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O plus E誌非掲載
 
 
ゴースト・イン・
ザ・シェル』
(パラマウント映画/ 東和ピクチャーズ配給)
      (C) MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月7日よりTOHOシネマズ六本木他全国ロードショー公開中]   2017年3月30日 IMPホール[ホール試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  既視感+αを与えてくれる豪華実写映画版  
  年度替わりの諸事に忙殺されて,このWebページ専用記事をアップするのが遅くなってしまった。きっと当欄の定常的読者の知人(映画業界人)たちから,「ああ,やっぱり…」と噂されていることだろう。というのは,本作の公開予定が公表された頃の飲み会で,「大嫌いなジャパニメーションが元だから,絶対に紹介記事を書かないんじゃない?」「いやいや,お気に入りのスカヨハが主演だから,平気で変節して書くんじゃないの」「書きますよ。主演が誰であり,ハリウッド・パワーで実写映画化する以上,CG/VFXの使われ方の同時代記録するのが,私の役目ですから」という軽口の応酬があったからである。それが,4月号のメイン欄に掲載せず,かつ公開日までに追加Web専用記事も公開しなかったから,また陰口を叩かれていることを想像した訳である。
 一般読者のために,もう少し背景を説明するなら,本作の原典は士郎正宗作の人気コミック「攻殻機動隊」であり,過去に何度もアニメ化,ビデオゲーム化されている。大成功を収めたのは,押井守監督で劇場公開用アニメ作品として作られた『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)(以下,押井版と略す)である。米国のセルビデオ市場ランキングで1位となったことから,その人気が逆輸入された。ウォシャウスキー兄弟(姉弟を経て,現在は姉妹)監督の『マトリックス』(99年9月号)が,このアニメ映画に大きな影響を受けていると伝わったことからも,人気が倍加した。ジャパニメーションの最大成功例として神話化され,新たなファンも獲得している。評者が,この作品をDVDで観たのは2003年頃だったが,全く関心が持てなかった。正確に言うなら,作品のタッチが生理的に合わず,ジャパニメーション嫌いが一層激しくなった。食わず嫌いはいけないと,続編『イノセンス』(04)や押井監督の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)は試写を観たのだが,いずれも当欄で紹介する気になれなかった。
 原作コミックの初出は1988年だが,時代設定は21世紀の2029年で,第3次核戦争,第4次非核戦争を経て荒廃した東京が舞台となっている。主人公の草薙素子は,大事故で死に瀕し,脳と脊髄の一部を除く全身を義体化されたアンドロイドである。内務省・首相直属の防諜機関「公安9課」に所属する捜査官で,「少佐」と呼ばれている。言わば,女性版「ロボコップ」である。詳細設定や登場人物の性格付けは各アニメ版で少しずつ違うが,本作は押井版を基本骨格として,ハリウッド・メジャーが実写映画化した作品である。『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)の成功以来から,日本発のキャラが活躍する作品に注目が集まっている。
 その「少佐」役には日本人俳優かアジア系アクション・スター(例えば,栗山千明やウェン・ジャンあたり)を起用するのかと思ったら,スカーレット・ヨハンソンだというので少し驚いた。なるほど,『アベンジャーズ』シリーズでもブラック・ウィドウを演じてスピーディなアクションをこなしているので,役柄そのものには合っている。彼女だけでなく,バトー,クゼ,トグサ,イシカワ等々,大半が白人俳優のようだ。舞台をNYかLAに移した完全な洋画なのかと思えば,なぜか荒巻大輔だけはビートたけしが演じ,日本語を話すという。得体の知れない怪作となりそうで,その意味での興味は湧いていた。冒頭の知人等との会話は,その当時のものである。
 監督は,『スノー・ホワイト』(12年7月号)のルパート・サンダース。英国人監督で,これが長編2作目となる。ダンディなイケメンで, クリスティン・スチュワートとの不倫騒ぎも頷ける。元はCM映像作家だから,ビジュアル・センスも良く,この実写映画化には向いている。試写を観る前に,キャスティングを確認したら,ビートたけしの他には,桃井かおり,福島リラ,山本花織ら日本人俳優の名前があったが,他はすべて欧米の俳優であり,スタッフはすべてハリウッド系で占められている。
 どんな国籍不明映画になるのかと案じたが,その心配は無用だった。結論を先に言えば,原作や押井版のテイストをしっかり残し,かつ最近のCG/VFX技術を着実に取り入れて,ハリウッド・メジャー系らしいSFアクション映画に仕上がっていた。既に公開済みであり,ネット上では様々な意見が飛び交っているので,屋上屋を架すことは控えておこう。以下,当欄はいつもの当欄での視点だけで,論評することにする。
 ■ 冒頭から,S・ヨハンソンが頗る魅力的で,つくづく美形だなと感じる。少し若作りだなとも感じる。ロボット風に見えるメイクのせいか,あるいは実はCGで描いた顔であるためか,その区別すらつかない。写真1のように義体の完成途中や,顔の内面が見えるシーンなら,VFX加工だと分かるが,衣服を付けている場面では,どこまでがCGなのか,ほとんど識別できない。
 
