画をウリにしていた。その後,本シリーズの国内での3D上映がなかった。最近は3Dも復活しているようだが,マスコミ試写は2Dであったので,3D効果の出来映えは確認できていない。もはや,この種のギャグアニメに写実的な描写は必要とされないので,その実力はあっても,意図的に人物はデフォルメした幾何デザインを採用し,背景シーンもオーソドックスに描いている。着衣の描画品質が向上したことは,既に述べた通りだ。
単発で登場する武器や乗り物は,人物の顔立ちほど極端ではなく,そこそこ新しいデザインで描いていた。転居前のグルーの通勤用車両(写真14),ミニオン達の気球(写真15),マクシムとヴァレンティーナが乗る虫型の飛行艇(写真16)はその類いだ。この点でも高い水準を保っていて,全体としてはCG技術に新規性はアピールせず,コンテンツそのもので勝負していると感じた。
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