head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
title
 
O plus E誌 2017年7月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ハクソー・リッジ』:さすが,噂だけのことはある感動作だった。今年のアカデミー賞で6部門にノミネートされ,編集賞・録音賞を受賞しているが,作品賞・監督賞・主演男優賞の候補であったことも頷ける。監督は名優メル・キブソンで,改めて監督としての手腕の確かさを感じた。自ら志願して従軍しながら,決して武器を手にしない衛生兵が主人公である。神の教えを信じ,上官の命令に背いて軍法会議にかけられても信念を曲げない。主演は,『沈黙 −サイレンス−』(17年2月号)で宣教師役を演じたアンドリュー・ガーフィールド。まるで,そのロドリゴ司祭が生まれ変わったかのような存在だ。ユニークな戦争映画だが,後半の戦闘のリアルな描写に圧倒される。実話であり,エンドロール前に実在の人物のインタビューが流れ,主人公夫妻に似た男優&女優を起用していたことに気づく。ここにも,ハリウッド映画のリアリズム追求の真剣さを感じた。
 『ジーサンズ はじめての強盗』:洋画だが「Zeasons」ではなく,「爺さん」の複数形だ。主演はマイケル・ケイン,モーガン・フリーマン,アラン・アーキンの助演男優オスカートリオで,平均実年齢は82.3歳になる。「3人目がゲイリー・オールドマンなら『ダークナイト』(08)のトリオだったのに,残念!」と思ったが,それでは彼だけが若過ぎる。ところが,添え物と思ったA・アーキンが一番魅力的だった。3人の性格も家族状況も上手く描き分けてあり,年金を取り消され,金利アップで家も奪われるという設定も納得だ。銀行強盗ものは皆楽しく,観客は大抵成功を望んでいる。襲撃準備もアリバイ工作の種明かしも楽しい。テンポが良く,音楽の選曲も秀逸だ。助演陣で,クリストファー・ロイド(BTTFのドク)とアン=マーグレットが登場するのが嬉しい。彼女は今年76歳。いつまでもチャーミングで,熟年の映画通の目を楽しませてくれる。
 『いつまた,君と ~何日君再来~』:向井理が企画したヒューマンドラマで,祖母の手記を基に,自らの祖父の役を演じている。戦前は軍務で南京に住んだ夫婦が,除隊,日本への引き揚げ,敗戦を経験し,貧困の中で戦後の混乱期を生きる様を描いている。平凡で特に大きな事件もない家族の物語だが,昭和20年代をこんな風に描いた映画は珍しい。向井理自身は若く見え,冴えない主人公役には不向きだが,企画者だから仕方がない。一方,愛らしく,しっかり者の妻役は,尾野真千子。少し古風な顔立ちが,この役にぴったりだ。監督は深川栄洋で,深味のある人生賛歌を撮らせると上手い。前2作の若者向け青春映画の不出来が嘘のようだ。別れ話後の,広い野原のシーンが絶品である。視線を合わそうとしない夫に妻が寄って行く様を,クレーンカメラでハイアングルから捕え,表情を写さないのが巧みだ。最後に一度だけ涙を誘う手口も,見事にキマっている。
 『結婚』:シンプル過ぎる題名だが,純愛ものではなく,結婚詐欺師の男と騙される女達を描いている。監督は,NHKの連続TV小説『つばさ』『あさが来た』の演出を担当した西谷真一。後者でブレイクしたイケメン男優ディーン・フジオカを,本作の主演に抜擢している。全くのハマリ役で,朝ドラ出演中から狙っていたのではないかと思えるほどだ。彼は単なるワルではなく,幼児期経験が何か訳ありだと思わせる。軽快なコメディタッチだが,ミステリー的要素も含んでいる訳だ。ただし,女性を騙す手練手管の描写が淡泊過ぎる。情欲シーンや騙された女性の落胆ぶりも,もっとリアルに描いた方がいい。後半の謎解きも,原作小説を離れてでも,大きなサプライズが欲しかったところだ。助演陣の女性の中では,安藤玉恵の芸達者ぶりがピカ一だった。
 『ボンジュール,アン』:監督はエレノア・コッポラ。これが長編デビュー作だというので,ソフィアの妹かと思ったら,何と母親だった。即ち,巨匠フランシス・フォード・コッポラの糟糠の妻で,当年80歳である。シンプルで肩の凝らないロード厶―ビーで,カンヌからパリまで,寄り道しながら40時間の旅を描いている。道中だけでなく,最終地のパリも魅力的にライトアップされていた,料理のシーンでは,ワインとチーズが欲しくなる。堅苦しさ抜きで,思想性も人生相談もない完全な観光&グルメ映画だ。熟年女性が自己投影して観ることだろう。主演のダイアン・レインは50歳を過ぎても美しく,魅力的だ。クラーク・ケントの母親役の姿とは随分違う。男性観客は,この映画をどんな想いで観るのだろう? 同伴のフランス人男性のように口説きたくてウズウズするのか,それとも,それを知った旦那のように気が気でないのか? 私は後者だった。
