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O plus E誌 2016年2月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ビューティー・インサイド』:韓国製のラブ・ストーリーで,ヒロインは筆者お気に入りの美形女優のハン・ヒョジュだ。ところが,その相手役が123人1役というとんでもない設定だった。中身は29歳の男性だが,毎朝起きると身体が全く別人の外見になっているという。老若男女,どんな容姿になるか予測不能で,時には外国人にもなってしまう(と言いながら,韓国人のイケメンが多いが)。それで,合計123人の姿で登場する訳だ。ネタとしてはSFコメディで,ドタバタ喜劇風になりがちなのを,真摯な恋愛哲学で綴るピュアな物語に仕上げている。当欄としては変身過程をCGで描いて欲しかったところだが,それじゃこの映画のテイストには合わない。最後まで真面目なロマンス一辺倒で,最後は少し倖せになれるオチで締めている。エンドロール後半のオマケも見逃せない。何度も流れる名曲「アマポーラ」のアコースティック演奏にしびれた。
 『愛しき人生のつくりかた』:一転,今度はフランス映画で,85歳の老婆の終活ものだ。といっても,暗い,シリアスな話ではなく,こちらも少し倖せな気分にさせてくれる。パリの街並みが美しく,セリフがフランス語なのも嬉しい。配偶者を亡くして,老人ホームに入居したマドレーヌの高齢者生活が主題で,彼女の話し相手を務める孫の好青年ロマンの恋物語が副題となっている。後半,マドレーヌがホームから脱走し,舞台はノルマンディーの海岸都市へと移る。モネの風景画で知られる土地だけあって,こちらも景観が頗る美しい。マドレーヌの故郷のこの地で思わぬ展開が待っていた……。母親・息子夫婦・孫の3世代にとって心地よい結末となっているが,なかなかこんな人生の最期を迎えられないのが現実だ。監督・脚本のジャン=ポール・ルーヴ自身も俳優として出演しているが,どんな役で登場するのか見つけるのも愉しみの1つである。
 『ブラック・スキャンダル』:実話ベースで,FBI史上に残る汚点だそうだ。地元ギャングとFBIの癒着と裏社会の人間模様がテーマだというので,1920年か30年代の話かと思ったが,1975年からの20年間の出来事だった。米国サウスボストン生まれの幼なじみの3人は,長じて地元ギャング(ジョニー・デップ),FBI職員(ジョエル・エドガートン),州上院議員(ベネディクト・カンバーバッチ)となり,密約を結び,イタリア系マフィアの駆逐を図る。注目の的は,犯罪王ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーを演じるJ・デップの悪人ぶりだ。滑稽味のあるジャック・スパロウ船長とは全く違う別種の存在感で,戦慄すら覚える強烈な役作りに徹している。J・エドガートンもかなりの好演だが,その一方で個性派俳優B・カンバーバッチの影が薄い。実話ゆえか,物語は少々退屈で盛り上がりにかける。J・デップの怪演だけが見どころの映画だと言える。
 『猫なんかよんでもこない。』:ネコ好きが書いた,ネコ好きのための同名コミックの実写映画化作品だ。ただのネコ映画で,深い意味も驚くような展開もない。元はいかにも実話だなと感じるエピソードが盛り込まれている。人間関係,自己満足感,誰もが納得の展開で,素直に感情移入してしまう。男性観客はプロボクサーを目指す主人公(風間俊介),女性観客はヒロイン(松岡茉優)か大家の女性(市川実和子)の視点で2匹の猫を見守るはずだ。ペットで猫の比率が急増しているそうだが,なるほど,この映画を観た後,飼ってみたくなった。ハートフルコメディだが,人間同士の物語であっても感動度は同じ程度かと,妙に納得した。猫の演技は上々で,それで半分おまけしておこう。
 『残穢【ざんえ】−住んではいけない部屋−』:小野不由美作,山本周五郎賞受賞作の小説の映画化作品で,新感覚のJホラーとの触れ込みである。なるほど『呪怨』(03)同様,題名からして印象に残る。文庫本の解説や映画のチラシは,「観終えた日は寝られない」「2度観る度胸はない」等,新しい怖さを強調している。ミステリー小説家(竹内結子)が読者の女子学生(橋本愛)と共に,部屋で聞こえる異音の由来を辿り,過去の自殺・心中・殺人事件を追うという展開だ。『リング』(98)とは少し違う拡散型の呪いがテーマで,時間をどんどん遡る描き方が少しユニークだ。ホラー・ミステリーとでも呼ぶべきジャンルかと思う。監督は『予告犯』(15)の中村義洋。この監督は語りが上手く,素直に物語に溶け込めるが,筆者は余り怖さを感じなかった。帰りに文庫本を立ち読みしたが,結末は原作より映画の方が優れている。
