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O plus E誌 2009年11月号掲載
 
 
 
沈まぬ太陽』
(角川映画/東宝配給)
 
      (C) 2009「沈まぬ太陽」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [10月24日よりTOHOシネマズ スカラ座ほか全国東宝系にて公開中]   2009年10月6日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  骨太の社会派ドラマ,アフリカの夕陽が頗る美しい  
   実に絶妙のタイミングでの公開である。原作は山崎豊子作の同名の長編社会派小説で,航空会社内の労使問題,陰湿な報復人事,墜落事故と後処理,組織の腐敗等を描いている。会社名を「国民航空」としているが,ジャンボ機の墜落現場が御巣鷹山で,被害者が実名で登場するのだから,誰の目にも「日本航空」であることは明らかだ。フィクションと断りながらも,モデルとなった人物が容易に特定できること,経営側に取材もせずに偏った視点から描いていることが,週刊誌連載時から話題になっていた。日航への配慮からか,TVドラマ化,映画化の企画は何度も立ち消えになったが,紆余曲折を経てようやく製作・公開へとこぎつけた。それが,折りからの政権交代により日航再建問題が白紙に戻された時期に重なるとは,偶然とはいえ出来過ぎだ。
 山崎作品は多数映像化されているが,映画化はこれが33年ぶりだという。そーか,印象深かった田宮二郎主演の『白い巨塔』,上川隆也主演の『大地の子』はTVシリーズだった。最近作は長編が多いので,連続ドラマの方が製作しやすく,映画1本では描き切れないからだろう。本作の原作は全5巻(アフリカ編2巻,御巣鷹山編1巻,会長室編2巻の構成)だが,映画は3時間22分の長尺で,途中10分間の休憩が入る。途中休憩は最近では珍しく,それだけでも意欲のほどが分かる。
 主人公は,巨大産業・国民航空(NAL)の労組委員長の恩地元(渡辺謙)で,職場改善要求で会社と闘った結果,懲罰的人事でパキスタン,イラン,ケニアといった僻地勤務を強いられる。10年間の海外勤務からの帰国後は,ジャンボ機墜落事故の救援隊・遺族係となった恩地を中心に物語は展開する。後半は,NAL経営刷新のため就任した国見新会長(石坂浩二)から会長室長に抜擢され, 会社の腐敗と戦うが,やがて国見会長は更迭され,恩地は再びケニアのナイロビへと追いやられる……。
 監督は『ホワイトアウト』(00)の若松節朗,脚本は『陽はまた昇る』(02)の西岡琢也だが,この長尺を全く長く感じさせない見事な語り口だ。この映画は,ジャンボ機墜落から始まり,フラッシュバックのようにアフリカ編が随所に登場する。御巣鷹山の事故現場の再現も見事だし,1960年代のカラチやテヘランの様子もそれらしい。何よりもアフリカ・ケニアの大自然が素晴らしい。安易な海外ロケが横行する中で,このロケは成功の部類だ。真っ赤な太陽が登場するエンディングは,これだけでこの映画の存在価値を高めている。
 骨太の良心作だが,不屈の精神をもつ主人公に渡辺謙を据えたのが正解だ。その半面,同期入社の盟友・恩地を裏切り,経営陣に迎合する行天四郎(三浦友和)の人物造形に難がある。高潔な恩地と権力志向の行天は,まるで「白い巨塔」の財前五郎と里見脩二を裏返しにして見るかのようだ(写真1)。恩地元のモデルは実在の労組委員長・小倉寛太郎氏だが,行天四郎には特定のモデルはなく,黒い噂のあった複数の人物を凝縮した存在らしい。原作の行天の行動には迷いがあり,彼なりの葛藤が描かれているが,映画の行天はただの功利的で嫌味な人物に映る。ここまでくると嘘っぽい。恩地を嫌う経営陣もしかりだ。ビジネス社会の人間関係や価値観はもっと多様で,こんな単純な善悪の図式ではないと誰もが感じるだろう。それでは,主人公の恩地の人格までが薄っぺらに見えてしまう。それが,この映画の唯一の欠点だ。
 
   
 
写真1 閑職の恩地(左)とエリート街道を歩む行天(右)
 
   
   さて,本欄の主題であるVFXはといえば,ジャンボ機はほぼすべてCGによる描写だろう。本物の旅客機の映像に,機体のマークやカラーデザインだけデジタル処理で書き換えることも可能だが,現在なら飛行機丸ごとCGで描く方が手っ取り早い。飛行場のシーンで,牽引車両は本物,ジェット機本体はCGという使い方かと見て取れた。大半をCGで描けるならば,ジャンボ機のダッチロールや御巣鷹山への墜落までも,(想像でいいから)描いて欲しかったところだ。
 その他では,体育館に並んだ多数の棺(写真2)の一部はCGのようにも見える。そうであっても不思議はないが,映画中での印象としては全部本物に見えた。アフリカで象が撃たれて倒れるシーンや,最後に大草原を疾走する動物(サイ? バッファロー?)の大群はCGのようにも見える。多分,どちらも実写だろう。そこまでハイレベルなCG/VFXは使われていないと見て取れた。
 では,なぜそんな作品を取り上げたかといえば……。単に筆者がこのベストセラー小説の映画化作品を観たかったから,この機会に原作も読みたかったからだ。それだけの理由だが,充分その価値はあった。
 
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写真2 最も印象的なシーン。この棺の数を見ただけで墜落事故の重大さ,往時の悲しみが伝わって来る。
(C) 2009「沈まぬ太陽」製作委員会
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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