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O plus E誌 2012年6月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『私が,生きる肌』:スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が,22年ぶりにアントニオ・バンデラスを主演に起用した意欲作で,黄金コンビ復活である。この不可解な表題,スキンヘッドで異様なマスクをつけた女性のポスターだけで,只ならぬ映画だと想像できるだろう。完璧な肌を創る禁断の実験に没頭する天才形成外科医が主人公で,若く美しい女性が彼の邸宅に軟禁されているという冒頭から,寸時も目が離せない展開となる。全編オリジナリティに溢れ,狂気が支配する愛憎劇で,結末が読めない異色サスペンスである。アルモドバルの最高傑作かどうかは,評価が分かれるところだが,類のない冒険作であることは確かだ。A・バンデラスのクールな演技に対して,囚われた女性ベラを演じるエレナ・アナヤの美貌と肌も露な熱演振りが目に焼き付いた。
 ■『ミッドナイト・イン・パリ』:ウディ・アレン監督の42作目にして,本年度のアカデミー賞脚本賞受賞作である。通好みのこの監督の作品はあまり好きではなかったが,この幻想的なラブコメディで,筆者の評価も一変した。文字通り深夜のパリが舞台で,小説家の主人公(オーウェン・ウィルソン)が,1920年代,1890年代へとタイムスリップする。そこで遭遇するA・ヘミングウェイ,F・S・フィッツジェラルドらの文豪や,ピカソ,ダリらの画家の描き方は抱腹絶倒だ。待てよ,広宣ポスターの画風はどう見てもゴッホだったのに,彼は登場しないのだろうか? 相変わらず,この監督の女性の好みは上々で,2人のヒロイン(マリオン・コティヤールとレイチェル・マクアダムス)は共に魅力的である。サルコジ大統領夫人(カーラ・ブルーニ)まで登場させるなどサービスも満点で,もう一度観たくなること必定の快作だ。いや,面白い。
 ■『君への誓い』:こちらにもレイチェル・マクアダムスが登場するが,彼女が主演のラブストーリーである。相変わらず,可愛い。幸せに暮らしていた音楽プロデューサーの夫と造形芸術家の妻が追突事故に遭い,彼女が記憶喪失になってしまう。それだけならよくある話だが,両親や元カレとの生活までは覚えているのに,2人の出会いから結婚生活の記憶がすっぽり消えてしまったというから,ちょっと意外な設定での展開である。最初,戸惑う彼女に感情移入するが,次第に彼女の態度に苛立つ夫側の視点に立って観てしまう。忍耐強い彼(チャニング・テイタム)が待ち望む形で結末を迎えると,誰もが予想するだろうが……。これが実話に基づくストーリーだとは思いも寄らなかった。
 ■『ミッシングID』:精悍な男性が可憐な美少女の手を引いてを疾走する姿,カッコいいポスター,この表題から,犯罪組織か諜報機関の国家的陰謀に巻き込まれたアクション・サスペンスだと分かる。批評家筋の評点は低くても,ビデオレンタルでは高順位にランクする屈託のない娯楽作品の類いを想像したが,予想通りの軽快なポップコーン・ムービーだった。どこかで見た顔の主演男優は,『トワイライト』シリーズの狼青年のテイラー・ロートナーで,美少女はフィル・コリンズの娘らしい。「『ボーン・アイデンティティ』のDNAを受け継ぐ緊迫の……」は少し誇張だが,同じ製作陣としっかりした助演陣で,確かにDNAは受け継いでいる。
 ■『ジェーン・エア』:世界文学全集に必ず入っている名作だが,何度も映画化され,筆者が公開時に観た新作だけでも3作目である。その度にそれほどの名作なのだろうかと感じるが,19世紀にここまでの男女平等意識や反骨精神をもった女性を描いたこと自体が珍しかったのだろう。物語の流れ自体は緩やかで,盛り込まれた事件もそう多くない。19世紀後半の世界に浸れるが,古くさくは感じない。衣装,大きな屋敷,英国の荒涼とした草原の雄大な眺め等,映画のスケールがアップしているからだろう。ヒロインは,『アリス・イン・ワンダーランド』(10)のミア・ワシコウスカ。この堂々たる正統派のドラマを監督したのは,『闇の列車、光の旅』(10)のキャリー・ジョージ・フクナガだ。なるほど,彼の力量なら,これくらいは十分描き切れる。
