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O plus E VFX映画時評 2023年3月号
 
映画サウンドトラック盤ガイド
   
 

■「シング・フォー・ミー,ライル - オリジナル・サウンドトラック」
(Universal Music)

   
 
特別企画の国内盤 CDはない国際版
 
 
  当欄を「サウンドトラック盤ガイド」と名付けたように,かつてはCD購入が普通だったが,デジタルデータで入手するケースがどんどん増えた。最近は個別購入することなく,月額契約のストリーミングサービスで聴くファンが急増している。洋楽の場合,特にそれが顕著だ。本作は珍しくカタカナ表記だったので,国内版があり,日本語吹替の曲が入っているのかと思ったが,そうではなかった。何と,日本だけの特別企画で,サントラ盤CDが発売されるのだという。当然,国際版のデータ・ダウンロードより,価格はぐっと高い。その分,日本語での曲目解説や歌詞の対訳もついているが,期待したボーナストラックはなかった。即ち,内容的には国際版と全く同じで,下記の15曲収録である。映画の日本語吹替版では,ライル役の大泉洋が歌うことをセールスポイントにしていたのだから,何曲かはボーナス曲として入れて欲しかったところだ。

  1. “Top Of The World” ★  Shawn Mendes
  2. “I Like It Like That”  Pete Rodriguez
  3. “Take A Look At Us Now” ★  Javier Bardem & Shawn Mendes
  4. “Heartbeat” ★  Shawn Mendes
  5. “Bye Bye Bye”  Claire Rosinkranz
  6. “Sir Duke”  Stevie Wonder
  7. “Rip Up The Recipe” ★  Shawn Mendes & Constance Wu
  8. “We Made It”  Anthony Ramos
  9. “Steppin' Out”  The Gap Band
 10. “Take A Look At Us Now (Reprise)” ★   Javier Bardem & Shawn Mendes
 11. “Express Yourself”  Charles Wright & The Watts 103rd Street Rhythm Band
 12. “Take A Look At Us Now (Lyle Reprise)” ★   Shawn Mendes
 13. “Carried Away”  Shawn Mendes ★
 14. “Take A Look At Us Now (Finale)” ★
         Shawn Mendes & Winslow Fegley & Lyle, Lyle Crocodile Ensemble
 15. “Crocodile Rock”  Elton John

 この曲順は,映画中での登場順ではない。★印がこの映画のために用意されたオリジナル曲だが,“Take A Look At Us Now”が4回登場するので,実質は5曲である。この中で,“Heartbeat”はライル役で歌唱するShawn Mendes自身が作曲したナンバーで,エンドロールの2曲目に流れる。残り4曲は,音楽担当のBenj PasekとJustin Paulのコンビが書き下ろした新曲だ。彼らは,『ラ・ラ・ランド』(17年3月号)では作詞に徹し,作曲はJustin Hurwitzに任せていたが,『グレイテスト・ショーマン』(18年2月号)では全曲を作詞作曲している。『ディア・エヴァン・ハンセン』(21年11・12月号)は,元のミュージカルの全曲が彼らの作品で,トニー賞のBest Original Scoreを受賞している。
 この音楽センス抜群のコンビの作は,本作ではたった4曲だが,登場場面に応じた見事な曲作りとアレンジだと感じた。テーマ曲とも言える“Take A Look At Us Now”は,基本はライルとヘクターのデュエット曲だが,ライルにソロで歌わせたり,華やかなフィナーレ用にも使っている。“Top Of The World”は,映画本編の解説でも触れたように,ライルが屋上で歌うソロナンバーだ。一番楽しくリズミカルなのは“Rip Up The Recipe”で,キッチンでママと料理を作りながら,歌って踊るデュエット曲だ。一方,“Carried Away”は動物園に入れられ,ジョシュと会えなくなったライルが切々と歌うバラードである。
 アルバムの残り7曲は,現代ポップスの中から選ばれた名曲だ。このアルバムでは原曲が収録されているが,劇中ではヘクターが残していった音楽プレーヤーで流れる曲を,ライルが耳を傾け,口ずさんだりしている。Stevie Wonderのヒット曲“愛しのデューク(Sir Duke)”をワニに歌わせるとは,粋な演出である。そして何よりも嬉しかったのは,Elton Johnの“Crocodile Rock”がエンドロールの冒頭で流れたことだ。誰もが知っている1972年の大ヒット曲だが,メロディもテンポも明るさも,まるでこの映画のために作られたようなハマり方だった。オリジナル曲でなく,この曲を配したというのが心憎い。ライルでなくても踊り出したくなる。
 
   
 

■「Lady Day At Emerson's Bar & Grill (Original Broadway Cast Recording)」
(PS Classics)

   
 
