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O plus E誌 2011年10月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『スパイキッズ4D:ワールドタイム・ミッション』:3Dではなく,4Dである。2001年から3年連続で製作された本シリーズは,既に3作目で3D化を果たしている。現在の3Dブームが来る遥か前で,劇場では赤と青のアナグリフ方式で上映されていた。8年ぶりの4作目は,匂いまで加えた4Dだというが,入場時に手渡されるカードを,上映中の指定箇所で擦れば,苺やオレンジの香りがするというだけの子供だましだった。内容的にもお子様向け映画に徹している。脚本・監督は引続きロバート・ロドリゲスだが,スパイの両親も姉弟も別人と入れ替わっている。さすがに8年前の子役を使う訳には行かないなと思ったら,新スパイキッズ姉弟の従姉弟という位置づけで,大人になった彼らを再登場させる趣向だった。他愛もないスパイアイテムが多数登場し,CGも満載だが,大人が真面目に観る映画ではない。
 ■『スリーデイズ』:当代きっての脚本家ポール・ハギスの筆なる作品で,彼自身が監督を務めるとなると,これは見逃せない。仏映画『すべては彼女のために』(08)のリメイク作だというから,元の骨格がしっかりしている上に,細部にわたってP・ハギス流の演出が冴え渡るだろうと期待できる。果たせるかな,極上のサスペンス・アクションに仕上がっていた。複雑な人間模様が絡み合う訳ではなく,殺人犯として収監された無実の妻を救うため,平凡な大学教師の夫が周到な脱獄計画を準備するという設定である。妻を奪還して以降,警察の追跡をかわす逃避行の緊迫感が白眉だ。刑務所内での夫婦の会話も,主人公と父親が口数少なく抱き合うシーンも,見事の一言に尽きる。後日談で,排水溝のボタンを巡る描写も,P・ハギスらしい味付けだ。
 ■『僕たちは世界を変えることができない。』:長い題だが,見応えのある青春映画だった。何不自由なく学生生活を送っていた医大生達が,突如としてカンボジアの子供たちのために小学校を建設しようと思い立ち,奮闘する様を描いている。主演は,TV版『ゲゲゲの女房』で人気を博した向井理。実話ベースだというので,人気俳優を配した安直なボランティアものかと思ったが,現代気質の大学生の描写が適確で,カンボシアの貧困社会の描き方も生々しかった。何よりも,子供たちの笑顔がいい。甘ったるいラブロマンスや迫力のない和製アクション映画を観るくらいなら,日本の若者たちがこの映画を観て,何かを感じるようなら,大いに喜ばしい。監督は,『同じ月を見ている』(05)の深作健太。故・深作欣二の実子だが,親父譲りで,監督の才がある。
 ■『プリースト』:人類と天使たちの戦いを描いた『レギオン』(10年6月号)と同様,スコット・スチュワート監督,ポール・ベタニー主演の組合せで,今度はヴァンパイアとの戦いだ。VFX専門誌Cinefexが掲載する作品で,しかも3D映画となると,当欄ではメイン記事の1つで取り上げるべきなのだが,先月号の『グリーン・ランタン』と同様,どうもその気になれなかった。所詮絵空事とはいえ,荒野を疾走するバイクとの絡みは荒唐無稽すぎるし,異形のヴァンパイアはまるでエイリアンだ。「2D→3D変換」のフェイク3Dも何一つ感心しない。ホラーやゾンビ系のB級作品得意のスクリーン・ジェムズ作品のタッチはこんなものだと思いつつも,これはついて行けなかった。こんな低予算映画に,VFX多用で3D化しようということ自体に無理がある。
 ■『カンパニー・メン』:文字通り会社一辺倒で生きてきたビジネスマン達が,リーマンショック後に突如リストラされ,悪戦苦闘の生活を送る物語だ。主演はベン・アフレックだが,トミー・リー・ジョーンズ,クリス・クーパー,ケヴィン・コスナーら,助演男優陣がオスカー受賞者揃いで,それぞれに味のある演技を見せてくれる。地味な映画だが,再就職支援センターの様子や,プライドを捨てて大工仕事に就く様が生々しく,この物語に引き込まれてしまう。脚本も演出もいいが,失業者の夫を支える健気な妻役のローズマリー・デーウィットに惚れてしまう。これが本当にアメリカ人の平均的な夫婦か? 家族愛を訴えるパターンはお決まりだが,この映画の場合はそれが嫌味でなく,物作りで苦労を共にした仲間たちの絆にも少し感動してしまった。
