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O plus E誌 2017年5月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『マイ ビューティフル ガーデン』:チャーミングな映画で,英国らしい光景とユーモアが盛り込まれている。主演は,TVシリーズ『ダウントン・アビー』でブレイクしたジェシカ・ブラウン・フィンドレイ。なかなかの美形で,少し古風なドレスや帽子がよく似合う。彼女の魅力をアピールするために作られたかのような映画だ。孤児で整理癖が強い潔癖症だが,植物恐怖症の若い女性が,隣人の偏屈な老人(トム・ウィルキンソン)にガーデニングの手ほどきを受け,人生の大切なものを教えられる。同時進行でイケメン青年(ジェレミー・アーヴァイン)との恋愛が配され,男やもめの料理人(アンドリュー・スコット)の作る料理,ガミガミ司書の女性が管理する図書館の光景も味わい深い。偏屈老人の人生観の描き方は秀逸だが,結末がハッピー過ぎて,少し軽過ぎるのが唯一の欠点だ。ただし,デートムービーには最適だと推薦しておこう。
 『無限の住人』:容色は劣化,視聴率もイメージも急降下中の木村拓哉が主演だが,隻眼,顔に向こう傷の無頼の武士なら似合っているなと思って,本作を観た。原作は同名コミックで,監督はキムタクより圧倒的に醜男の三池崇史。バイオレンス時代劇は得意で,いかにもワーナー製作の邦画大作だ。奇妙な衣装や武器も,この映画には似合っている。共演者では,杉咲花,福士蒼汰,戸田恵梨香の出番が多い。原作のヒロインよりも随分幼いが,杉咲花は将来好い女優になると感じた。山崎努,田中泯はいかにもの役柄だが,悪役の1人,市原隼人にいたっては,アイドル歌手を刺したストーカー犯人にそっくりだ。「ぶった斬りエンタテイメント」の名に相応しいが,演出がくどく,長過ぎる。もっと硬軟,緩急を使い分けて,クライマックスを盛り上げるべきだと感じた。人気に陰りが見えてきたキムタクは,本作を機に本格的悪役に転身した方が成功すると思う。
 『僕とカミンスキーの旅』:胡散臭い美術評論家のゼバスティアンが,伝説の「盲目の画家」の伝記で一儲けしようと企み,元恋人に会わせると称して一緒に旅するロードムービーである。前半は老画家に取り込むまでのドタバタで,彼の妄想シーンが再三登場し,笑える。後半は2人の旅だが,老画家も結構したたかで,実は目は見えているのではと思える場面が登場する。終盤近くまで,物語は虚構でも,画家の経歴だけは本物かと思っていた。全体がフェイクなのだが,冒頭での画家の経歴紹介パートの映像が良くできていて,ビートルズやアンディ・ウォーホルとの記念写真まで登場する。映画は複数の章に分かれているが,各章の扉やエンドロールは,シュールレアリズムやポップアートの名画をデフォルメしたものだ。監督は『グッバイ,レーニン!』(03)のヴォルフガング・ベッカー。遊び心は健在だ。
 『カフェ・ソサエティ』:年1作ペースのウディ・アレン監督の最新作だ。配給会社は『ミッドナイト・イン・パリ』(11)の路線のロマンティック・コメディだと強調しているが,本作は過去にタイムスリップする訳ではない。1930年代のハリウッドとニューヨークを描いて,色もテクニカラー調で,当時の衣装や街並みを忠実に再現していると感じさせてくれる。古めかしいナレーションが付いているのも,意図的に古き良き時代を演出しているのだろう。1人の男と2人のヴェロニカが登場するが,男(ジェシー・アイゼンバーグ)が2人の女性の選択で悩むのではなく,むしろ人生の選択肢で社会的地位のある男との結婚を選んだ女性(クリステン・スチュワート)に捨てられる。2人はNYで再会するが,結末は何やら『ラ・ラ・ランド』(17年3月号)に似ていた。同作に比べると,この監督のセンスは古いなと感じる。ただし,いつも女優の好みはいい。
 『スプリット』:脚本・監督がM・ナイト・シャマランで,宣伝文句は「完全復活」となっている。何度も裏切られてきたので,本当かなと疑う半面,今度こそ本物かと期待してしまう。結果的には前作『ヴィジット』(15)と同レベルかやや上程度だ。まだ完全復活と言い難いが,結末が楽しみになるサスペンス・スリラーには仕上がっている。一応は合格点だ。主人公は23人も多重人格をもつ解離性同一性障害者で,ジェームズ・マカヴォイが演じている。この怪人が誘拐した3人の女子高校生が味わう恐怖とその内の1人(アニア・テイラー=ジョイ)のとる大胆な行動が見ものだ。J・マカヴォイは怪演と言えるが,どれも同じで,多重人格を上手く演じ分けているとは言い難い。ネタバレになるので詳しく書けないが,最後の登場人物に注意されたい。シャマラン作品に慣れない観客には「後日,彼の第2作目も楽しんで下さい」とだけ書いておこう。
