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O plus E誌 非掲載
 
 
 
 
『メン・イン・ブラック3』
(コロンビア映画
/東宝東和配給)
 
 
      Photo by WILSON WEBB - (C) 2011 Columbia Pictures Industries, Inc.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [5月25日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー公開中]   2012年5月14日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  第1作を凌ぐ軽快なテンポと遊び心。ラストも素晴らしい。  
  シリーズ3本目にして3D作品で登場,というとごく当たり前の新作のように聞こえるが,実はよくぞ復活してくれたと思うほど久々の再登場である。第1作目は1997年の製作で,本欄で取り上げたのは1998年1月号の技術解説記事の付録であり,まだ映画評を毎月連載していない頃であった。勿論,評点もつけていない時代だ。何と,総称はSFXで,まだVFXという言葉すら使っていなかった。書評やルポに混じって,たまに映画評をやっていたのだから,ILM担当のCGは,当時としては語るに値するデキで,個性的なエイリアンの描写はワクワクする楽しさだった。
 エージェント"K"=トミー・リー・ジョーンズ,エージェント"J"=ウィル・スミスのコンビの妙を褒め,映画史上に残る名コンビとの高評価を与えていた。ラストで「普通のオジサンに戻りたい」と引退したはずの"K"を,再び地球を救うために駆り出した続編が作られたのは5年後のことだった(2002年8月号掲載)。予想通りの復活であったし,CG/VFX的にも進歩はあったが,物語としては今イチだった。それ以来,既に10年も経っている。その間,T・L・ジョーンズはサントリー缶コーヒーBOSSのCMでとぼけた味を出し,我が国でもすっかり人気者になった。元々老け顔だが,最近は老いが目立ち,さすがにウィル・スミスと組んだエージェント役は難しいのではと思ったのだが,本作では,それを思いもかけない方法で解決しているではないか。
 結論を先に言うなら,この3作目は素晴らしい娯楽作品に仕上がっていた。地球上に住む地球外生物を監視する秘密組織MIBが彼らの勤務先だが,例によって,記憶を消したり戻したりできるニューラライザーで,物語展開は自由自在だ。今回は時空を超えたタイムトリップまで登場する。"K"が突然いなくなったことを知った"J"が,原因を探るべく1969年の世界に赴くという寸法である。1作目に勝るとも劣らないリズム感,スピード感のある小気味いい映画で,CG/VFXも最新技術がそれを一層盛り上げている。昨年公開の『ワイルド・スピード MEGA MAX』(11年10月号) 『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(12年1月号) と同様,最新作がシリーズ最高傑作だと言える。喜ばしいことだ。
 さて,老化した"K"への対策だが,"J"が2012年から1969年にタイムスリップして,若き日の"K"と遭遇し,映画の大半をこの時代で描く設定となっている。この若き日の"K"は,T・L・ジョーンズの顔をVFXで若返らせたのでもなければ,フルCGキャラで描いているのでもない。予告編を見てすぐ理解できるように,全く別の俳優ジョシュ・ブローリンを起用しているのだ(写真1)。一見して,良く似ていて,すぐに"K"の若い頃だと分かる。
 
 
 
写真1 これが1969年の"K"(29歳)と"O"
 
 
  でも,待てよ。この2人はアカデミー賞受賞作『ノーカントリー』(08年3月号) で共演していたはずだ。麻薬取引の資金を持ち逃げして組織に狙われる平凡な男(J・ブローリン)と,彼を保護しようとする老保安官(T・L・ジョーンズ))だったと記憶している。この2人が似ているという印象は全くなかった。素顔の写真を見ても,およそ似ていない。ところが,黒服黒ネクタイにオールバックの髪形にしただけで,「似ている!」と感じる。無表情でボソっとつぶやく口調が類似性を倍加させ,「瓜二つだ。よくぞ,この手を思いついた」と称賛したくなる。J・ブローリングをキャスティングしたプロデューサも炯眼なら,"J"と"K"の間のとり方を徹底分析して「若き日の"K"」になり切ったJ・ブローリンの役者魂も見上げたものだ。
 監督は勿論,第1作目からメガホンをとるバリー・ソネンフィールド。新登場人物では,"K"と"J"の女性上司"O"役に,「ナニー・マクフィー」シリーズのエマ・トンプソン,その若き日の姿をアリス・イヴが演じているが,こちらは似ているとは感じなかった。その他では,1969年に登場して騒々しい言動をするアンディ・ウォーホル役の俳優が気になった。ポップ・アーティストとしての数々の作品は知っているが,実像はよく知らない。ビル・ヘイダーなるコメディアンが演じているが,物真似タレントだそうだから,きっとA・ウォーホルの特徴を誇張して演じていたのだろう。
 とにかく楽しい作品だが,以下VFXの見どころも含めた感想である。
 ■ この映画のエイリアンは,醜悪で恐ろしい存在ばかりではなく,滑稽で剽軽な存在として描かれているのがウリである(写真2)。MIB本部内でさりげなくウロウロしているのがいい(写真3)。1969年の世界では,そのMIB本部もエイリアンもレトロな感じで描いている。MIB本部に済むお馴染みの「ワーム」も,出番は少ないがカメオ出演して,ファンを喜ばせてくれる。物語の鍵となる「宇宙エビ」(写真4)や地球制覇を目論むUFOデザイン(写真5)もどことなく滑稽で,遊び心に溢れている。こうしたクリーチャーのデザインは,特殊メイクの達人リック・ベイカーが担当している。
 
