O plus E VFX映画時評 2023年12月号掲載
■「Wonka (Original Motion Picture Soundtrack)」
(WaterTower Music)
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のサントラ盤は,CD発売があり,輸入盤であるが,国内で購入できる。勿論,もはや主流のMP3データでの購入やストリーミングサービスも利用できる。
少し注意を要するのは,この邦題で検索しても,輸入盤が出て来ないことだ。正式名称は,表記であり,映画の原題が単純な『Wonka』であることに留意されたい。ただし,Amazon.co.jpでは,「Wonka (Original Soundtrack)」と略している。
さらに面倒なことに,うっかり「Willy Wonka & The Chocolate Factory (Soundtrack)」で検索してしまうと,別のCDが出てきてしまう。これは,ジーン・ワイルダー主演の『夢のチョコレート工場』(71)のサントラ盤であり,同作の原題がこの題名であったためだ。混乱を招きかねないので,少し整理しておくと,以下になる。
●原作本の書名:Charlie and the Chocolate Factory(ロアルト・ダール著)
上記の邦訳本:チョコレート工場の秘密
●1971年の映画:Willy Wonka & The Chocolate Factory(ジーン・ワイルダー主演)
上記の邦題 :夢のチョコレート工場(日本では劇場未公開)
●2005年の映画:Charlie and the Chocolate Factory(ジョニー・デップ主演)
上記の邦題 :チャーリーとチョコレート工場(05年9月号)
●2023年の映画;Wonka(ティモシー・シャラメ主演)
上記の邦題 :ウォンカとチョコレート工場
さて,今回のサントラ盤は,以下の24曲収録である。残念ながら,日本語吹替での歌唱曲を収録したサントラ盤は発売されていない。
1. “Pure Imagination (Opening Titles Version)” Joby Talbot
2. “A Hatful Of Dreams”☆ Timothée Chalamet & The Cast Of Wonka
3. “Welcome To Scrubbit's” Joby Talbo
4. “You've Never Had Chocolate Like This (Hoverchocs)”☆ Timothée Chalamett
5. “Flying Chocolatiers” Joby Talbot
6. “Scrub Scrub”☆ The Cast Of Wonka
7. “Wonka's Case” Joby Talbot”
8. “Sweet Tooth”☆ Paterson Joseph, Matt Lucas, Mathew Baynton & Keegan-Michael Key
9. “Willy And Noodle At The Zoo” Joby Talbot
10. “For A Moment”☆ Calah Lane & Timothée Chalame
11. “The Letter 'A'” Joby Talbot
12. “Clock Tower” Joby Talbot
13. “You've Never Had Chocolate Like This”☆ Timothée Chalamet & The Cast Of Wonka
14. “Oompa Loompa”☆ Hugh Grant & Timothée Chalamet
15. “A World Of Your Own”☆ Timothée Chalamet & The Cast Of Wonka
16. “Sorry, Noodle”☆ Timothée Chalamet
17. “Mamma's Secret” Joby Talbot
18. “Pure Imagination (from “Wonka”)”☆ Timothée Chalamet
19. “Oompa Loompa (Reprise)”☆ Hugh Grant
20. “500 Monks, 1 Giraffe” Joby Talbot
21. “Death By Chocolate” Joby Talbot
22. “The Oompa Loompa To The Rescue” Joby Talbot
23. “Noodle Gives Affable The Ledger” Joby Talbot
24. “Chocolate Fountain” Joby Talbot
☆:歌唱曲
きちんと確認していないが,映画の中でもこの順に使われていたと思われる。歌入りの曲は☆印の11曲で,内7曲が本作のための新曲である。北アイルランドのバロックポップ・バンド「The Divine Comedy」のリーダーで,シンガーソングライターのNeil Hannonが作曲し,一部の作詞には監督のPaul Kingと脚本担当のSimon Farnabyも参加している。他の13曲は,表記通りJoby Talbotが作曲したオリジナルスコア(劇伴曲)だ。TV番組,ダンス,舞台劇等の音楽等,幅広く手がける器用な作曲家のようで,映画は『銀河ヒッチハイク・ガイド』(05年9月号)『SING/シング』(17年3月号)『SING/シング:ネクストステージ』(22年3・4月号)等のスコアを担当した実績がある。
1, 18の“Pure Imagination”と14, 19の“Oompa Loompa”は,1971年の映画からの再利用である。主演のティモシー・シャラメが歌う18曲目に,わざわざ(from “Wonka”)が付されているのは,デジタルデータで1曲だけ購入する場合に,旧作でジーン・ワイルダーが歌ったものと間違えないようにとの配慮なのだろう。他に,4, 13で“You've Never Had Chocolate Like This”が2度歌われているので,新曲の曲数としては7曲になる。その大半は,いかにもミュージカルの劇中歌で,歌詞が大きな意味をもっている。すべて劇中に登場した俳優自身が歌っている。ティモシー・シャラメにとっては,これが歌手デビューだそうだ。
主題歌扱いなのは,15曲目の“A World Of Your Own”で,なかなかの名曲だ。残念ながら,ゴールデングローブ賞の主題歌賞部門にはノミネートされなかったが,他の映画祭や音楽賞の候補となり,受賞しても不思議ではない出来映えだと思う。
■「The Hunger Games: The Ballad Of Songbirds & Snakes (Music From & Inspired By)」
(Geffen Records)
