head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
title
 
O plus E誌 2015年11月号掲載
 
 
エベレスト 3D』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月6日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2015年10月2日 TOHOシネマズ天神ソラリア館[完成披露試写会(福岡)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  映像よりも,実話ベースのドラマが見どころの大作  
  山岳ものには,昔から良作,感動作が数多く存在する。小説の映画化作品なら,邦画の『劔岳 点の記』(09年7月号)が想い出深い。洋画のドキュメンタリーは,この1年余だけで,『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』(14年7月号)『クライマー パタゴニアの彼方へ』(14年9月号)『アルプス 天空の交響曲シンフォニー』(15年5月号)と3本もの秀作が続いた。いずれも素晴らしい映像で,感動的であった。
 本作の原題は,単なる『Everest』だ。邦題で3Dを付すからには,スペクタクル映像がウリのドキュメンタリーかと思った。ところが,出演者に著名な俳優の名前がずらっと並ぶ。そーか,世界最高峰を舞台にしたフィクションなのか。日本の配給会社の宣伝も,早くから力が入っている。その一方で,VFX専門誌Cinefexの次号(vol. 144,2017年1月号)掲載予定に入っているから,CG/VFX的にも斬新で,かなりの分量が使われているはずだ。一体どういう成り立ちの映画なのか,そのこと自体が興味の的で,少し予習をして完成披露試写に臨んだ。
 1996年の登攀での遭難事故を描いた実話ベースの作品とのことだ。登頂には成功したが,悪天候で下山途中に起きた事故で,遭難者も生還者もいるというから,過酷なサバイバル映画に違いない。となると,これ以上の情報は不要で,後は観てのお愉しみとした。
 監督は,『ザ・ディープ』(12)のバルタザール・コルマウクル。アイスランド出身だが,2008年からはハリウッドを本拠にしているようだ。出演者には,ジェイソン・クラーク,ジョシュ・ブローリン,キーラ・ナイトレイ,エミリー・ワトソン,サム・ワーシントン,ジェイク・ギレンホールら,錚々たる名前が並ぶ。
 とりわけ,寒中の熱演が目立ったのは,主役のベテラン登山隊長を演じるJ・クラークで,前作『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(15年8月号)での悪役とはうって変わった役柄だ。アメリカ人医師の登山家を演じるJ・ブローリンの演技も,『メン・イン・ブラック3』(12)のコミカルなタッチとは似ても似つかない。『ナイトクローラー』(15年8月号)で新境地をアピールしたJ・ギレンホールは,本作でもクールで個性的な,別の登山隊長役を演じている。かく左様に,豪華キャストがそれぞれの実力を遺憾なく発揮する力作に仕上がっていた。極限状況からの奇跡的生還,力尽きてヒマラヤに眠る悲劇はすべて実話で,思わず涙する。
 その反面,大きな期待を寄せた映像は,当欄としては物足りなさを感じた。以下,その要点である。
 ■ 映画の冒頭はドキュメンタリー調で,エベレスト登頂の歴史やその困難さを語っている。毎年多くの登山隊がエベレストを目指すが登頂に成功するのは4人に1人だという。ネパールの海抜3,750mの都市,3,867mの高地にあるタンボチェ僧院等の映像はすべて本物だろう。ところが,5,364mのベースキャンプの混雑ぶりは別地点での撮影であり,7,951mの第4キャンプから頂上を臨む映像となると合成だろうと感じる。
 ■ 実際に4,876m付近まではヒマラヤで多くの場面を撮影したという。その他,雪原の場面はアイスランドで撮影し,山頂付近のシーンはイタリアン・アルプスで代用したようだ。それでも3,657mの山頂に機材を運んでの撮影となると,俳優にとっても相当過酷な体験であったに違いない(写真1)。いかにもデジタル合成と思えるシーン(写真2)も登場するが,大半はどれが山岳地帯でのロケかスタジオ撮影か見分けられない。雪崩,猛吹雪,雷,雲の動き等も,CGか実写か識別出来ない。その点では,VFX史上に残る山岳映画である。
 
 
 
 
 
写真1 アルプスでのロケは,俳優にも過酷な体験
 
 
 
 
 
写真2 これは,いかにものVFX合成シーン
 
 
  ■ 残念なのは写真3のようなシーンが多く,このレベルの構図で留まっていることだ。ここから一気にカメラを引いて,壮大な山岳風景が登場することを期待したのに,それがない。一部にCG映像やデジタル俳優を使用すれば済むことなのに,実際に撮影した素材での合成に拘る余り,それを善しとしなかったのだろう。VFXの主担当は監督指定のReykjavik Visual Effects社で,その他もFramestore以外にはマイナーなスタジオばかりだった。スケール感の演出力に欠けていると言わざるを得ない。3D映像も2D撮影から変換したフェイク3Dで,目立つほどの立体感はなかった。
 
  ()
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 実写同士の合成だろうが,ここからカメラを引いての雄大なシーンが欲しかった
(C) Universal Pictures
 
 
   
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next