 『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』:副題の99%とは,米国社会の一握りの最富裕層以外の一般大衆,貧困層の意だ。サブプライム・ローンの破綻,さらにリーマン・ショック後の金融パニック下で,自宅を失った人々を描く社会派サスペンスである。混乱に乗じて巨利を得る悪徳不動産業者と対決する社会正義派映画かと思いきや,全くその逆で,主人公はその片腕となって,冷徹な差し押さえに加担して行く。主演は『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのアンドリュー・ガーフィールドだが,助演のマイケル・シャノンの悪魔のごとき不動産王ぶりが鮮烈だ(本稿執筆時で,ゴールデングローブ賞の助演男優部門にノミネートされている)。なるほど,不動産業界はこういう仕組みで巨利を得るのかと納得し,その虜になる主人公に感情移入する。テンポのいいノワール映画であり,経済情報小説の趣きもある。監督・脚本は,ラミン・バーラニ。今後有望な監督の1人としてマークしておこう。
 『99分,世界美味めぐり』:「99」が続く。こちらは,美食ドキュメンタリー映画の上映時間だ。TVでもSNSでも,人気レストランやその料理を紹介するグルメ番組/グルメサイトは数多くある。本作は,「フーディーズ」と呼ばれるグルメ情報発信者の著名人5人を選び,彼らに密着取材した映像記録である。登場する人気レストランは29店で,当然大半はミシュランの☆をもつ著名店である。日本では,京都の菊乃井(☆☆☆),東京の鮨さいとう(☆☆☆),傳(☆☆)などが登場する。いかにも美味しそうな,見た目も美しい料理のオンパレードで,店のインテリアや雰囲気と正比例している。それだけなら,数あるグルメ番組と大差はないが,フーディーズの生態や,彼らを迎え入れるシェフたちの緊張感,厨房の様子を生々しく描いている点が特筆に値する。どうせなら,その来店,食事で,彼らがどういう記事を書いたのかまで見せて欲しかったところだ。
 『ロパートキナ 孤高の白鳥』:当短評欄では,画家,作曲家,写真家,デザイナー等々,一流の芸術家の半生を描いたドキュメンタリー映画を積極的に取り上げてきたが,本作は紹介を少し躊躇った。本格的なオペラやバレエとなると殆ど知識がなく,筆者の眼力で適切な評論ができるか,一瞬たじろいだからだ。同レベルの読者の代表として,素直な感想を述べるなら,本作は正に至高の芸術だった。被写体は,ロシア最高峰のバレエ団の頂点に立つウリヤーナ・ロパートキナ。175cmはバレリーナとしては長身だが,長い手足で踊る様は,さながら「生きる伝説」だ。練習量の凄さはアスリート並みで,フィギュアスケートや新体操の芸術点などチャンチャラおかしく感じる。クラシック・バレエでの白鳥役が絶品らしいが,本作では10数種類の様々なジャンルの踊りを堪能させてくれる。とりわけ,「Stayin' Alive」の振り付けと軽快な動きに目を見張った。
 『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』:惜しいことをした。本作を観たのは締切直前で,最後の1本だった。もっと早く観ていれば,メイン欄で取り上げ,サントラ盤も紹介していたと思う。CG/VFXはしっかり使われているし,ロック中心のサウンドも上々だったからである。脚本家・宮藤官九郎の監督4作目で,前作『中学生円山』(13年5月号)と同じく青春ものだが,遙かにパワフルだ。突然事故死した男子高校生(神木隆之介)が,地獄で出会ったロックバンドのリーダー(長瀬智也)と繰り広げる抱腹絶倒のコメディで,全編が見事にロックしている。地獄や天国のビジュアル,閻魔大王や鬼たちの特殊メイク,CG製のインコ等々,見どころ満載だ。何よりも,ギャグやパロディのテンポがいい。1つ間違うと駄作となるスレスレの線上を,快適に疾走する。忌野清志郎が存命なら,本作の主題歌を歌わせたかったのに,それが出来ないのが残念だ。