こちらもCD発売があり,輸入盤を日本国内で購入できる。映画の邦題が『ハンガー・ゲーム0』と短く,原題が長いのは上記と真逆だ。前シリーズ4作もサントラ盤が発売されているが,上記の長い題名を入れれば,旧作と間違えることはないだろう。映画館上映は字幕版だけなので,日本語吹替版の有無を気にする必要もない。むしろ注意すべきは,歌唱曲中心で下記の17曲収録の主たるサントラ盤に加えて,歌なし劇伴曲40曲のスコア盤(CDは2枚組,各20曲)もあることだ。デジタル購入なら間違えないだろうが,両者のアルバムジャケットが似ているので,店頭で中身を確認できずにCD購入する時に要注意である。
1. “Can’t Catch Me Now”★ Olivia Rodrigo
2. “The Hanging Tree (Lucy Gray's version)”★ Rachel Zegler
3. “Wool” Flatland Cavalry
4. “Nothing You Can Take From Me” Rachel Zegler
5. “The Garden” Sierra Ferrell
6. “The Ballad Of Lucy Gray Baird” Rachel Zegler
7. “Bury Me Beneath The Willow” Molly Tuttle”
8. “The Old Therebefore / Singing At Snakes” Rachel Zegler & James Newton Howard
9. “Burn Me Once” Bella White
10. “District 12 Stomp” The Covey Band
11. “Nothing You Can Take From Me” Rachel Zegler & The Covey Band
12. “Cabin Song” Billy Strings
13. “Lucy Gray (Part 1)” Rachel Zegler
14. “Pure As The Driven Snow” Rachel Zegler & The Covey Band
15. “Winter's Come And Gone” Charles Wesley Godwin
16. “Keep On The Sunny Side” Josie Hope Hall & The Covey Band
17. “Lucy Gray (Part 2)” Rachel Zegler
★:先行シングルカット発売
主人公のルーシー・グレイ・ベアードがバンドのメインボーカルであり,ハンガー・ゲームを戦う上での戦力が「歌の力」であるから,サントラ盤製作にも力が入っているし,完成度も前4作よりは上だ。ただし,この17曲の全曲が映画で使われたのではないようだ。「Inspired By」とあるから,この映画を機に作られた曲で,単純な題名の3, 5, 7, 9, 12がそれに当たると思われる。長くなるので逐一記さなかったが,正式には全曲の題名に(from The Hunger Games: The Ballad of Songbirds & Snakes)が付されている。おそらく,これも1曲ずつ購入する時,このアルバムからのものであることを識別できるようにとの配慮からだろう。なぜ,上記の順に並んでいるのか不明だが,劇中使用曲と混在させて,アルバムとして多彩に見えるようにとの配慮かもしれない。
他は映画中での利用曲だが,最初の2曲がデジタル配信で先行発売されていた。2曲目の“The Hanging Tree”は,第3作の『ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス』(15)で主人公のカットニス(ジェニファー・ローレンス)が歌っていたテーマ曲である。ルーシー・グレイ役のRachel Zeglerにも歌わせ,このアルバムでは(Lucy Gray's version)を付して,シリーズとしての継続性を強調している。
続いてシングルカットされたのは,1曲目の“Can’t Catch Me Now”で,シンガーソングライターのOlivia Rodrigoが作曲し,自ら歌っている。子役時代から活躍していた女優でまだ20歳だが,最近歌手としての活動に力を入れていて,既にアルバム2枚を出している。彼女のプロモーションを兼ねての起用と思われる。本作の一推しはこの曲で,主題歌扱いである。既に「Hollywood Music in Media Award for Best Original Song in a Sci-Fi, Fantasy or Horror Film」を受賞している。
厳密に言えば,17曲中で10曲目の“District 12 Stomp”だけが,歌なしの器楽曲であった。ルーシー・グレイが所属する旅回りバンドの演奏場面で使われていたので,スコア盤には入れていない。他のRachel Zeglerが歌う歌唱曲の大半は,音楽プロデューサーDave Cobbの担当で,作詞には原作者のSuzanne Collinsの名前もクレジットされている。原作小説中でルーシー・グレイが歌う曲の歌詞まで書かれていたようなので,それに基づいて作られていると考えられる。特筆すべきは,劇中歌はアフレコではなく,Rachel Zeglerの希望ですべて生録り(撮影現場でのライブ録音)したそうだ。それがそのままサントラ盤収録できるくらいであるから,かなりの歌唱力である。
映画は長い紹介記事を書いたように,CG/VFXに注意しながら,メモを取りながら試写室でじっくり観た。その上に,後日,オンライン試写で細部を点検した。ビジュアル面だけに気を取られていたこともあるが,このサントラ盤を聴いて,全く印象が違った。映画はバトル場面が好きになれず,挿入曲も継続曲の2や終盤何度も歌われる14と17の“Lucy Gray”が重苦しい曲であったのに,このアルバムの全体的な印象は明るいカントリーミュージックであったことだ。筆者はカントリー好きであるのに,映画ではそれに気づかなかった。場所は特定されていないが,第12地区に都市はあるものの,大半は森と丘陵地帯であり,カントリーソングがよく似合う。それで,上記の数曲以外はカントリー色を強め,さらに未使用の5曲を追加して,カントリーアルバムとしての魅力をアピールしている。果たせるかな,米国のビルボード誌のランキングでは,全体のTop 200での68位に対して,カントリーアルバムでは15位,サントラアルバムでは3位にランクインしている。
スコア盤にも言及しておこう。過去作と同様,James Newton Howardが担当で,40曲すべてを作曲している。グラミー賞,エミー賞の常連で,映画は100本以上を担当し,アカデミー賞作曲賞部門には9回ノミネートというベテラン(現在72歳)だ。このスコア盤では,40曲中の12曲で,中国人ピアニストYuja Wang(王羽佳)が演奏し,内3曲はピアノソロである。
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