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O plus E誌 2016年4月号掲載
 
 
レヴェナント:蘇えりし者』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月21日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2016年2月4日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  主役の熱演も,大自然の映像も印象的な大力作  
  今年の上期に公開される洋画最大の話題作だ。アカデミー賞には,最多12部門にノミネートされ,レオナルド・ディカプリオが悲願の主演男優賞,アレハンドロ・G・イニャリトゥが2年連続の監督賞,撮影監督エマニュエル・ルベツキが3年連続の撮影賞の3部門でオスカーを得た。大本命でありながら,作品賞を逃したことには,後で言及しよう。
 まずは,レオ様の主演男優賞。あの『タイタニック』(97)から,もう18年も経つ。その間の主演作でも,当欄は演技力にかなり高い評価を与えていたが,若手美男俳優に冷たいアカデミー会員には,徹底的に嫌われてきた。その彼も,四十路に入った中年男となり,すっかり貫録もついた。本作では,クマに襲われ,瀕死の重傷を負った実在の罠猟師を演じ,まさに円熟期と言える熱演である。授賞式では,発表後に本人が立ち上がる前に既にスタンディング・オベーションであったから,誰もが当然と思う,祝福された受賞であったようだ。
 時代は1823年,西部開拓時代を描いた伝記映画で,原作はマイケル・バンケの小説「蘇った亡霊:ある復讐の物語」だそうだ。予告編を観ただけで,寒々とした荒野,主人公の厳しい形相に,重苦しい作品だと予想できる(写真1)。ハンター達のガイド役を務めるヒュー・グラスがグリズリー・ベアに襲われる頃から,物語の展開にぐいぐい引っ張られる。瀕死の状態から生き延びるサバイバル展開,息子を殺した仲間の男ジョン(トム・ハーディ)への復讐を誓う不屈の魂の描き方は壮絶で,よほど脚本力,演出力に自信がないと撮れない映画である。2年連続の監督賞も当然だと感じる大力作である。
 
 
 
 
 
写真1 過酷な環境下での熱演で,ついに悲願のオスカー男優に
 
 
  ヒュー・グラスの妻は,アメリカ先住民ポーニー族の女性で,息子をもうけている。敵対勢力としてアリカラ族も登場する。となると,『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)『許されざる者』(92)と比べたくなるが,両オスカー作品をかなり意識していることが感じ取れた。じゃんけん後出しとはいえ,大自然を捉えた映像の迫力は数段勝っていた。まさに3年連続の撮影賞に値する映像で,それに溶け合う坂本龍一の音楽も効果的だった。
 では,なぜそんな大力作が作品賞に選ばれなかったのか? 何度か書いたように,アカデミー会員のヘソ曲がり体質,選出方式が原因としか思えない。先行するゴールデングローブ賞の受賞作は当然アカデミー賞でも本命視されるが,近年それが外れる率が高い。本命作には他の会員が投票すると思うのか,一味違う通好みの映画,正義感の強い作品等,2, 3番手評価の作品に流れる傾向が強い。特に,作品賞候補数が倍増してからは,それが目立つ。世界的注目度が高く,業界全体もその広報効果の恩恵に浴しているならば,GG賞と重なることも厭わず,映画史に残る本命作品を選んで欲しいものだ。
 さて,以下は当欄独自の視点での論評である。
 ■ 映像的には,森の中で木々を見上げるシーンが印象に残った。本作のアイコン的な使い方で,何度も登場する。映画の前半は,そこから前作『バードマン…』(15年4月号)と同様,長回しのショットが多用されていた。「またかよ,勘弁してくれよ」と感じたが,全編をこれで通す訳ではなく,やがて目が疲れる長回しはなくなって,ほっとした。前作とは全く逆で,全編ほぼ屋外での撮影だが,人工照明は使わず,自然光だけに頼ったという。ロングショット多用で,陰影の使い方が個性的だ(写真2)。カナダとアルゼンチンでロケしたというが,よくぞ監督の過酷な要求に応えたものだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 広大で荒涼とした光景に心の底まで冷えきってしまいそう。さすが,3年連続の撮影賞だ。
 
 
  ■ 一見CG/VFXとは無縁の映画に思えるが,当欄お目当てのCG映像は,効果的に登場する。勿論,1つは前半の灰色熊の襲撃(写真3)であり,もう1つは中盤に登場するオオカミがバッファローの大群を襲うシーン(写真4)である。クマ単体をCGで描くこと自体は,現在のCG技術をもってすれば何でもないが,問題はグラスと激しく絡むシーンであり,長回しショットでの実現である(写真5)。グリズリーの執拗な攻撃を印象づけるのに,この部分は1ショットに見える長回しが効果的だった。クマと人間が絡まっての崖の転落は圧倒的な迫力で,この部分だけで,視覚効果賞部門へのノミネートも納得できる。パペットや単純なMoCap利用では,これは実現できない。青色スーツを着たクマ役俳優(写真6)と絡ませる等,ILMは様々な技法を駆使したようだ。
 
 
 
 
 
写真3 あっと驚くCG製動物その1は,灰色熊
 
 
 
 
 
写真4 その2は,バッファローの群れ。好い出来だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 執拗なグリズリーの攻撃。この後,2体が絡み合うシーケンスに,本物かと思ってしまう。
 
 
 
 
 
写真6 何とこんな青い衣装でクマを演じ,後処理でCGに差し替え
(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 他にもCG/VFXは結構使われている。大鹿やカラスもCGだろうし,グラスが急流に流されるシーンは,人形なのかCGなのか区別がつかない。雪山や雪原も,巧みにCGで雪一色に描き加えているようだ。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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