O plus E VFX映画時評 2023年12月号掲載

映画サウンドトラック盤ガイド


■「ウィッシュ(オリジナル・サウンドトラック)」
(Walt Disney Records)


国内盤(通常版)
国内デラックス版

英語盤(通常版)
英語配信(通常)版
英語Deluxe Edition

 さすが,ディズニーのミュージカルアニメだ。国内盤CDの発売があるだけでなく,オリジナルスコアを含むデラックス版もCD2枚組があり,アナログ盤LPも用意されている。勿論,デジタル配信でも入手できる。別項の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のサントラ盤が1種類しかないのに比べて,様々なフォーマットがあるので,どれを選ぼうか迷うかも知れない。
 実写版『リトル・マーメイド』の当欄(23年6月号)でも代表的フォーマットを整理したので,今回もそれを踏襲する。

 ①英語盤(通常版) 12曲収録[歌唱曲8曲,カラオケ4曲]
 ②Deluxe Edition  55曲収録[①+Demo 4曲+カラオケ4曲+スコア35曲](配信のみ)
 ③国内盤(通常版) 19曲収録[①+日本語歌唱7曲]
 ④国内デラックス版(2枚組) 58曲収録[CD1: ③+Demo 4曲,CD2: スコア35曲]

 できる限り調べたつもりだが,変則版もあり,間違いがあるかもしれないので,購入時にはしっかり確認して頂きたい。例えば,①のデジタル配信版は,Apple Music等のサイトは13曲で提供している。②のCDはなく,デジタル配信だけのようだ(と思う)。
 日本語吹替版上映では日本人キャストが日本語で歌い,そのサントラ盤CDが発売されているが,いつもと少し違う。従来,日本語版は日本語歌唱曲にせいぜいエンドソングの英語版が加わる程度だったが,今回の③は劇中の歌唱曲7曲は英語/日本語の両方収録されている(その分,価格は高めだが)。世界に向けて10数カ国語以上,各国語版が用意されているはずなので,自分で輸入するなら,フランス語版や韓国語版も入手できる。
 注意すべきは,①と④は,文字以外,アルバムジャケットがそっくりだということだ。通常版同士,デラックス版同士で同じデザインなら紛れはないのに,こういう変則のクロスがあると買い間違えしそうだ。

  1. “ようこそ! ロサス王国へ”  生田絵梨花&キャスト
  2. “輝く願い”  福山雅治&生田絵梨花
  3. “ウィッシュ〜この願い〜”  生田絵梨花
  4. “誰もがスター!”  キャスト
  5. “無礼者たちへ”  福山雅治
  6. “真実を掲げ”  生田絵梨花,檀れい&キャスト
  7. “ウィッシュ〜この願い〜(リプライズ)”  生田絵梨花&キャスト
  8. “Welcome To Rosas”  Ariana DeBose & Wish Cast
  9. “At All Costs”  Chris Pine & Ariana DeBose
 10. “This Wish”  Ariana Debose
 11. “I'm A Star”  Wish Cast
 12. “This Is The Thanks I Get?!”  Chris Pine
 13. “Knowing What I Know Now”  Ariana DeBose, Angelique Cabral & Wish Cast
 14. “This Wish (Reprise)”   Ariana DeBose & Wish Cast
 15. “かけがえのない願い(エンドソング)”  Julia Michaels
 16. “This Wish (Instrumental)”  Julia Michaels & Benjamin Rice
 17. “I'm A Star (Instrumental)”  Julia Michaels & Benjamin Rice
 18. “This Is The Thanks I Get?! (Instrumental)”  Julia Michaels & Benjamin Rice
 19. “A Wish Worth Making (Instrumental)”  Julia Michaels & Benjamin Rice
(以下は,デラックス版のCD1に収録)
 20. “This Wish (Demo) [Bonus Track]”  Julia Michaels
 21. “At All Costs (Demo) [Bonus Track]”  Julia Michaels & Benjamin Rice
 22. “I'm A Star (Demo) [Bonus Track]”  Julia Michaels
 23. “Knowing What I Know Now (Demo) [Bonus Track]”  Julia Michaels