 『キャロル』:各誌絶賛のラブストーリーだが,なるほどこの冬,女性観客を最も集めそうな美しい秀作だ。時代は1952年のニューヨーク,まだ同性愛者が後ろ指を指された時代である。結婚生活が破綻した美しき中年女性キャロル(ケイト・ブランシェット)とデパートの若い女店員テレーズ(ルーニー・マーラー)が恋に落ち,2人で旅に出る。往時のNYの街の描写もロードムービーとしての展開も上々で,音楽は極上だ。作品賞でのオスカー・ノミネートは逃したが,しっかり主演女優賞,助演女優賞の有力候補となっている。男性観客はこの映画をどう観るか? きっと,テレーズに感情移入し,2人の恋の行く末を見守ることだろう。それもそのはず,夫も恋人もロクでなしで,他の男性人物も酷い描き方をされている。女性監督の作ではないが,原作者は「リプリー」シリーズの女流作家パトリシア・ハイスミス。『太陽がいっぱい』(60)に続き,映画史に再び名を残すところとなった。
 『ディーパンの闘い』:フランス映画で,カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作だ。日頃は,筆者とカンヌは相性が悪いのだが,本作は素直に最高点を付けたくなった映画だ。スリランカ人の元兵士ディーパンは,難民の渡航斡旋事務所の計らいで,赤の他人を「妻」「娘」とし,偽装家族を騙ってフランス入国を果たす。何とか入国審査をパスするが,最近ならとても無理だと言わざるを得ない設定だ。といっても,彼らはテロリストではない。管理人として住み込むパリ郊外の団地は,薬物の売人と荒くれ者どもの住み処だった。底辺の生活,フランスの世情がよく分かる描写で,ギクシャクした3人の関係から,次第に家族感情が芽生える過程の描写が秀逸だ。その微妙なバランスが壊れないかハラハラし,見入ってしまう。監督は,名匠ジャック・オディアール。終盤,多くを語らず,映像と僅かなセリフでクライマックスからエンディングへと導く手腕は見事だ。
 『スティーブ・ジョブズ』:少し前にアシュトン・カッチャー主演の同名映画(13年11月号)があったので紛らわしいが,内容的には本作が数段優れている。iPodやiPhone開発以前の話なのは同じだが,1984年の初代Macintosh,88年のNeXTcube,98年のiMacの製品発表時に話題を絞っている。それも巧みなプレゼンではなく,発表会開始前の楽屋裏での大激論が中心だ。セリフの多さは,まるで3幕ものの舞台劇を思わせる。好演であるが,主役のマイケル・ファスベンダーが全くS・ジョブズに似ていない。本人よりも端正で知的な顔立ちは,むしろジョン・スカリー役に適している。娘のリサ,相棒のウォズ,政敵のJ・スカリーとの口論がフィクションであることは許せるが,初代マッキントッシュを失敗作と位置づけた設定は,明らかに誤りである。そうした欠点はあるものの,アーロン・ソーキンの脚本,ダニー・ボイル監督の演出が秀逸で,傲慢な人格欠陥者の本質がよく描けていた。
 『ドラゴン・ブレイド』:ジャッキー・チェン(成龍)主演の中国史劇の大作だ。確か3年前の『ライジング・ドラゴン』(13年4月号)が「最後の主演作」と銘打っていたはずだが,それはカンフー・アクション映画の主演だけであって,その他のジャンルの映画にはまだしっかりと出演している。映画としては歴史活劇であるが,確かに成龍のアクションは殆どない。役柄は,前漢の西域警備隊隊長だ。共演がジョン・キューザックとエイドリアン・ブロディというから不思議な組み合わせに思えたが,中国シルクロード国境近辺で前漢軍とローマ帝国軍が覇権を争う物語だった。ふーむ,そうなのか。この時代にそんな戦いがあって,ハリウッド俳優を起用したという訳か。大作でスケールは大きいが,映画としては大味だ。3大俳優の出番を気にした脚本ゆえ,物語そのものの面白さも今イチだった。
 
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  (上記の内,『キャロル』は,O plus E誌には非掲載です。『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』は,O plus E誌2月号に掲載していたが,公開延期となったため,当ページから削除していました。改めて2016年6月25日公開されることになったので,当ページに復活させました)  
   
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