O plus E VFX映画時評 2024年3月号
(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています)
3月号は異例続きで,本作の紹介は「越月」してしまった。盛り沢山であった上に,月末に処理すべき作業が集中してしまったためである。マスコミ試写の機会がなかったため,しっかり公開初日(3月29日)に映画館で観たのだが,『オッペンハイマー』の長めの短評と,メイン欄に格上げした『流転の地球 -太陽系脱出計画-』の大幅加筆を優先してしまったため,本作は後回しになってしまった。それが第1の理由であるが,本作は全くの期待外れの凡作で,早く紹介したいという気になれなかったことも否めない。
前作『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(22年1・2月号)は大傑作かつ感動ものであったため,その続編での飛躍を期待したのに,これが大外れだった。まさかこんなに低レベルと思わなかったので,早めにメイン欄での掲載を予告してことを悔いてしまった。今更短評欄への格下げも恥なので,記録に残すことだけを言い訳に,しぶしぶメイン記事として書き留めておくことにした。
【シリーズ内の位置づけと本作の概要】
今から40年前,SFコメディ映画『ゴーストバスターズ』(84)が大ヒットした。3人の超常現象研究者の博士と追加加入した海兵隊出身の黒人男性1人の混成チームが,現実世界に出没するゴーストを退治する娯楽作品で,ハチャメチャな言動やユニークなゴーストの振舞いが大受けした。同じメンバーで,5年後に続編の『ゴーストバスターズ2』(89)が作られた。21世紀に入ってからの3作目の企画の進行中に,イゴン・スペングラー博士役で脚本担当だった男優ハロルド・ライミスが14年に死去したため,計画は中止となった。代わって,女性4人組の新チームが登場するリブート作『ゴーストバスターズ』(16年9月号)が公開されたが,失敗作に終わった。ここまでの3作はいずれもNYを舞台としていた。
仕切り直しの4作目が上述の『…/アフターライフ』である。3作目を無視し,旧2作の正統な続編扱いの設定で,舞台はオクラハマ州の田舎町になっていた。NYの家を追われたイゴン・スペングラー博士の娘カリーは都落ちし,息子トレヴァーと娘フィービーを連れて,父親が遺してくれた古い屋敷に移り住んだ。主人公は科学好きの孫娘のフィービーで,地下の実験室から博士のゴースト退治の機材や装置を見つけ出し,町に頻発する地震は博士が封印したゴースト達のせいだと気付く。かくして,母子3人は友人達を巻き込んで,新しいゴーストバスター・チームを結成し,恐ろしい巨大なゴースト犬から町の危機を救う。お馴染の旧式キャデラックの白いECTO-1で移動し,プロトンパックから陽電子レーザービームを発してゴースト退治をする定型パターンが復活し,オールドファンは大喜びだった。
監督・脚本は旧2作のアイヴァン・ライトマンの息子のジェイソンで,「祖父から孫へ,受け継がれるプロトンパック」「父から息子へ,受け継がれる監督としてのスピリット」なるキャッチコピーも見事だった。配給会社から箝口令が出ていたので書けなかったが,クライマックスの部分で旧チームの3人(ピーター,レイ,ウィンストン)が応援に駆けつけ,観客を驚かせた。さらには,旧作の映像から故ハロルド・ライミスの姿を取り出し,VFX処理で老人かつ亡霊のイゴン・スペングラー博士に仕立てて,娘カリーと抱き合うシーンまで加えるサービスぶりであった。文句なしの快作であった。
さて,本作はその『…/アフターライフ』の直接の続編として作られている。即ち,スペングラー家が中心のゴースト退治チームの物語であり,主人公も引き続き少女フィービーで,15歳になっている(写真1)。ただし,家族は4人になり,舞台もシリーズの原点のNYに戻っている。ゲイリー・グルーバーソン先生は想いを寄せた母親カリーと再婚し,トレヴァーとフィービーの義父となった。おまけに,オクラハマからNY市内に移動し,旧作の本部であった消防署に転居して来たという訳である。後者は,富豪になった旧メンバーのウィンストンが懐かしの庁舎を買い戻したことがミッドクレジットで予告されていたので,こうなることは予想できた。ECTO-1ごと引っ越して来た一家は,早速市中でゴースト退治を始めるが,町中に被害を与えてしまう。憤った市長から,未成年のフィービーはチームへの参加を許可されず,謹慎の身となる。