 『パーソナル・ショッパー』:『アクトレス ~女たちの舞台~』(15年11月号)では,3人の女優の内,クリステン・スチュワートが最も光っていたと書いた。オリヴィエ・アサイヤス監督も気に入ったのだろう。本作では彼女を単独の主役に据え,彼女のためにオリジナル脚本も用意した。それに応え,大女優への道を一歩一歩進んでいるかのような,演技の幅の広げ方だ。今回はベテラン女優の付き人ではなく,富豪に個人的に雇われる買物代行人(Personal Shopper)という役柄だ。不思議な出来事が次々起こり,当人も霊媒能力をもつという設定で,先が読めないミステリータッチのサイコサスペンスである。シャネル,クリスチャン・ルブタン,カルティエといった高級ブランド品を買い漁るシーンは,女性観客にとっては垂涎の的であるだろうし,その着替えの途中で見られるスレンダーな裸身は男性観客へのサービスと言える。最後の余韻の残し方も見事だ。
 『夜空はいつでも最高密度の青色だ』:この長い題名と石井裕也監督だというので,彼がどんな原作を選んだのか気になった。池松壮亮が主演,松田龍平が助演というのにも,食指が動いた。主演女優の石橋静河は知らなかったが,後日,石橋凌と原田美枝子の娘であることを知った。さして美人ではないが,石橋凌には似ている。看護師の女性と工事で働く男の恋物語だが,キラキラムービーではない。ブツ切りの短いエピソードが次々と出て来るが,筆者はこれを「よこはま たそがれ」調(歌詞が単語の羅列)と呼んでいる。テンポがいい場合は嫌いではないが,これまでの石井監督とはタッチが違う。原作の文体のせいかと思ったら,最果タヒなる女性詩人の現代詩を映画化したものだった。最底辺ではないが,中の下以下の生活,殺伐とした都会の人間関係の中で,明日への希望を見出そうとする男女を描きたかったのだろう。最後は人生讃歌のように思えるが,本当にそうか? 随所で,この監督自身が都会嫌い,最近の無気力な若者嫌いなのではないかと感じた。シンパシーを感じる部分もいくつか有った。
 『サクラダリセット 後篇』:前篇をO plus E本誌で紹介しておきながら,この後篇の評は掲載しない。もうそれだけで出来映えと評価が分かって頂けることだろう。前篇の評で後篇を期待している読者に申し訳ないので,Webページだけで,ひっそり期待外れだった理由を述べておくことにしよう。青春ストーリーでありながら,咲良田市にいる時だけ,超能力者たちが独自の能力を発揮できるという設定に面白さを感じた。2年前に死んだはずの相麻菫(平祐奈)が甦り,「第2の魔女」となることを宣言した前篇のラストを反復し,後篇が始まる。完結編には,畳みかけるような一気呵成の展開を期待したのだが,一向にペースが上がらない。『X-Men』シリーズのような激しいバトルがあるとは思っていなかったが,さりとて様々な謎が終盤まとめて解けるような快感はなく,ミステリーとしての面白さもない。主要登場人物の会話ばかりで,盛り上がりに欠ける。とりわけ,相麻菫と主人公の浅井ケイ(野村周平)との会話ばかりだ。そうなると,若手俳優の演技力のなさが目立つ。原作を換骨奪胎するのに苦労したのだろうが,ズバリ,脚本が悪い。深川栄洋監督自身が脚本を書いているのに,何としたことだ。ベテラン俳優を使った過去作品で,演出力の高さを注目して監督だけに,この愚作は残念だ。ひょっとすると,若手俳優の余りのレベルの低さに監督も嫌気がさし,途中で情熱が途切れたのかも知れない。実力ある監督だけに,次回作での復活を期待しておこう。
 『あの日,兄貴が灯した光』:韓流映画は歯の浮くような恋愛映画か目を覆いたくなる暴力映画が定番だが,本作は兄弟愛を描いたヒューマンドラマだ。と言っても,『ブラザーフッド』(04年6月号)ほどの重厚さはなく,大作でもない。 詐欺師で前科10犯の兄(D.O.)と,オリンピックを目指す柔道選手だったが,試合中の事故で視力を失った弟(チョ・ジョンソク)の物語だ。この兄弟と女性柔道コーチだけが美男美女で,その他の出演者との差が大きいのは,他の韓国映画と同様だ。悪人は登場しないし,暴力も小汚いシーンもない。無軌道で軽薄な兄貴の言動の描き方が楽しい。コメディ・タッチの軽妙なやりとりとじゃれ合うような諍いから,次第に兄弟愛が滲み出てくる演出が心地よい。反面,盲目の弟の苦労,パラリンピック出場を決めてからの練習風景,柔道の対戦シーン等の描写が今イチで,迫力がない。その分,感動も薄めだったのが,少し残念だ。  
 
  (上記の内,『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『サクラダリセット 後篇』は,O plus E誌には非掲載です)  
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