 
 
 
 
写真1 この種のシーンは,実写+VGXはお手のもの
 
 
  ■ ルックスは,押井版の草薙素子とはかなり違うのだが,コスチュームやポーズ,アクション・デザインを似せているのか,違和感がない(写真2)。いや,既視感があり,さらにプラス・アルファがあると感じる。義体表面は肌色のボディであることは,押井版でも見慣れていたのだが,本作ではS・ヨハンソンの裸体ではないかと,一瞬ドキッとする(写真3)。よく見れば,継ぎ目があり,CG製であることは明らかなのだが,男性観客なら本人のプロポーションなのかと気になるところだ。一部のシーンでは,シリコン製の身体ぴったりのボディ・スーツを身につけているそうだが,CGとの区別はつかない。CGの形状モデルも,おそらく本人のプロポーションだろう。
 
 
 
 
 
(C) 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
(C) 1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
 
 
 
 
写真2 (上)押井版の草薙素子,(下)本作でも似たようなポーズで
 
 
 
 
 
(C) 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
(C) 1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
 
 
 
 
写真3 アニメで(上)は見慣れていたはずが,(下)の姿には一瞬たじろぐ
 
 
  ■ 舞台となる都市名は明示されていない。市中には,カタカナや漢字表記の看板があるが,東京の感じがしない(写真4)。下町の雑踏からは,いかにもアジアの都市だなと感じる。エンドロールには,香港でロケが帰されていないので,香港をベースにVFX加工したのだろう。近未来を感じさせる室内のデザインは悪くないが,大きな顔が投影されている市中のデザインは悪趣味だ。
 
 
 
 
 
写真4 国籍不明のアジアの都市。大きな顔のディスプレイは悪趣味。
 
 
  ■ その一方で,高層ビル群の描写は上々で,東京,香港,LAのビル群をミックスし,さらにCGを描き加えた感じだ。その夜景は頗る美しい。セル調アニメの押井版と比べて,映像の魅力としては実写ベースの本作が圧倒的に勝っている(写真5)。この夜景シーンの屋上からの背面ジャンプ(写真6),ガラスを突き破って乱入するシーン(写真7)は,予告編でも登場するが,まさにCG/VFXの真骨頂だ。押井版ファンの心も掴み,最近のゲーマー達にもアピールできるクオリティをもっていることを象徴するようなシーンだ。
 
 
 
 
 
(C) 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
(C) 1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
 
 
 
 
写真5 (上)の押井版よりも,圧倒的に(下)の夜景が魅力的
 
 
 
 
 
写真6 予告編で印象的な,屋上からの背面ジャンプのシーン
 
 
 
 
 
写真7 同じく予告編で登場する突入シーンもCG/VFXの真骨頂
(C) MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
 
 
  ■ 映像的には評価できるレベルだと感じつつも,やはりこの映画の世界観は好きになれなかった。前半は,騒々しく,猥雑だった。ところが,少佐が自らの過去の記憶を取り戻そうとする辺りから俄然ストーリー展開が面白くなる。サイバーテロリストのクゼたちと戦うクライマックスは,まさにハリウッド大作の盛り上げ方だ。音楽とアクションのテンポが見事に一致している。ここが日本映画界とハリウッド娯楽大作の力量の差を最も感じるところだ。勿論,CG/VFX的にも,大作らしいクオリティで描いている。その主担当は絶好調のMPC,他にTerritory Studio, Framestore, Lola VFX, Atomic Fiction, Blacksmith, Reynault VFX, The Mill, Halon Entertainment, Pixomond等の多数社が参加し,甲冑や武器のデザインWeta Workshop,プレビズはPrime Focus Worldが担当している。
 ■ 素子の母役の桃井かおりが流暢な英語で話すのに,なぜか荒畑役のビートたけしのセリフだけが日本語で,英語字幕が付いている。彼の滑舌が悪く,ほとんどセリフが聞こえない。止むを得ず,英語字幕を読んで理解したが,日本語字幕が欲しいくらいだ。
 ■ 本作をO plus E誌4月号で紹介しなかったのは,単純に作品の完成が遅く,試写が4月号の締切に間に合わなかったからに過ぎない。どうせ間に合わないならばと,先約があった完成披露試写の日には観ずに,一般用のホール試写会に出かけた。新聞社や雑誌社の主催で,応募して抽選に当たった人達が入場券をもらえる試写会である。この種の試写会はいずれもほぼ満席だが,若い女性のグループや家族連れが多いのに驚いた。どう考えても「攻殻機動隊」のファン層とは異なっている。もっと驚いたのは,75〜80歳にしか見えない老女の3人組だった。彼女らは,この映画のジャンルやあらすじを知って観に来たのだろうか? 終了後に是非感想を聴いてみたいと思ったのだが,皆さんエンドロールは一切見ずに,さっさと席を立って帰ってしまった。  
 
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