そのフィービーがゴースト少女のメロディ(火災で16歳で死亡)と意気投合すること,本部の地下には「ゴースト保管庫」があること,ウィンストンはニュージャージー州の水族館を改装して「ゴースト研究所」として水槽でゴースト達を観察していること,レイは「書店兼オカルト鑑定店」を経営していること等々が描かれているが,詳細は省略する。問題は,ナディームなる人物がレイの店に売りにきた祖母の遺品の真鍮の球が「ゴーストオーブ」なる曰く付きの物体であったことだ(写真2)。そこに封じ込められていた邪神ガラッカは,手下のゴースト達の策略で封印から解き放たれ,「デス・チル」なるパワーでNY市内全体を凍らせてしまう。クライマックスは,このボス・キャラにフィービーが立ち向かい,仲間の協力を得て,再びガラッカの封印に成功し,町は救われるという定番の決着である。
本作の原題は『Ghostbusters: Frozen Empire』で,直訳すれば「氷の帝国」である。おそらく,ガラッカが多数のゴーストを率いる帝国を意味していたのだろう。それが「フローズン・サマー」では余り恐ろしさを感じない。海水浴場も一瞬にして凍るので,季節は夏なのだろうが,夏休みの公開でもないのにピンと来ない。「氷の帝国」でも十分と思うのだが,それでは『アナと雪の女王』(14年3月号)を想像してしまうので,避けたのだろうか?
【主要登場人物とキャスティング】
前作で父からのスピリット継承を強力にアピールしていたので,当然監督は引き続きジェイソン・ライトマンだと思ったのに,彼は製作と共同脚本に退き,監督はギル・キーナンにバトンタッチされた。脚本は,新旧の2人で書いている。『モンスター・ハウス』(07年1月号)や『ポルターガイスト』(15)の監督を務め,前作でもジェイソンと2人で脚本を担当していたので,得意分野であり,力量には問題ないのだろう。それにしては,脚本がつまらなかった。
主要登場人物は,ほぼそのまま継続出演である。即ち,スペングラー家の4人は,ゲイリー(ポール・ラッド),カリー(キャリー・クーン),トレヴァー(フィン・ウルフハード),フィービー(マッケンナ・グレイス)だ。俳優としての格から,『アントマン』シリーズのP・ラッドがトップにクレジットされ,出番も増えているが,事実上,物語の主人公がフィービーであることには変わりはない。
旧メンバーは,今回はサプライズ出演ではなく,最初からクレジットされ,スチル写真にも登場している(写真3)。存命の3人,ピーター(ビル・マーレイ),レイ(ダン・エイクロイド),ウィンストン(アーニー・ハドソン)に加え,本部の受付嬢であったジャニーン(アニー・ポッツ)も本作ではメンバーとして行動を共にしている。ただし,本シリーズの顔であったビル・マーレイは出番も少なく,存在感も薄く,何やら義理で出演しているかのようだった。一方,トレヴァーの恋人のラッキー(セレステ・オコナー)は「ゴースト研究所」のインターンで,フィービーの有人のポッドキャスト(ローガン・キム)は親に内緒でレイの店を手伝っている等,脇役達もそのままだ。
新登場数名の内,最も目立ったのは,レイの店に祖母の遺品の球体を持ち込んだ男ナディームで,実は炎を操る「ファイヤーマスター」であることが判明し,炎が苦手なガラッカと対峙する。演じているクメイル・ナンジアニはパキスタン系米国人で,本号の『FLY!/フライ!』のマガモ一家の父親マックの声を演じていたように,声優としての出演が多く,顔を見るのは初めてだった,剽軽で大げさな演技は,ムロツヨシを思い出した。もう1人,嫌われ者のペック市長(ウィリアム・アザートン)も初顔と思ったのだが,何と,第1作で連邦環境保護局NY支部長として旧チームの活動の邪魔をした男だった。その時に恥をかかされた逆恨みで,本作でも権力を振りかざすが,この人物の発言や態度が軽過ぎる。いやしくも大NY市の市長になるくらいなら,もう少し風格があってしかるべきだ。
かく左様に,前作の脚本,出演者が継続し,かつ旧作の出演者まで登場させるサービスぶりなのに,全く面白くなかった。全くの子供だましと感じたのは,筆者だけなのだろうか?