 ■『外事警察 その男に騙されるな』:あまり聞きなれない呼称だが,警視庁公安部外事課のことで,対国際テロ捜査が専門の警察組織という位置づけらしい。2009年にNHK土曜ドラマ枠で放映された全6話のシリーズが人気を博し,早速映画版も製作された。主演の渡部篤郎,相手役の尾野真千子,脇を固める上司の遠藤憲一,石橋凌,余貴美子ら,主要キャストはTV版と同じである。地味めの俳優ばかりで,渡部篤郎はむしろ悪役の顔立ちだが,それがこの役柄に似合っている。ゲスト出演の田中泯と真木よう子はさらに適役で,この2人の起用が成功要因だ。韓国人俳優2人もいい持ち味を出している。主要場面は韓国ロケを敢行というが,さほど製作費はかけずに,スケールが大きい物語に仕立て上げている。日本映画としては上々のクライム・サスペンスと評価できる。東映は,刑事&探偵もので『相棒』『探偵はBARにいる』の両シリーズをヒットさせているが,是非第3のシリーズに育て上げて欲しいものだ。
 ■『星の旅人たち』:テーマは,キリスト教聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラをめざす巡礼の旅。監督・脚本は『ボビー』(06)のエミリオ・エステヴェス,主演は『地獄の黙示録』(79)の名優マーティン・シーン。巡礼開始早々に急死した息子の意志を継ぎ,遺品と遺灰を背負って老いた父親が800キロを巡る旅に出る。原題は『The Way』。途中知り合った3人と同行し,スペイン北部ガルシア地方の美しい風景の中で展開する物語は,文字通りのロード・ムービーだ。時に明るく陽気に,時に静かにもの悲しく,そして目的地では敬虔な気持ちにさせてくれるのは,挿入曲の数々である。選曲に相当時間をかけたに違いない。父トムの瞑想の中で何度も登場し,印象的な言葉を発する息子ダニエル。どうせなら実の息子チャーリー・シーンを起用すべきだと思ったが,この俳優もかなり容貌が似ていた。実は,ダニエル役は監督自身であり……。ご存知ない方は,映画を観てから知った方が本作の味わいが増す。
 ■『幸せへのキセキ』:マット・デイモン主演という予備知識だけで試写室に飛び込んだ。愛する妻に先立たれ,問題児の長男を抱えた彼が,想い出のLAを離れ,郊外の地へと移り住む。その地での家族の絆を取り戻すヒューマンドラマ,気恥ずかしくなるような父と息子の関係描写かと想像したが,とんでもないオマケがついていた。何と,購入した新居には,閉鎖した動物園と47種類の動物が含まれていた! 動物飼育係のボランティア役に,お気に入りのスカーレット・ヨハンソンとエル・ファニング(『SUPER 8/スーパーエイト』(11)のあの美少女)が登場するのも嬉しかった。動物園再建の苦労話と家族の再生のバランスのとり方が絶妙だ。これも実話だというのは驚きだった。監督はといえば,『あの頃ペニー・レインと』(00)のキャメロン・クロウ。これまた彼の実力からすれば,このくらいの佳作は当然である。原題は『We Bought a Zoo』。もう少し洒落た邦題をつけて欲しかったところだ。
 ■『愛と誠』:元は1970年代に週刊少年マガジンに連載された学園もの劇画で,梶原一騎原作らしいテンポの良さ,暴力シーンの迫力が大きな魅力だった。映画化に際して,公募で選ばれた新人女優がヒロイン名「早乙女愛」をそのまま芸名としたことも印象に残っている。約40年ぶりの再映画化には,何で今更と思いつつも,三池崇史監督ならこのコテコテの純愛映画をどう料理するかの興味が湧いた。レトロなアニメシーンで始まる導入は,それもアリだろうと思ったが,続いての実写パートでさらにズッコケた。70年代のヒット曲に乗せてのミュージカル,コメディタッチの演出に,会場からは笑いが絶えなかった。まさに和製タランティーノである。妻夫木聡の太賀誠は不良ぶりがキマっていたし,武井咲の早乙女愛は初代を凌ぐ出来だが,筆者は,安藤サクラ演じるスケ番をいとおしく感じた。
 
   
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