O plus E VFX映画時評 2023年6月号掲載

映画サウンドトラック盤ガイド


■「リトル・マーメイド(オリジナル・サウンドトラック)」
(Walt Disney Records)


英語版
日本語版
デジタル配信版

 映画本編は高評価しなかったのだが,そのサントラ盤はかなり出来がいい。ディズニー映画のサントラの中でもベスト3に入ると思う。
 デジタル配信/ストリーミングが主になり,CD発売はかなり限られるようになったが,このサントラ盤はCD国内販売があるというだけでなく,様々なフォーマットが用意されている。国内で入手できるだけでも下記がある。

 ①英語版 15曲収録[歌唱曲10曲,演奏曲5曲]
 ②日本語版 15曲収録[同上の日本語歌唱版]
 ③Deluxe Edition(輸入盤) 37曲収録[①英語版+スコア22曲]
 ④デラックス版(2枚組) 47曲収録[CD1: ②日本語版+スコア22曲,CD2: 英語歌10曲]
 ⑤デジタル配信版 26曲収録[②日本語版+英語歌10曲+韓国語歌1曲]

 英語版は並行輸入の国際盤CDではなく,国内盤扱いで販売されている。日本語版と同一価格ということは,(確認していないが)日本語のライナーノーツが付いているのだろう。これだけ用意するということは,ディズニー側もかなり自信をもっているに違いない。
 注意したいのは,89年アニメ版のサントラやブロードウエイ・ミュージカル版は,現在でもCD,MP3,ストリーミングのいずれでも入手できることだ。後者はともかく,前者はカタカナ表記のアルバム名も今回と全く同じで,ジャケットもかなり似ているので,買い間違えないようにしたい。発売元は,うっかり昔のアニメ版を買う顧客がかなりいることを,計算に入れているのだろうと思えるほどだ。
 CDをどれか1つ選ぶとすれば,やはりオリジナルキャストの①英語版だと思うので,そのトラックリストを挙げておく。
  1. “Triton’s Kingdom (Score)”  Alan Menken
  2. “Part Of Your World”★  Halle Bailey
  3. “Fathoms Bellow”★  Jonah Hauer-King, John Dagleish & Ensemble
  4. “Part Of Your World (Reprise)”★  Halle Bailey
  5. “Under The Sea”★  Daveed Diggs & Cast Disney
  6. “Wild Uncharted Waters”☆  Jonah Hauer-King
  7. “Poor Unfortunate Souls”★  Melissa McCarthy
  8. “For The First Time”☆  Halle Bailey
  9. “Kiss The Girl”★  Daveed Diggs, Awkwafina, Jacob & Ensemble
 10. “The Scuttlebutt”☆  Awkwafina & Daveed Diggs
 11. “Eric’s Decision (Score)”  Alan Menken
 12. “Vanessa’s Trick (Score)”  Alan Menken
 13. “Part Of Your World (Reprise II)”★  Halle Bailey
 14. “Kiss The Girl (Island Band Reprise) (Score)” ★  Alan Menken
 15. “Finale (Score)”  Alan Menken

 26. “Part Of Your World”(韓国語歌)★  Danielle

[注]★:前作で使われていた曲,☆:新曲

 89年アニメ版は,第62回アカデミー賞で,“Under The Sea”が主題歌賞,スコアも含め全曲を作曲したAlan Menkenが作曲賞と,オスカーをダブル受賞した。ディズニー・スタンダード曲となっている“Part Of Your World” “Kiss The Girl”も含め,アニメ版から5曲,計8バージョンが今回の実写映画でも継続利用されていた。前作と同じ,Alan Menken & Lin-Manuel Mirandaのコンビで,新しい歌唱曲が3曲作られている(オリジナルスコアは,すべてA. Menkenの作曲)。継続利用曲も,前作に比べて,今回の方が圧倒的に出来がいい。ディズニーアニメの主題歌は,名曲であっても,のっぺらした感じが否めなかったが,今回は全くそう感じない。録音技術の向上もあるが,ダイナミックでリズミカルな曲調に編曲されていて,パーカッションの利用も多くなっている。
 4曲歌っているアリエル役のHalle Baileyの歌唱力はさすがだ。グラミー賞に何度もノミネート経験がある歌手だけのことはある,今回の歌唱で受賞する可能性も十分ある。最もアリエル役に相応しい女性を選んだと言う製作陣の弁明も,歌唱力に関しては納得できる。アニメ版アリエルのイメージに近い白人女優を起用し,歌唱部分だけHalleに差替えていれば,無益な論争も生まなかったのにと思う(その方式の映画も多数あった)。中国や韓国で特に反対の声が多かったというが,それも理解できる。日本では字幕版の観客が相対的に多いが,この両国では映画上映は吹替版が大半なので,自国の声優&歌手に中国語/韓国語で歌わせるゆえ,アリエルのイメージを壊すHalle Baileyの起用は何のメリットもない訳である。Halle以外の歌唱曲では,映画本編の解説記事でも述べたように,“Under The Sea”と“The Scuttlebutt”が秀逸だ。曲のアレンジが,CGで描いた映像(カメラワークも含めて)に見事にマッチしていた。
 英語版を先に入手していて,その出来映えが素晴らしかったので,日本語版はついでに入手しておこうか程度の考えであったが,この日本版もいい出来だった。日本語吹替版は見ていないが,音源を聴く限り,こちらの方が本格的ミュージカル舞台を想像してしまう。吹替&歌唱に,安易に人気若手俳優や洋画の定番吹替声優を起用しなかったことが奏功していると感じた。アリエル(豊原江理佳),エリック王子(海宝直人),セバスチャン(高乃麗),スカットル(木村昴),アースラ(浦嶋りんこ)といったキャスティングで,1人も名前を知らなかったが,豊原江理佳,海宝直人はミュージカル俳優,高乃麗は声優&ジャズシンガー,木村昴は声優&ラッパー,浦嶋りんこは歌手&舞台女優なのである。
 もう1点,書き添えておきたいことがある。⑤デジタル配信版では,日本語と英語の歌唱を聴き比べられるだけでなく,(なぜか)ボーナストラックとして主題歌の韓国語版が入っている。この歌唱も素晴らしく,聴き惚れていて,思わず韓国語であることを忘れていた。会話だとあれだけ汚い韓国語が,名曲を本格派の歌手が歌うとこうなるのかと感心した。購入するなら,デジタル配信版がお徳用だ。この映画がDisney+で配信されるようになったら,世界の各国語で聴き比べてみたい。

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