【CG/VFXについての論評】
■ 映画の冒頭は1904年の出来事で始まる。この時代のNY市消防局員は馬車で出動する。到着先の社交クラブで目撃したのは,室内の全員が凍りついていて,触れるとバラバラに砕けてしまった。1世紀以上も前のガラッカの仕業であることを見せているだけで,それ以上の意味はない。勿論,CG/VFXの産物だが,可もなく,不可もない平凡な出来映えだった。続いては,NYにやって来たスペングラー家は,市中で竜の形をした半透明のドラゴンゴーストを見つけ,プロトンビームを発射しながら追いかける(写真4)。ここで,ドローンも駆使して空中でゴーストを捕獲するのが少し新しい。この過程で,ゴーストのパワーで市立公共図書館のライオン石像が動き出したため(写真5),放射ビームで石像をバラバラにしてしまい,大目玉を食うことになる。ここまでは,この映画の最も楽しかったところで,準冒頭シーケンスとしては上々だった。
■ ボスキャラで邪悪なガラッカは,まずまずの出来映えだった(写真6)。左右に張り出した大きな角が特徴だが,さほど醜悪でもない。それでも,親子連れの子供たちは結構怖がっていたから,ファミリー映画ならこれくらいが適当なのだろう。デス・チル機能は,冷気を直接吹きかけたり,大きな氷柱を発生させたりできる。海水浴場を一瞬にして凍らせるシーンは悪くなかったが,市中の描写は異常自然災害ディザスター映画ほど大規模ではなかった(写真7)。
■ 他のゴーストたちもそこそこ登場する。緑色のスライマーは,今回は屋根裏部屋に棲息していた。意図的にパペット操作とCG描写を混在させているようだ(写真8)。図書館で現れた老婆幽霊のライブラリーゴーストも,第1作以来の再登場だという(写真9)。本シリーズのシンボルのマシュマロマンは,既に巨大な破壊者ではなくなり,前作ではスーパーの菓子棚に住むミニマシュマロマンになっていたが,これが本作でもそのまま踏襲されている(写真10)。映画ではほんの顔見世程度で,フィギャー市場での売上げが目当てだろう。ミッドクレジットに登場していたから,次回作ではもう少し活躍しそうだ。CG/VFXの主担当は,前作ではDNEGだったが,本作ではソニー傘下のSPIW (Sony Pictures Imageworks)が担当し,DNEGは副担当に回っている。その他,Barnstorm VFX, Territory Studio, Clear Angle Studios等が参加していた。
【総合評価】
主要キャスト&スタッフは前作とほぼ同じ,共同脚本の2人も同じというのに,ここまで出来映えが違うのは,意外だった。製作費は$75 millionから$100 millionになり,米国の物価高を差し引いてもアップしているので,ケチったための品質低下ではない。現在までの本作の北米興行収入は,前作の55%程度であるから,批評家の評価だけでなく,興行的にも失敗作と言える(通常,ヒット作の続編は,中身は今イチでも,興行的は成功する)。若手俳優の演技は向上しこそすれ,劣化はしないから,脚本レベルの少しの違いで,観客に訴えるものが大きく違うということなのだろう。
筆者は,オールドファンだけでなく,対象をファミリー層に拡げて集客力を上げようとして,それが失敗だったのだと思う。既に書いたが,全くのお子様映画であった。上映スケジュールの都合で,字幕版でなく日本語吹替版で観たので,尚更そう感じたのかも知れない。
80年代を象徴する娯楽映画の斬新さは,全く継承されていなかった。CG/VFXもゴーストのデザインも,まるで新しくない。ただただ残念だ。唯一の救いは,主演のマッケンナ・グレイスで,この少女がどんな大人の女優に成長して行くのかが楽しみだ。
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