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O plus E誌 2004年6月号掲載
 
 
『ブラザーフッド』
(カン・ジェギュ・フィルム
&ユニバーサル映画
/UIP配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][韓国語]   2004年4月20日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)  
  [6月26日より日比谷スカラ座1ほか東宝洋画系で公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  韓国映画の勢いを感じさせる戦争ドラマ  
    少し気取ったフランス料理の次は,大衆的な韓国焼肉料理をどうぞ。という訳でもないが,いま日本映画より遥かに活気がある韓国映画の最新ヒット大作だ。製作費も観客動員・興行収入のペースも『シュリ』(99)『JSA』(00)を凌駕するNo.1記録を更新したという。この種の記録はいずれ破られるだろうが,次々と大型企画が打ち出され,それが観客に的確にアピールする。これが勢いというものだ。自ずから,優秀な人材や資本がそこに集まる。TVドラマ『冬のソナタ』のヒットで韓国の男優への関心も高まっているから,この映画も日本で注目を集めることだろう。  
 舞台は朝鮮戦争勃発時のソウルから始まり,北との攻防で二転三転する戦況下で,従軍を余儀なくされたある兵士兄弟の物語である。題名通り,兄弟愛を前面に出した人間ドラマであるが,全編力の入った戦闘シーンが続く。アメリカ資本が入っているとはいえ,今の日本映画ではとても企画できないスケールの戦争スペクタクルだ。朝鮮戦争終結宣言50周年に当る2003年に撮影開始され,今なお戦時下体制にある韓国にとって忘れ得ぬこの戦争を真正面から取り上げている。それでいて,強い政治的なメッセージは感じない。この種の映画は,反戦のメッセージにもなりうるし,戦意高揚にも繋がる。  
 監督は,『シュリ』で韓国映画の存在を世界に知らしめたカン・ジェギュ。主演は,兄キム・ジンテを演じる『友へ/チング』(01)『ロスト・メモリーズ』(02)のチャン・ドンゴン。TVドラマ『イブのすべて』(00)でもお馴染だ。弟のキム・ジンソク役には,日韓合作ドラマ『フレンズ』(02)で深田恭子と共演したウォンビン。キムタクばりの甘いマスクがウリだが,この一作の熱演で「ヨン様」並みの人気が出ても不思議はない。  
 映画の冒頭は現代から始まり,兄の死が暗示され,やがて50余年前の回想シーンへと入って行く。問題は,どこでどうやって兄弟愛のドラマを展開させ,盛り上げるかだ。前半は兄の視点で,後半は弟の視点で感情移入できるよう仕組まれていて,ストーリー・テリングの術はなかなかものだ。148分の長尺を感じさせない。  
  戦闘シーンは,「洛東攻防御線戦闘」「平壌市街戦」「鴨緑江陣地退却戦」「トゥミルリョン高地戦」と見せ場が間歇的にあり,朝鮮戦争史をなぞって学ばせてくれる(写真1)。エキストラの数,使われた弾薬や爆発物の量も相当なもので,まさに大作らしいスペクタクルだ。当時の爆発効果をリアルに再現するためダイナマイトと共に黒鉛粉,セメント,木の皮などを使用しというが,なるほどその努力の後は十分感じられた(写真2)。  

     
 
写真1 平壌市街戦は広大なオープンセットに戦車・装甲車を配備  写真2 当時の黒鉛粉を使って爆撃を再現 
 
 
 
     
   兵士の視点での戦闘を表現するのに,『プライベート・ライアン』(98)で採用された手持ちカメラの「イメージ・シェーカー」がこの映画でも使われたが,揺れが激し過ぎて目が疲れた。目まいを感じる観客も少なくないだろう。これは,『プライベート・ライアン』のノンマンジー上陸のように,圧倒的な物量作戦の俯瞰シーンの後に接近戦の激しさを描くから効果がある。それに比べてこの映画の大半はアングルが狭く,アップのバスト・ショットが多いから,戦闘シーンで1人称視点を多用されると疲れてしまう。これだけの大作なのに,テレビ・ドラマのようにスケールが小さく見えて損だ。まだ大型のクレーンを十二分に調達できないからだろうか。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズとまでは行かなくても,もう少しロングでカメラをパンするカットが欲しかった。その方が目も休まり,視覚的にも物語的にもスケールが大きくなる。『ブラックホーク・ダウン』(01)などと比べれば,その差は歴然だろう。  
  VFXはといえば,随所に見受けられるものの,ハリウッド映画に比べれば随分と少ない。基本は,戦車,兵士,爆薬なども本物利用の物量作戦だ。それでも,中華人民共和国軍10万人はデジタル処理の産物だろう。戦闘機も,アップのシーンは模型,大編隊で襲来するシーンはCGだと察する。最後の焼け跡のシーンは,ミニチュア・ベースでデジタル加工を施した標準的なVFXの結果だと思われる。  
  韓国映画界は破竹の勢いとはいえ,CG/VFXに関してはまだまだ後進国だ。現在韓国には走行可能な蒸気機関車が1台しかなく,止むなく実際に移動可能な機関車を3台作ったというが,もっと技術レベルが高ければ,デジタル技術でかなりの部分はカバーできただろう。トップレベルの視覚効果技術があれば,もっと迫真のシーンを描出できたと思うと,少し残念だ。映像技術の視点からは,そう指摘せざるを得ない。  
  もっとも,それはこの映画にとっては大きな欠点ではなく,勢いだけで最後までぐいぐい引っ張って行ってくれる。それもまた映画の一面だ。  
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