 
写真2 スタジオ内で記念撮影。何となく滑稽。
 
 
 
写真3 背景にさりげなく登場。こちらも滑稽。
 
 
 
写真4 これが宇宙エビ。エビというよりカニだと思うが。
 
 
 
写真5 尻尾はロブスター風だが,甲羅はワタリガニを思い出す
 
 
  ■ クリーチャー・デザインの双璧の遊び心は,特殊兵器やガジェット・アイテムのデザインだ。まず,毎度カッコいい銃は,本作でも色々なデザインのものが登場し,どれも洒落ている。2012年のMIB情報検索端末のデザインも奇抜で秀逸であれば,記憶消滅装置ニューラライザーの1969年版は部屋一杯あり,真空管式だという(写真6)。一々書き切れない楽しさだ。
 
 
 
 
 
 
写真6 (上)従来の棒状のニューラライザー,(下)1969年製は大型で真空管式だそうだ
 
 
  ■ CG/VFXシーンは全編いたるところだが,大きな見どころは3つある。まず,"J"が77階建てのロックフェラー・ビルの61階の踊り場に立ち,そこから飛び降りてタイムスリップを実現する場面だ。勿論,回りのビルも見下ろす地上もCGだが,この3D効果が素晴らしい。本作はフェイク3D作品だが,CG満載であるだけに3D飛び出し感の誇張はフェイク3Dの方がやりやすい。2番目は,1969年世界で登場するジェット・バイクでのチェイス・シーンである。円形の車輪の中心に座席が付いた形状が斬新で,地球ゴマを連想させるデザインだ(写真7)。この輪の回転面を傾けながら疾走するVFXシーンは躍動感に溢れ,わくわくする出来映えだ。
 
 
 
 
写真7 このバイクのデザインが出色。回りが車輪で,中に座席がある。
 
 
   ■ 3番目は終盤のアポロ11号の打ち上げ場面だ(写真8)。サターンVロケットの打ち上げのCG表現は,その他のアポロもので何度も見かけたが,本作ではロケット打ち上げ設備の赤い鉄骨枠組の質感も見ものだ。この足場を舞台にアクション・シーンが展開する。縦横に走る支柱や梁の大半はCG描写だろう。それゆえ,この場面での3D効果もなかなか見応えがある。本作はなぜか東宝東和配給だが,元は前2作と同様,コロンビア映画作品だ。よって,CG/VFXの主担当はケン・ラルストン率いるSony Pictures Imageworks (SPIW)とImageworks Indiaだ。他に,Method StudiosやPrime Focus VFX等も参加している。
 
 
 
 
 
 
写真8 歴史的なアポロ11号の打ち上げ場面も,今やほとんどCGで表現
Photo by WILSON WEBB - (C) 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.
 
 
   ■ 前2作のファンも初めて本作を観る観客にとっても軽快な映画だったと思うが,特筆すべきは,話のオチの見事さだ。詳しくは書けないが,こう来るとは思わなかった。必須項目といえるハリウッド定番の父子の絆を軽く絡ませながら,完璧な仕上げだ。ここだけで☆☆+評価を☆☆☆に格上げしてしまった。次は,老いた"K"のままでいいから,もう1作は作って見せてくれないだろうか。  
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