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O plus E VFX映画時評 2023年3月号
 
映画サウンドトラック盤ガイド
   
 

■「Everything Everywhere All At Once (Original Motion Picture Soundtrack)」
(A24 Music)

   
 
 
 
  映画本編は公開前に紹介したから,それからかなり日が経ってしまった。サントラ・アルバムの紹介をサボっていたので,遅ればせながら触れておきたい。アカデミー賞で『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は,最多の10部門,11ノミネートを果たし,作品賞,監督賞を含む最多7部門でオスカーを獲得した。受賞はしなかったものの,作曲賞,主題歌賞の両部門にノミネートされた唯一の作品であったので,サントラ・アルバムも紹介しておくことにしよう。
 このアルバムは49曲も収録されているので,全部の曲名は書かない。演奏時間は1時間55分もある。映画の上映時間は2時間20分であったから,その殆どのシーンで流れていた音楽を収録している訳である。それも,ノッペラとした静かな劇伴音楽の連続ではなく,かなり個性的で,バラエティに富むオリジナルスコアである。
 音楽担当で全曲を作曲したのは,Son Lux。いや,40曲目にドビュッシーの“Clair de Lune” (月の光)が入っているから,全曲ではない。Son Luxは1人の作曲家名ではなく,Ryan Lott,Rafiq Bhatia,Ian Changの3人で構成される米国のバンド名だ。全員に作曲能力があり,楽器はそれぞれキーボード,ギター,ドラムを担当している。何曲かにゲストアーティストを迎えながら,全曲で自分たちも演奏をしている。ジャンル的には「実験音楽 (Experimental Music)」と呼ばれる現代音楽の新潮流らしい。筆者は,この音楽ジャンルを全く知らなかった。「不確定性の音楽」「偶然性の音楽」などという補足説明を聞くと,ますます分からなくなる。ある種の「前衛音楽」であることは確かなようだ。
 改めてアルバム全曲を通して聴いてみたが,確かに多彩で,「不確実性」というのも分かる気がする。いかにも「前衛音楽」らしい響きの曲もあれば,流れるような美しい曲もある。多数のマルチバースで,主要登場人物も全く違った個性で登場する映画だけに,映画の多彩さがこの「実験音楽」に見事にフィットしている。いや,脚本賞,編集賞を受賞した類い稀なる複雑さ,新しさをもった映画にフィットする音楽を,Son Luxが作り上げたと言うべきだろう。作曲賞部門にノミネートされたというのは,選考委員会の目が高いとも言えるし,万人受けする音楽ではないので,受賞に至らなかったのも納得できる。
 人の話し声やスキャット風の言葉が入った曲もいくつかあるが,純然たる歌唱曲は2曲で,45曲目の“This Is A Life”と46曲目の“Fence”だ。アルバム発売に先立ち,この2曲がそれぞれシングルカットされて発売されている。Son Luxの演奏をバックに“Fence”を歌っているのは,若手黒人男性シンガーソングライターのMoses Sumneyで,彼のハイトーン・ボイスが電子音楽とマッチしている美しい曲だ。主題歌賞部門にノミネートされた“This Is A Life”もシンプルな美しい曲で,MitskiとDavid Byrneがデュエットで歌っている。David Byrneはスコットランド生まれのベテラン歌手(現在70歳),Mitskiは日米混血の女性シンガーソングライターで,1990年三重県生まれだそうだ。父親が米国人,母親が日本人で,正式名はMitski Miyawakiだから,母親の姓を名乗っているようだ。アルバムの1曲目に“This Is A Life (Extended)”があって,いかにも前衛音楽風の電子音が付加されているが,筆者は素朴な45曲目の通常版の方が好ましく感じた。
 
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