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■『ロッキー・ザ・ファイナル』:かつて5作品が作られた人気シリーズの最終章。引退して久しいボクサーがカムバックし,30年前の原点に戻って,若い現役世界チャンピオンに挑む。監督・脚本・主演のS・スタローン自身にも似ていて,相変わらず演出も演技も凡庸だが,その不器用さが主人公と重なる。嫌味はない。試合のシーンでは,思わず感情移入して,こぶしを握りしめてしまう。流行りのクサイ言葉で言えば,「この不屈の挑戦に勇気をもらった」ことになるのだろうが,この映画はこのクササがウリだ。結末はこれでいい。
■『こわれゆく世界の中で』:先月から3本目のジュード・ロウ主演の恋愛映画だが,大人の不倫,三角関係の描写は,ごく普通の出来映えだ。主人公は建築家で,都市開発のPreViz映像が良くできていて,本人が登場するのが面白い。この映画を観ると,PCの盗難には十分気をつけなくてはと感じること必至だ。
■『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』:マフィアのボスに100万ドルの賞金をかけられたマジシャンを狙い,世界中から名だたる暗殺者達がタホ湖畔のリノ市に集まるという設定だ。新感覚のバイオレンス・ムービーというわりには,前半はややテンポが悪く乗れなかったが,中盤以降はなるほど公約通りにぶっ飛ばす。展開が読めない,誰が生き残るかも分からない面白さがあり,終盤まで誰が主人公かも見えない仕組みだ。少し捻りのある良い脚本だ。この監督は,演出よりも脚本家としての才能の方が上だと感じる。
■『パッチギ!
LOVE & PEACE』:話題を呼んだ第1作(05)の舞台は1968年の京都,本作は1974年の東京の下町というから,まさに筆者の青春時代の軌跡そのものなので,これは放ってはおけない。前作同様に熱い映画だ。アンソンと難病の息子の話より,女優志願の妹キョンジャの物語の方が主に見える。映画業界の裏事情を皮肉っているのは井筒監督らしいし,迫力ある戦争シーンも「どうだ!これくらい簡単に描けるんだぞ」という同監督の矜持のようだ。キョンジャ役の中村ゆりは魅力的で,エンディングに流れる『あの素晴らしい愛をもう一度』にも感動する。多数の登場人物で盛り沢山なのはいいとして,惜しむらくは,セリフが聞こえにくい。
■『主人公は僕だった』:堅物の税務署員が,ある日突然,流行作家が執筆中の小説の主人公になってしまい,そのストーリーと同時進行の人生を送るというSFコメディだ。滑稽味の中にペーソスが溢れていている。助演のダスティン・ホフマンが味わい深いが,ウィル・フェレルはこの主人公には似合っていない。映画の冒頭で拡張現実感風に文字・図形が重畳描画されるVFXシーンが続き,エンドロールのビジュアルも洒落ている。
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