head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
title
 
O plus E誌 2019年7・8月号掲載
 
 
アルキメデスの大戦』
(東宝配給 )
      (C)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会
(C)三田紀房/講談社

 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月26日より全国東宝系にてロードショー予定]   2019年6月26日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  久々の山崎VFX大作は,登場人物が魅力的で爽快  
  O plus E誌上の当欄のトップ記事に邦画が登場するのは久々だ。元々それに値するのは,常に「脚本・監督・VFX」との冠がつく山崎貴監督の作品しかないが,年末公開恒例の山崎作品が,なぜか半年遅れの夏休み映画になったので,まさに久々にお目にかかる。
 原作は週刊ヤングマガジンに連載中の三田紀房作のコミックで,戦艦大和の建造物語である。単行本は現在まで15巻発行されているが,この映画では3巻目の半ばまでの物語が実写化されている。原作はまだ完結していないので,大和も建造されていないが,映画では完成した大和が航行する雄姿(写真1)や,九州坊ノ岬沖で撃沈されるシーンも描かれている,予告編に登場していたシーンだけでも,前号で酷評した『空母いぶき』(19年5・6月号)のVFXよりも格段に出来が良い。ワクワクする思いで,久々の山崎VFX大作に臨んだ次第である。
 
 
 
 
 
写真1 艦尾方向から捉えたCG製大和の雄姿。いい出来だ。
 
 
  時代は昭和8年(1933年),帝国海軍内部の戦艦建造計画をめぐる方向性の対立から始まる。「これからの戦争は航空機が主体で,巨大戦艦は不要になる」とする山本五十六少将(舘ひろし)は空母建造計画を唱え,平山忠道造船中将(田中泯)の巨大戦艦建造計画に反対する。この計画を阻止するために招かれたのが,東京帝国大学数学科を中退したばかりの天才数学者・櫂直<かいただし>(菅田将暉)で,いきなり海軍主計少佐に任じられる。原作では,結局は戦艦大和建造に関わらざるを得なくなるのだが,その辺りをどう処理しているのかも見どころであった。
 菅田将暉が演じる櫂少佐が,頗る魅力的な人物だった。剽軽な演技と鋭い舌鋒のバランスが絶妙で,原作よりも眼光が鋭い。原作は昭和史をしっかり勉強し,太平洋戦争に至る国際政治情勢や陸海軍内部の権力抗争までも把握した上での壮大な物語となっている。ところが,ストーリーテリングは卓越しているのに,絵が下手くそ過ぎる。戦艦や戦闘機の描写は丁寧だが,人物の表情が乏しい。ここに顔面表情演技が豊かな菅田将暉を起用したのは大正解だ。世話役の田中正二郎少尉(柄本佑)とのコンビも絶妙だ(もっとも,ルックス的には,柄本佑は敵方の高任中尉の方が原作に忠実なのだが…)。
 他のキャスティングも秀逸だ。ヒロインの浜辺美波は,原作よりも可憐で可愛く,いかにも当時の財閥令嬢だ。小林克也,國村隼,橋爪功,小日向文世ら軍幹部も原作の平板な描写でなく,個々の俳優の個性を活かしている。その一方で,田中泯の平山中将と笑福亭鶴瓶の大里造船社長は原作のイメージ通りだった。とりわけ笑ったのは,大阪弁を話す社長役の鶴瓶だ。原作自体の絵が彼をモデルにしていて,会社名も「鶴辺造船」である。さすがに,まんま過ぎるので社名だけは変えたのだろう。
 以下は,当欄の視点からの感想と評価である。
 ■ 山崎監督作品で戦艦大和となると,既に『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10年12月号)があった。松本零士の「宇宙戦艦ヤマト」の実写(+CG)映画化であるから,ヤマトのCGモデルはさほど精緻である必要はなかったが,かなりの出来映えだった。この時の幾何形状モデルが残っているなら,今回もっとリアルな大和を描くのに役立ったことだろう。加えて,大掛かりな戦争シーンは『永遠の0 』(14年1月号)で経験済みである。戦艦に迫る戦闘機,爆弾の投下には既視感があるが,さらに腕は上がっているなと感じさせる(写真2)。『空母いぶき』が余りにも酷かったことを再確認した。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 戦艦めがけて接近する戦闘機や投下する爆弾の描写は『永遠の0』で経験済み
 
 
  ■ 大量の爆弾を投下され,船体が傾き,やがて海中に没するシーンは,冒頭の5分間に集中している。この傾いた艦上の描写は見事だった。カメラを引いた構図での甲板上の乗組員たちはCGで描き(写真3),アップのシーンでは平らな甲板のセットが傾いたように見せる工夫をしているようだ。艦橋や甲板から海面に乗組員が落下するシーンは,『タイタニック』(98年2月号)を彷彿とさせる。勿論,当時からはMoCap技術が進歩しているので,落下してバウンドするパターンは複雑化している(写真4)。圧巻は大和が転覆し,上下逆になり,海中に没するシーンだ(写真5)。『タイタニック』は船体が二つ折になり,直立して没するだけだったから,VFX担当者は上記のシーンを嬉々として描いたことだろう。
 
 
 
 
 
写真3 傾く戦艦大和の甲板上や黒煙も丁寧に描写
 
 
 
 
 
 
 
写真4 (上)傾いた甲板につかまる人間は実際に傾けてMoCapデータを計測,
(下)落下する乗組員は『タイタニック』風の演出
 
 
 
 
 
 
 
写真5 転覆して上下逆になり,海中に没した大和の光景は,これまで見たこともない映像
(C)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会(C)三田紀房/講談社
 
 
  ■ 他ではVFXの出番はさほど多くなかった。それでも,戦艦長門もしっかり描かれていたし,大阪への往復の機関車も見事な出来だった。東京,大阪の戦前の街並みは当然CGだろうが,海軍省本部の建物は現在も霞ヶ関に実在する赤レンガ棟(法務省・旧本館)ではないかと推察する。CG/VFXの分量はハリウッド大作に敵わないが,驚くべきは上記を成し遂げた白組の担当者の数だ。エンドロールで数えたところ,僅か29名だった。山崎監督と渋谷VFXディレクターを入れても31人に過ぎない。ハリウッドとは1桁以上違う。作業効率が凄い。
 ■ 新型戦艦計画決定会議で,櫂少佐が黒板に複雑な数式を書き,反対勢力を論破するシーンは痛快だ。あれだけの数式を暗記した上,スラスラ板書できる能力に感心した。最近の講義ではPowerPoint使用が多いため,教員経験が浅い筆者には,あれだけの板書力はない。
 
 
  ()
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next