 『ヒトラーへの285枚の葉書』:またまた「ヒトラー」の名を表題中に入れた映画である。パロディでも戦後処理の映画でもなく,堂々と第2次世界大戦中,ナチス圧政下の首都ベルリンの模様を描いているドイツ映画だ。ただし,総統もホロコーストも登場しない。激しい戦闘シーンも非人間的な拷問シーンもないが,当時の市民生活が丁寧に描かれている。原作は,戦後すぐにドイツ人作家が書いた小説「ベルリンに一人死す」で,息子を戦争で失った職工長夫妻の,彼ら流儀でのレジスタンス活動が主テーマだ。元は実話だというから結末は読めるが,やはり悲しい。次第に絆が強くなって行く夫婦愛の物語として,心に残る映画だ。ならず者国家の隣国の脅威の中で,防衛力強化,憲法改正までも止むなしと感じる最近の社会風潮だが,この映画を観ると,改めて不戦の誓いを尊く感じ,子供達を戦場に送り出したくないという想いが強くなることだろう。
 『銀魂』:邦画のVFX多用作なのでメイン欄で扱いたかったのだが,試写日程が合わず,短評が精一杯だった。ワーナー・ブラザース製の時代劇だというので,かなり期待した。『るろうに剣心』(12)も『無限の住人』(17)も同様な企画で,(邦画としては)大型製作費を投じ,成功しているからだ。銀髪の奇妙な侍・坂田銀時を演じるのは小栗旬で,共演陣も豪華キャストである。原作は,週刊少年ジャンプ連載の同名の人気ギャグ漫画で,通常はコミック単行本を何冊か読んでから試写会に臨むのだが,今回そうはしなかった。ギャグ漫画と実写版映画では,笑いの質が違うので,映画だけ観て,素直に楽しめるか試したかったからである。その結果は,無惨だった。ギャグもパロディも大好きなはずの評者だが,殆ど何も笑えなかった。これは年齢差なのか,笑いのセンスの違いなのか,監督(福田雄一)の演出と肌が合わないだけなのか。観たい読者に,敢えて反対はしない。
 『彼女の人生は間違いじゃない』:この強烈な題名に,どんな女性か気になった。日頃は仮設住宅に住む福島県いわき市の市役所職員で,週末に東京・渋谷でデリヘル嬢として働く女性(瀧内公美)が主人公である。監督は『やわらかい生活』(06)『さよなら歌舞伎町』(15)の廣木隆一で,原作小説の著者でもある。前述の深川栄洋監督同様,青春映画は苦手だが,シリアスな人間群像劇は得意だ。ピンク映画出身だけあって,風俗営業シーンの演出は生々しい。その一方で,今なお津波の爪痕や放射能汚染が残る大震災被災地を舞台に,心に傷が残る人々の生活を真摯に描いている。メッセージ性が高い作品だが,主人公の設定は,1つ間違えば,被災地の冒涜にも成りかねない。これが許されるのは,福島県出身の監督だからだろう。とはいえ,帰還困難区域を捉えた映像の重さに,物語自体が負けていると感じた。それでも最後に,除染が進み,ようやく農業が再開できるようになった風景を観て,心が救われた。
 『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』:懲りもせず,また観てしまった。いや,同じ監督の『ロパートキナ 孤高の白鳥』(16年2月号)を紹介する際に,「本格的なバレエとなると殆ど知識がなく,筆者の眼力で適切な評論ができるか,一瞬たじろいだ」と言い訳しただけで,懲りた訳ではない。むしろ,その躍動感に痺れ,至高の芸術だと感動した次第だ。数々のバレエ映画を撮り続けてきたマレーネ・イヨネスコ監督が,パリ・オペラ座所属のバレエ団に密着取材したドキュメンタリーである。これまで1人のダンサーを追うことが多かったが,本作には複数のダンサーや振付師が登場する。ウリヤーナ・ロパートキナの姿も見える。原題は『Backstage』で,7つの演目の舞台裏,練習風景が描かれている。ダンサーは男女を問わず,皆美しい。引き締まった肢体は勿論,素顔も美しい。ベテラン・ダンサーも指導者たちも,伝統の継承を熱く語るのが印象深かった。
 
 
   
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next