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O plus E誌 2018年2月号掲載
 
 
purasu
ダークタワー』
(コロンビア映画& MRC/SPE配給)
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月27日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2018年1月15日 GAGA試写室(大阪)
       
   
 
ジオストーム』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月19日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2017年12月19日 GAGA試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  応援団としてスポットライトを当てたい2本  
  正月興行の大作とゴールデングローブ賞受賞作,アカデミー賞ノミネート作等に挟まれて,注目を集めにくいのが,1月後半公開の映画だ。ましてや,欧米での批評家の評価が高くない映画となると,ほとんど報道されず,映画ファンに一瞥もされないことがある。
 そんな中で,せめてCG/VFXで頑張っている作品に,応援団としてスポットライトを当てるのが当欄の役目だ。この2本は,まさにその類いの映画である。
 
 
  S・キングのライフワークのダーク・ファンタジー  
  モダンホラーの大家スティーヴン・キング作品の映画化に関しては,『IT/イット “それ”が見えたら,終わり。』(17年11月号)で述べたばかりだが,欧米では本作の方が先に映画化され,昨年8月に公開されている。
 題名通りのダーク・ファンタジーで,『ダーク…』なる作品も少なくないので,インパクトが小さく,印象にも残りにくい。ところが,原作は1982年から2004年の20年以上かけて発行された全7巻のシリーズで,著者自身が自らのライフワークと称している。キングの他作品ともリンクする母体であり,英国幻想文学大賞も受賞している。それだけの大作の映画化なら,かなりの長尺だろうと想像したが,上映時間はたった95分だった。
 少年ジェイク(トム・テイラー)が見る夢では,世界の支柱となる大きなタワー(写真1)があり,その塔を巡ってガンスリンガー(拳銃使い)のローランド(イドリス・エルバ)と黒衣の男ウォルター(マシュー・マコノヒー)が闘っていた。やがて,この夢の中間世界が現実世界と繋がっていることが判明し,ジェイクは彼らの闘いに巻き込まれる。外宇宙の魔物から世界を保護している暗黒の塔(写真2)の崩壊を企てるウォルターは,塔を破壊する力をもつ唯一の少年がジェイクであることを突き止め,現実世界に出現し,幻術を使ってジェイクを追いつめる……。
 
 
 
 
 
写真1 ジェイクの夢に登場する高いタワー
 
 
 
 
 
写真2 タワーは様相を変え,ぐっとダークに
 
 
  試写に臨む前に少し原作小説の骨格を予習したのだが,壮大な世界観をもつ幻想的な物語であった。何かに似ていると思ったら,J・R・R・トールキンの「指輪物語」の影響を受けたというではないか。なるほど,上記の3人の位置づけは,ほぼフロド,ガンダルフ,サウロンだと考えればいい訳だ。「中つ国 (Middle-Earth)」と「中間世界 (Mid-World)」も,何やら似ている。
 監督は,デンマーク出身のニコライ・アーセル。少年時代にこの物語を読み,自らの手で映画化すると心に決めていたという。であれば,長年温めてきた映像化のビジョンを見事に具現化してくれると期待したのだが,残念ながら,素直に溶け込める映画ではなかった。以下,順を追って,当欄の視点からその原因を考えてみよう。
 ■ いきなり目つきの悪い,首に継ぎ目のあるダークな人物が登場する。大きな建物のある奇妙な世界へと移り,ミサイルのような兵器でタワーが破壊される。これはジェイクの悪夢なのだが,もうここまででCGパワーは全開だ。やがてジェイクは,現実のNYの街にある廃屋内で,夢の中で見た荒廃した「中間世界」に繋がっているポータルを発見する(写真3)。砂塵が舞い,奇妙な獣も登場するディストピアの描写(写真4)にもCG/VFXは多用されているが,それが何なのかよく分からない。
 
 
 
 
 
写真3 ポータルを抜けると悪夢で見た中間世界が
 
 
 
 
 
写真4 なるほど,こんなのが出て来れば,そりゃ悪夢だ
 
 
  ■ 映画の中盤は,ローランドがジェイクを守ろうとし,ウォルターと彼が送り込んだ追跡班との攻防を中心に物語が展開する。テンポはいいのだが,全体像が掴みにくい。ローランドが「最後のガンスリンガー」と言われる所以,魔道士ウォルターの魔力の源泉,ジェイクとローランドがテレパシーで交信できること等も,余り説明がない。映像的には盛り沢山だが,これじゃまるで大河ドラマの総集編だ。原作を細部までよく知っている監督が楽しんで作ったかのように思えた。
 ■ それでも,ローランドとウォルターのラスト・バトルは見ものだった。物語は正しく理解できなくても,このアクションデザインは十分楽しめる。ローランドの銃から出る火炎(写真5)やガンベルトの銃弾(写真6)までCGで描いているようだ。ウォルターの魔法パワー(写真7)も,その他の多彩なバトル(写真8)も,VFXの産物で,ビジュアル的には高水準だ。主担当はMPCで,他にRise, BUF等数社が多彩な技を駆使している。このキングの代表作の映画化は,95分の短尺でなく,3部作でじっくり語るべきだと感じた。いずれ再映画化されることを期待しておきたい。
 