 
 
  映画のポスターとこのアルバムのジャケットでのAudra McDonaldのポーズや衣装が同じであったので,てっきりこれは映画『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』のサントラ盤アルバムだと思っていたのだが,アルバム名には定番の(Original Motion Picture Soundtrack)が入っていない。映画は,ブロードウェイの舞台をライヴ撮影したものでなく,2016年にニューオーリンズの「Café Brasil」を貸し切って,有観客での一度限りの公演を行ない,その模様を撮影したものである。よって, (Original Broadway Cast Recording)は,この映画撮影のためにブロードウェイ公演時のメンバーを帯同したことを指すのかと思ったが,どうやらそうでもないらしい。現在CDや音楽配信で入手できるこのアルバムは,2014年7月に発売されたものとのことだ。即ち,映画撮影より前に,アルバム名通りにブロードウェイの舞台の音を収録したもので,このアルバムは厳密な意味でのサントラ盤ではない。だからと言って,クオリティが低い訳でも,映画と無縁でもなく,十分に映画のエッセンスを堪能できるアルバムである。
「Lady Day at Emerson's Bar & Grill」はミュージカルの題名であり,映画の原題でもある。愛称の「Lady Day」では日本人に通じないので,邦題は「ビリー・ホリデイ物語」を単純に加えただけのことある。「Emerson's Bar & Grill」は,Billie Holiday自身が最後に行った公演の場所であり,それをなるべく忠実に再現しようとしたという点では,ミュージカル舞台もこの映画も同じ趣旨で作られている。
 このアルバムの音楽の収録は,2014年5月24〜27日に行われ,それらをコンパイルしている。歌の間にBillie Holiday役のA. McDonaldのかなり長い語りが入るが,それを除くと,全27件の内,歌唱曲のセットリストは以下の14曲である(CDでは2枚組)。

1- 2. “I Wonder Where Our Love Has Gone”
1- 3. “When A Woman Loves A Man”
1- 6. “What A Little Moonlight Could Do”
1- 8. “Crazy He Calls Me”
1-10. “Gimme A Pigfoot (And A Bottle Of Beer) ”
1-12. “Baby Doll”
1-14. “God Bless The Child”
2- 2. “Foolin' Myself/Somebody's On My Mind”
2- 3. “Easy Living”
2- 5. “Strange Fruit”
2- 7. “Blues Break”
2- 9. “T'Aint Nobody's Business If I Do”
2-12. “Don't Explain/What A Little Moonlight Can Do (Reprise) ”
2-13. “Deep Song”

 全89分のアルバムの内,この14曲の合計時間約39分で,いかにトーク部分が長かったかも分かる。歌唱曲は,Billie Holiday自身のヒット曲というより,当時のジャズのスタンダード・ナンバーのようだ。では,ブロードウェイ舞台と映画で,歌った曲順や途中に挟んだ語りは同じかと言えば,映画の中身を再点検した訳ではないので分からないが,恐らく同じだろう。映画の上映時間が90分であるから,ほぼ同じ長さだ(エンドロールがある分,映画がやや短い)。何度も舞台で演じたミュージカルであるので,同じように,正確に演じることが出来たに違いない。
 ブロードウェイの舞台でなく,なぜ小さな店で特別な公演を行なって映画にしたのかと言えば,Billie Holidayになり切ったA. McDonaldが観客に語りかける姿を,Billie Holidayの伝説の公演に極力近づけたかったのだろう。即ち,音の違いより,映像の違いを重視したである。それでも,映画の方が音にもライヴ感があり,メリハリもあるように感じた。ブロードウェイ舞台の収録ではマイクは固定にあるのに対して,映画撮影時にはカメラを少し寄せたり,ズームインしたり,複数台を切り替えたりしていたので,その映像に合わせた音量にしてあった。その分,音も1人称的な臨場感を感じたのだろう。しかし,映画撮影時の同時収録音からサントラ盤アルバムを作るなら,やはり音量が均一になるよう調整したであろうから,このアルバムと大きな違いはない。その意味では,このアルバムは実質的に映画のサントラ盤に近いので,別途サントラ盤を作ることはしなかったのだろう。
 では,上記のリストとBillie Holidayの最終公演が同じセットリストかと言えば,これも分からない。ミュージカル化する時点で,彼女のトークは少し誇張し,ドラマチックにした可能性はあるが,歌った曲目はおそらく同じであると思われる。
 ミュージカル舞台はトニー賞の演劇主演女優賞と演劇音響デザイン賞を受賞している。映画中の(即ち,ライヴ公演中の)Audra McDonaldの熱演トーク,熱唱を思い出しながら聴くと,そのライヴパフォーマンスが目に浮かんでくるようなアルバムである。
 
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