 ①が8〜19の12曲,③が1〜19の19曲,そして④のCD1が上記リストの全体という訳である。1〜7と8〜14が,劇中の歌唱曲7曲だ。邦題が分かるように,15のエンドソングは日本語を書いたが,これは英語歌唱曲であり,英題は19である。(Instrumental)と書かれているのは,オリジナルスコアの劇伴曲(④のDisc 2に収録)ではなく,歌唱曲のカラオケである。Demoというのは,劇中で歌われる7曲(重複があるので,実質は6曲)の作詞作曲を担当したJulia Michaels & Benjamin Riceが自ら試しに歌った文字通りのデモ版で,映画中では使われていない。②④にはその内4曲が収録されている。
 今回の音楽は,その6曲とエンドソングの計7曲をJulia Michaels & Benjamin Riceが書き,スコア35曲をDave Metzgerが担当した。J. Michaelsは,カリフォルニア出身のシンガーソングライターで,ディズニー映画には,『シュガー・ラッシュ:オンライン』(18年Web専用#6)のエンドソング“In This Place” を担当しただけに実績しかない。グラミー賞には9回ノミネートされているが,受賞はない。歌手としての実績もわずかで,アルバムはまだ1枚しかリリースしていない。今回の作曲も,Benjamin Riceの助けを借りている。一方,D. Metzgerのディズニーとの関わりは,作曲家として『ターザン2』(2005年)や『ブラザー・ベア2』程度だが,『ターザン』(99年11月号)『ボルト』(09年7月号)『アナと雪の女王』(14年3月号)『モアナと伝説の海』(17年3月号)『アナと雪の女王2』(19年11・12月号)等々の多数の作品でオーケストラを担当してきた音楽家のようだ。
 では,このサントラ曲の出来映えはと言えば,筆者の第一印象は映画自体と同様に「今イチ」であった。ただし,映画の75点ではなく,こちらは80点である。改めて聴き直したが,大きな欠点はない。最初の“ようこそ! ロサス王国へ (This Is The Thanks I Get?!)”は快適な導入曲であるし,映画本編の紹介記事にも書いたように,言葉を話せるようになった動物たちが歌う“誰もがスター! (I'm A Star)”も軽快な曲で,映像と見事にマッチしていた。それがなぜ「今イチ」なのかと言えば,劇中の代表曲“ウィッシュ〜この願い〜 ‘This Wish)”とエンドソングの“かけがえのない願い (A Wish Worth Making)”のいずれが主題歌扱いなのかは不明だが(両方が一致していることも多い),両方とも100周年を飾るには物足りなく感じたのである。
 それじゃ,どんなレベルを求めたかったのか。過去の数々の名曲があったことは言うまでもないので,いますぐに思い出す曲を列挙してみた。
 『白雪姫』(37)の“Heigh-Ho”,『シンデレラ』(50)の“Bibbidi-Bobbidi-Boo”,『メリー・ポピンズ』(64)の“Chim Chim Cher-ee” はもはや童謡としての地位を確立している。動物ものからは『ダンボ』(41)の“Baby Mine”,『わんわん物語』の“Bella Notte”が生まれ,ディズニープリンセスの主題歌としては,『白雪姫』の“Someday My Prince Will Come”,『シンデレラ』の“A Dream Is A Wish Your Heart Makes”,『眠れぬ森の美女』(59)の“Once Upon A Dream”は今も多数の歌手のカバーされ,ディズニー名曲集アルバムで再三登場する。そして,何といっても第二期黄金期の『美女と野獣』(91)の同名曲“Beauty And The Beast”,『アラジン』(92)の“A Whole New World”,『ライオン・キング』(94)の“Can You Feel The Love Tonight”の3連発が強烈だった。それぞれの実写リメイク映画で再利用されても,全く古さを感じさせなかった。その後の『ムーラン』(98)の“Reflection”,『塔の上のラプンツェル』(11年3月号)の“I See the Light”等も,水準以上の名曲である。
 本作の2曲も何度も聴く内に,上記に近い評価を得るのかも知れないが,100周年記念作の主題歌となると,もっとハイレベルを期待してしまった。『星に願いを (When You Wish Upon A Star)』は別格としても,『アナ雪』の“Let It Go”くらいのインパクトが欲しかった。そうならなかったのは,Julia Michaelsの起用のせいだと思う。“ウィッシュ〜この願い〜”はミュージカル舞台でなら,普通に通用するレベルだ。歌唱は,字幕版のAriana Deboseよりも,吹替版の生田絵梨花の方が優れていると感じた。曲としては,エンドソングの“かけがえのない願い”の方が出来が好いが,作曲者自身の歌唱力が弱過ぎる。これじゃ,Idina Menzelの“Let It Go”の圧倒的な歌唱の前には霞んでしまい,全く比較対象にならない。即ち,映画音楽の経験が浅く,歌手としてもランクが低いJulia Michaels 自身に歌わせたのが,完全に判断ミスだ。
 100周年記念であれば,なぜ輝かしい実績を誇る御大Allan Menkenに作曲を依頼し,もっとまともな歌手に歌わせなかったのだろう? ほぼ同時進行で実写版『リトル・マーメイド』での新曲追加があったからかも知れないが,長い時間かけて準備した100周年記念なら何とかなったはずだ。次善の選択として,『アナ雪』と『リメンバー・ミー』(18年3・4月号)で2度オスカーを得ているKristen Anderson-LopezとRobert Lopez夫妻の起用でも十分だった。エンドソングの歌唱には,過去に『美女と野獣』でCeline Dionを,『ライオン・キング』でElton Johnを起用したほどだから,ディズニーの知名度と財力をもってすれば,何とでもなったと思うのだが…。

()


Page Top