head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
   
title
 
O plus E誌 2009年5月号掲載
 
 
 
鴨川ホルモー』
(松竹配給)
 
  (C) 2009「鴨川ホルモー」フィルムパートナーズ
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [4月18日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹系にて公開中]   2009年2月19日 MOVIX京都  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  古都を背景にした青春小説をCGで加工した逸品  
 

 これは絶対に当欄で取り上げ,私がしっかりとした独自の評を書くしかないと思った作品である。にもかかわらず,先月号の作品数過多のあおりを受け,公開後の発行となる本号に回ってしまった。いや,絶対に書くと決め,先月号で短評欄に押し込めることはせず,1ヶ月遅れで紹介する道を選んだ訳である。
 原作は,京大・法学部卒の新進作家・万城目(まきめ)学が著した同名小説で,第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞している。聞いたことなかったが,「ジャンルを問わない清新なフィクション」が対象の新人発掘の文学賞のようだ。それが直ちに映画化とは,まさに意図通りの路線に乗って売り出し中である。
 主人公は二浪で入学した京大生・安倍明で,「京大青竜会」なるサークルに入部したところ,京都に千年間伝わる謎の競技「ホルモー」の実施団体で,奇妙な式神(オニ)を操って戦う破目になるという設定である。全編京都ロケで,古都の四季や風物が登場し,肝となるオニ達はCGで描かれる。前半のクライマックスは,立命館大学・衣笠キャンパスでの「京大青竜会」対「立命館白虎隊」の戦い(ホルモー)だという。私事で恐縮だが,京都生まれ京都育ちの筆者にとって,母校対現勤務先の対戦で,CGが重要な役割を占めるとあっては,これは私が書くっきゃない。そう意気込んでMOVIX京都での関係者用試写会に臨んだ。『おくりびと』のオスカー受賞に続き,『ヤッターマン』(09年3月号)でも好調な松竹作品だけに,その勢いにも期待した。
 監督は『ゲゲゲの鬼太郎』(07年5月号)の本木克英。主人公・安倍明役には『電車男』(05)『クローズZERO』(07)の山田孝之。ユニークな女子大生・楠木ふみ役には,『キル・ビル』(03)の栗山千明。青竜会の他のメンバーには,濱田岳,石田卓也,芦名星,斉藤祥太・斉藤慶太らの若手俳優が起用されている。
 本作品は小説も映画も楽しむつもりで,原作を4分の1ほど読んでから映画の試写を観て,その後原作小説の残りを読了するという,いつもの流儀で臨んだ。原作は,大学生が主人公の青春小説らしい平易な文体の中に,陰陽道に基づく「ホルモー」の解説を巧みにちりばめている。ホルモー競技に参加する4チーム「京都大学青竜会」「龍谷大学フェニックス」「立命館大学白虎隊」「京都産業大学玄武組」という名称は,「東の青竜,南の朱雀,西の白虎,北の玄武」という「四神」にちなみ,京都市内における各大学の場所にも対応している。「ホルモー」は全くの虚構ながら,故事にならった理屈づけがなされて,心地よいフレーバーを放っている。これは,最近のゲーム世代向けコンテンツでの流行だとも言える。
 映画のチラシやポスターを観た感じでは,かなりハチャメチャでギャグ満載の映画かと思ったのだが,意外と大人しい味付けだった。ある意味で普通の青春映画だと言える。原作にかなり忠実に描いてあるので,その縛りだったのだろうか。小説に戻って残りを読了したら,まさにそうだった。筆者の期待度からすれば,この映画にはもっと盛り上がる爆発度が必要だと感じた。
 葵祭,祇園祭,大文字,秋の紅葉など,映画でも京都の四季や著名な年中行事がしっかり描かれていて,観光映画にもなっている。京大,立命館大のキャンパスを始め,上賀茂神社,御園橋,清水寺,八坂神社等の景勝地も登場し,この映画だけで京都の大学で学びたくなる高校生もいることだろう。
 さて,CGで描いたオニである。最初なかなか登場しないが,「吉田代替りの儀」を経ると一気に見えるようになり,後はずっと登場する(写真1)。このオニのデザインは良くできている。原作中でも,体長30cm,3等身で顔の中心に茶巾絞りのような突起があると記されているが,映画を観ないととてもその姿を想像できない。その点では,CG映像なしには有り得なかった映画だ。個々に武器を持って戦う様はアップにも耐え得る品質だし(写真2),昇天して行く描写も悪くない(写真3)。Massiveを使った訳ではないだろうが,競技者1人当たり100匹が登場するオニの配置や動きも工夫されている(写真4)

 
 

 
 
 
 
 

写真1 「代替わりの儀」を済ませると見えてくるオニ(式神)たち。なかなか愛嬌のある良いデザインだ。

   
 
 

写真2 CGならではのホルモー競技はアップにも耐える

   
 
写真3 戦いに破れると半透明になり昇天する(左)
 
   
 
写真4 一競技者につき100匹のオニが  
 
   
   
   CG/VFXの担当はGONZOだ。元来はアニメーション・スタジオだが,最近は『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(08年8月号)『252 生存者あり』(同12月号)などの実写映画のVFXにも進出し,進境著しい。空を覆う暗雲や爆発など,オニ以外のCG/VFXはさほどの出来ではなかったが,総計2千匹のオニを丁寧に描き込んだだけで合格点を与えていいかと思う。
 学園ものの青春映画として観た場合も合格水準に達している。欲を言えば,もっと関西弁で話せる俳優を起用すべきだった。これでは,京大生たちには見えない。主演の山田孝之は,青春映画の常連だが,最近出演作が多過ぎて食傷気味だ。色々な役に挑戦しているのは分かるが,この役作りは感心しない。ミスキャストの部類に入る。それを補って余りあるのが,大木凡人風のオカッパ頭と黒縁眼鏡で登場する栗山千明だ(写真5)。このキャスティングとオニのデザインだけで,この映画の存在価値がある。
 エンドロールには写真6のような映像が流れる。最初このスチルを観た時は,何で5人なのかと不思議だった。原作の表紙カバー(写真7)では4人で,勿論,ビートルズ最後のアルバム『アビイ・ロード』のジャケットのパロディだ。八坂神社をウェストミンスター寺院に見立て,その前の四条通りを渡る光景は,映画を観た後なら,ここはこの5人で良かったと分かるはずだ。  
 
  ()  
 
 
 
写真5 大木凡人に似た髪と眼鏡がトレードマーク(左)  
 
   
 
写真6 八坂神社前の「アビイ・ロード」は5人で渡る?
   写真7 原作本はパロディらしく4人
 
 
(C) 2009「鴨川ホルモー」フィルムパートナーズ
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br