 
 
 
 
写真5 二丁拳銃のからの火炎はCGの描き加え
 
 
 
 
 
写真6 この銃弾までCGで描いているとは思わなかった
 
 
 
 
 
写真7 ローランドのガンに対して,ウォルターは魔力で対抗
 
 
 
 
 
写真8 このジャンプから始まる終盤のアクションシーンは出色
 
 
  お馴染みのCGで描く災害映画だが,少し工夫がある  
   異常気象による世界各地での巨大災害,加えて監督がディーン・デブリンと聞くと,「またか! 懲りもせず,ワンパターンの災害パニック映画とは…」と感じてしまった。これが初監督作品なのだが,ローランド・エメリッヒとのコンビで『インデペンデンス・デイ』(96)の大ヒットを飛ばし,その後も『GODZILLA』(98)『スパイダーパニック!』(02年12月号) 等に共同で製作・脚本を担当して来た人物であり,はっきりその名前を覚えている。そのため,エメリッヒ作品『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)や『2012』(09年12月号)にはD・デブリン氏は参加していないのに,また同工異曲の映画を作ったのかと思った訳である。
 少し援護射撃しておこう。世界各地を襲う災害シーンだけを見れば,これまでの宇宙人襲来や災害パニック映画そのものだが,その危機の前提には少し工夫がある。異常気象を鎮める最新技術ダッチボーイが開発され,天候をコントロールできる宇宙ステーションと気象制御衛星が宇宙空間に多数配置されている(写真9)。これで世界の気候は完全に管理できるようになった訳だ)。実現可能性は低いが,SF映画の設定としては面白い。
 
 
 
 
 
写真9 宇宙空間に整然と配置された気象制御衛星群
 
 
   ところがこのダッチボーイの運用から約3年経った頃,衛星がウィルス感染して暴走し始め,世界は大混乱に陥り,地球壊滅災害「ジオストーム」の到来まで残り時間が90分となる。それだけなら,これまた単なる危機回避ものだが,気象衛星の暴走は地球制覇を目論むテロリスト集団の企みであることが判明する。
 彼らの陰謀を阻止するために戦う主人公は,宇宙ステーションの開発者である米国の科学者ジェイク・ローソンで,ジェラルド・バトラーが演じている。まるで彼が主演した『エンド・オブ・ホワイトハウス』(13年6月号)の緊迫感と小気味よさをパニック映画に持ち込んだ感じだ。結末が安直で,余りにご都合主義だが,誰もこの種の映画にヒューマニズムは求めないから,娯楽映画の要素をてんこ盛りにしたのは成功と言える。
 以下,当欄の視点での感想とコメントである。
 ■ 宇宙空間や宇宙ステーションの描写は,最近の類似作で何度も観たが,描写自体は一段と進化している。ステーション内外の光景,爆発シーンの描写が精緻だ(写真10)。特筆すべきは,気象制御衛星のデザインの斬新さで,ソーラーパネルを開いたその姿は惚れ惚れする(写真11)
 
 
 
 
 
 
 
写真10 宇宙ステーションの描写は丁寧で,爆発も大迫力
 
 
 
 
 
 
 
写真11 ソーラーパネルの形状デザインが斬新だ
 
 
   ■ 香港はマグマによるビルのドミノ倒し,モスクワは突然の熱波(写真12),東京には大きな雹が降り,インド・ムンバイは巨大竜巻に襲われる(写真13)。米国オーランドは絶え間ない落雷,ドバイでは全てを飲み込む大洪水……。いずれも従来作を超える水準以上のCG描写で,これだけ続くと感嘆する。特に感心したのは,南米リオの常夏の海に押し寄せる波で,海岸にいる人も物も瞬時に氷結させてしまう描写だ(写真14)。いや,素晴らしい。
 
 
 
 
 
写真12 ビームのような熱波がクレムリンを襲う
 
 
 
 
 
写真13 ムンバイを襲う巨大竜巻の描写は水準以上
 
 
 
 
 
写真14 ただの大波ではなく,何もかもが凍りつく
(C) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
 
 
   ■ CG/VFXの主担当はFramestore, 副担当はDouble Negativeのメジャー2社で,他にMethod Studios, Electric Entertainment, Hydraulx, Ingenuity Studios , Prime Focus World等々が参加している。ここまで実力各社を起用していれば,映画はB級でも,CG映像品質はA級で,世界最先端に決まっている。 
 ■ 余談だが,ジェイクの弟マックス役はジム・スタージェス。以前はP・マッカートニーに似ていて,彼の役を演じた作品もあるが,本作では秋篠宮眞子様の婚約者・小室圭氏によく似ていると感じた。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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