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O plus E誌 2016年1月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『マイ・ファニー・レディ』:邦題は『マイ・フェア・レディ』(64)のもじりだろうが,物語にほとんど共通項はない。むしろ,オードリー・ヘップバーン主演作なら『ティファニーで朝食を』(61)への言及があるなど,映画愛に満ちていて,通好みの作品だ。高級コールガール出身で,ハリウッドの人気女優となった女性(イモージェン・プーツ)が,記者のインタビューに応じて過去を振り返るという設定だ。オーウェン・ウィルソン,ジェニファー・アニストン等,助演陣がなかなかの布陣で,訳ありの大人の男女関係,複雑な人間模様を,軽快なタッチのコメディとして描いている。監督は,『ペーパー・ムーン』(73)のピーター・ボグダノヴィッチ。13年ぶりのメガホンだそうだが,まだ現役だったとは知らなかった。製作にウェス・アンダーソンの名があるが,そういえば,彼の監督作品『グランド・ブダペスト・ホテル』(13)にもタッチが似ている。主演のI・プーツが,とてもチャーミングで,一気にファンになった。
 『はなちゃんのみそ汁』:乳がん患者で余命が短い母親が,幼い娘にみそ汁作りを教えるというのがテーマだ。話題を呼んだ闘病記(ブログ)の映画化作品だが,こういう映画の感想を述べるのはつらい。健気で,真面目で,生きる力を伝えるという姿勢には誰も文句がつけられないが,物語としては全く面白くないので困る。主演は広末涼子,夫役に滝藤賢一,歌手の一青窈も出演し,主題歌も歌っている。暗くならず,明るく,淡々と描いていて,お涙頂戴でないのは救いだが,やはり楽しめない。闘病記そのものは,同病の患者への励ましになるだろうが,再発の恐れがある中,出産を決意したというのは参考になるのだろうか。かなり疑問に感じる。
 『クリード チャンプを継ぐ男』:『ロッキー』シリーズの新章だそうだ。老いたロッキーが復活を期して,若い現役チャンピオンに挑戦する『ロッキー・ザ・ファイナル』(07年5月号)で最後かと思ったのに,まだやるのかと呆れた。ただし,題名にその名はないように,これはスピンオフ作品のようだ。第1作で挑戦して敗退したが,2作目で再挑戦した相手アポロ・クリードの息子アドニス(マイケル・B・ジョーダン)が主役で,父のライバルであったロッキー(シルベスター・スタローン)にトレーナーを依頼するという設定である。なるほど,その手が有ったか。思い出せば,かつてのシリーズで,トレーナー転身も,父と子の確執も,チャンピオン側からの挑戦者指名もあったはずだ。何よりもタイトルマッチの結果もお馴染みのパターンで,既視感だらけである。そんな思いも,迫力あるボクシングのシーンがすべてを吹っ飛ばしてくれる。そう,既視感だらけであっても,皆この手の物語が大好きなのだ。
 『完全なるチェックメイト』:かつて『スパイダーマン』シリーズ(02~07)3作でヒーローを演じたトビー・マグワイアの久々の主演作である。実在の天才チェスプレイヤーで,心を病んでいたボビー・フィッシャーを見事に演じている。元来若手の演技派であったから,アメコミのスーパーヒーローよりも,こうした微妙な心理描写を伴う主人公の方が似合っている。時代は東西冷戦下の1972年で,ソ連のチャンピオンに対して,米国人の天才チェス棋士が挑戦するという,盤上の代理戦争の模様を克明に描いている。こうした世界最高峰の頭脳戦への興味も,今は昔だ。人間のチャンピオンにコンピュータが勝ったのが1997年,既にチェスよりも難しい将棋でも,コンピュータが人間の棋士を上回る。囲碁での対戦も始まっている。そうした時代ゆえに,こうした人間同士の対戦での緊張感が懐かしく,勝利後も哀れな人生を歩んだ天才のドラマが生々しい。