 ■『幸せパズル』:ちょっと珍しいアルゼンチン映画だ。題名から想像できるように,ハートフルな人生賛歌ドラマだが,ジグソーパズルが題材というのが目を引いた。平凡な専業主婦が,思いがけずパズルの才能に目覚め,ユニークな戦い方で世界選手権出場をめざすというアイディアが面白い。脚本・監督は,これがデビュー作となるナタリア・スミルノフ。セリフやカメラワーク等はまだまだだが,女性ならではの視点でヒロインの繊細な心の変化を描く。この流れなら,当然世界選手権での盛り上がりをと期待したのだが,淡泊な結末で見事に交わされてしまった。うーん,これでいいのか……。
 ■『はやぶさ/HAYABUSA』:昨年大きな話題を呼んだ小惑星探査機の打ち上げから,偉業達成までの7年間を描いた物語だ。この貴重なネタを映画界が放っておく訳がなく,本作は20世紀フォックス配給の邦画だが,この後も来年にかけて,松竹,東映作品が待ち構えている。監督は堤幸彦,主演の女性科学者役に竹内結子だが,西田敏行,佐野史郎,高嶋政宏,山本耕史らが脇を固める。セリフは棒読み,CGはチープで,邦画の限界を感じざるを得ないが,幾多の困難を乗り越える「はやぶさ計画」自体が素晴らしいので,科学技術の啓蒙的役割は十分果たしている。嬉しいのは,JAXAの管制室,実験室から,研究者の下宿まで見事な「完コピ」で見せてくれることだ。小道具の隅々に至るまで完璧だ。
 ■『リミットレス』:小気味いい映画で,筆者の好みの映画の部類に入る。奇妙な新薬を飲んだところ,日頃30%しか活用されていない脳の機能が100%発揮されて,超人的な頭脳の持ち主になる。SF的着想でありながら,中盤以降は金融ビジネスものになるが,展開のテンポがいい。この薬は副作用があると分かって,観客の誰もが,自分なら止めれるか,続けるか自問自答しながら観てしまうだろう。主演は,『ハングオーバー!』シリーズのブラッドリー・クーパー。今回は堂々たる単独主演だ。財界の大物役は,ロバート・デニーロ。タイプは似てるが,『ウォール街』(87)のマイケル・ダグラスだったらもっと良かった。そして何よりも結末がいい。この種の展開にありがちな結末とは,一味違う。
 ■『夜明けの街で』:原作は東野圭吾のベストセラー小説で,珍しく恋愛もの,しかも不倫が主テーマだ。岸谷五朗と深田恭子が,主演の男女だが,このテーマならもう少し渋いイケメン男優が欲しかった。一方,『こち亀』(11年8月号)でのマドンナ役が可愛く,再度ファンになった深キョンではあるが,この役は重過ぎる。魔性の女に全く見えないし,ベットシーンはぎこちない。『白夜行』(11)の堀北真希のような見事な変身とはならなかった。これじゃ,不倫の地獄に引きずり込まれる中年男に感情移入できない。監督は『沈まぬ太陽』(09)の若松節朗だが,この人の演出はストレートで,俳優の演技力の無さが露呈してしまう。それでも,結末はそこそこ上手くまとめ上げていた。さほどの衝撃の真実ではなかったが,萬田久子と木村多江の演技力に救われた感がある。
 ■『ツレがうつになりまして。』:映画の表題らしからぬキャッチーなタイトルで,食指が動いた作品だ。原作は細川貂々作のコミック・エッセイで,略称「ツレうつ」というらしい。鬱病を患った夫を見守る夫婦の闘病記は,想像通りの癒し系の作品だった。同じヒューマンドラマでも,ハリウッド系ならもっとハイテンポで,喜怒哀楽の激しいものになるのだろうが,この映画では言葉数が少なく,静かな音楽と共に淡々と物語が進む。主演の宮崎あおい+堺雅人は,大河ドラマ『篤姫』でお馴染のコンビだ。皆いい人ばかりで,悪い人や嫌な奴は1人も登場しない。映画としては,鬱に至るまでの厳しい職場環境,闘病の修羅場をもっと激しく描いた方が,感動度はアップしたと思うが,何事にも淡泊な若い世代向けにはこれでいいのだろう。少なくとも,下手くそで(私なら)見る気になれない原作コミックの味は出ている。
 ■『一命』:三池崇史監督が役所広司を起用しての時代劇というと昨年の娯楽大作『十三人の刺客』を思い出す。一方,小林正樹監督,仲代達矢主演の『切腹』のリメイクで,音楽は坂本龍一が担当と聞くと,物静かで重厚な作品を想像する。その期待通り,セットも演技も,本格的な時代劇だった。大きな話題が2つある。主演は,市川海老蔵。昨年末のあの騒動以前に撮影されたものだが,さすが梨園の御曹司,所作にも目の演技にも型があり,初老の武士になり切った迫真の演技を見せてくれる。もう1つは,時代劇初の3D作品であること。それもフェイク3Dでなく,最新の3Dカメラで撮影した本物である。目が疲れず,狭い日本の家屋でも無理のない立体感を出していた。それで,3Dの価値はあったかと言えば,話題作り以上の価値は見出せなかった。
   
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