 『フランス組曲』:題名だけで,音楽がリードするロマンチックな物語だと想像できる。ピアノの音が聞こえてくるようだ。まかり間違っても,アクション・サスペンスやドタバタ・コメディである訳がない。時代はナチス・ドイツがフランス侵攻した1940年のことで,出征した夫の帰りを待つフランス人の新妻とドイツ軍将校の禁断の恋を描いている。監督・脚本は『ある公爵夫人の生涯』(08)のソウル・ディブ。アウシュビッツに収容され落命したユダヤ人人気作家イレーヌ・ネミロフスキーの未完の小説を映画化したものだ。時代背景の描き方が巧みで,第2次世界大戦勃発時の様子がリアルに伝わってくる。細部に拘り,当時の再現に映画ならではの配慮をしておきながら,残念なのはセリフが英語であることだ。ドイツ軍の将校や兵士の会話は独語であるのに,いかに興行目的とはいえ,フランス人が仏語でなく,英語で語るのはどう考えても不自然だ。
 『ピンクとグレー』:アイドルグループNEWSの加藤シゲアキが書いた同名小説の映画化作品だ。芸能界を描いた青春小説で,小学生時代からの親友2人(中島裕翔,菅田将暉)が,成功と挫折,生と死の分岐点で悩む物語だが,実力派監督・行定勲がこの物語をどう脚色して描くかが見ものだと聞いていた。鮮烈なダンスの舞台に始まり,続いて主人公の自殺シーンが登場する。この冒頭シーンだけで,ただの青春映画ではないと分かる。映画のほぼ中間点では,驚愕の展開が待っていた。ネタバレになるので詳しく書けないが,観客は呆然とし,完全に翻弄される。後半はどうなるのか不安になるが,結末は原作に近い形で着地させているようだ。プロの監督と脚本家(蓬莱竜太)が,素人同然の原作者や小説の愛読者に対して,「どうだ。映画はこういう風に作るのだぞ」と吹聴しているかのようだ。映像的にも遊びが有り,これもまた表題の別の解釈なのだろうと納得した。
 『シーズンズ 2万年の地球旅行』:『皇帝ペンギン』(05)『アース』(07)等々,動物ものドキュメンタリーを多数輸入し,公開してくれるギャガの配給作品だが,今や一大ブランドとなった英国「BBCアース」の製作作品ではない。フランス製で『オーシャンズ』(10年1月号)を手がけた名優ジャック・ペランと特撮監督ジャック・クルーゾのコンビによるネイチャードキュメンタリーだ。前作に続き最新の撮影機材を駆使しているが,本作は海洋動物が対象ではなく,ジャコウウシ,モウコノウマ,ヨーロッパバイソン,タイリクオオカミ等,地上動物の貴重な生態を記録している。2万年前の氷河期を生き抜いて来た現存の動物を中心に,人間との共生,環境変化への適応をドラマ性をもたせて描いている。壮大な自然を描いた作品に比べてスケール感では劣るが,走る動物たちと同じ目線での撮影が臨場感を高めている。
 『の・ようなもの のようなもの』:2011年に逝去した森田芳光監督作のデビュー作『の・ようなもの』の35年後を描き,同作の出演者,伊藤克信,でんでん,尾藤イサオが同じ役で登場する続編である。助監督を務めた杉山泰一の初監督作品であり,他の森田作品の主演級俳優も出演している。ニューシネマ風の前作に比べて,本作は常識的な作りで,出演者もスタッフも追悼作品を楽しんでいるようだ。新米落語家の主人公・出船亭志ん田を演じるのは松山ケンイチ,ヒロインは師匠の娘役の北川景子で,師匠・志ん米に頼まれ,2人がかつて一門に在籍した志ん魚を,数十年ぶりに探し出す物語である。前作の主役でイケメンだった伊藤克信は見る影もない初老の男になり,でんでんはそれなりに渋い俳優であるのに対して,師匠役の尾藤イサオが驚くほど若い。彼が歌うエンドロールの主題歌「シー・ユー・アゲイン雰囲気」は前作からの流用だが,いま聴いても瑞々しい名曲だ。作詞者は「タリモ」,森田監督自身である。
 
   
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