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O plus E誌 2010年11月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『義兄弟 SECRET REUNION』:銃撃事件の不始末でクビになった韓国の元国家情報員とその事件に関与していた北朝鮮工作員の心の触れ合いを描く。題名は野暮で工夫がないが,この映画はかなり面白い。一時期ほどの勢いがない韓流映画も,南北問題をテーマにした途端に引き締まる。刑事ものサスペンスの変形版で,ベタベタした家族愛も甘っちょろいラブストーリーもなく,アクションも激し過ぎず適度で,全体のバランスが良い。お馴染み庶民派の名優ソン・ガンホと渡り合う若手のカン・ドンウォンがいい味を出している。結末が少し緩いのが不満だが,『チェイサー』(09年5月号)のあの不愉快な結末に比べれば,これでもいいかと思う。
 ■『牙狼 <GARO> ~RED REQUIEM~』:特撮で人気を博した深夜放映のアクションホラーの映画化で,人間の欲望に取り憑く魔獣ホラーと魔戒騎士の死闘がテーマだそうだ。VFX多用と聞いても食指は動かなかったが,きちんと2台のカメラで撮ったフル3D映画というので腰を上げた。魔戒法師,魔塔ホラー,魔戒獣等々が出て来ると,とてもついて行けない。物語は無視して映像の3D効果だけを観ていたが,これはしっかりと作られていた。黄金騎士ガロの光沢感,立体感はなかなかのものだ。『THE LAST MESSAGE 海猿』の3D版に失望した後だっただけに,フル3Dの効果を堪能した。2D→3D変換で十分と考える連中に見せたいものだ。
 ■『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』:ビートルズ結成前の10代のジョン・レノンを描いた物語。表題は「ラバー・ソウル」収録の「Nowhere Man」をもじったもので,副題はその曲の邦題と同じだ。育ての親である厳格な伯母と放蕩な実母の間で揺れ動く反抗期のジョンが主役で,彼を愛する「二人の母」の葛藤の描写が秀逸だ。さすが才能ある女性監督ならではの演出と感心する。監督は,これが映画デビュー作となるサム・テイラー=ウッド。50余年前のリバプールの風景もR&R初期の名曲も心に残る。ビートルズの曲が流れないのが残念だが,ラストを飾るジョンの後年の曲「Mother」が鮮烈だ。その歌唱の凄さに戦慄する。
 ■『[リミット]』:究極のワン・シチュエーション・ムービーだ。事前知識なしに観た方がいい映画もあるが,この映画は設定を知っておいた方がいい。イラクでゲリラに襲われた米国人トラック運転手が,目が覚めたら土中に埋められ,棺桶の中にいる。全編がこの棺の中だけで推移し,登場人物も彼だけというユニークな設定は,2度と使えない手である。ただし,ライター,携帯電話,ナイフ,ペン,懐中電灯が手元にあり,電話をかけまくるので,通話相手が声だけで次々と登場する。この会話は現代社会の縮図であり,シニカルなネット社会批判にもなっている。土砂に埋もれながら救出を待つ主人公の運命は……。結末は知らない方がいいだろう。
 ■『さらば愛しの大統領』:世界のナベアツが映画監督に初挑戦し,本人役で登場するお笑い映画。大阪府知事に当選し,独立国家宣言して「大阪合衆国」の大統領に就任する構想は,現実に「大阪都」を目指している橋本府知事もビックリだろう。吉本のお笑いタレントが多数登場し,「アホ」をテーマにするというだけあって,随所で笑いを誘う。ところが,準主演の刑事役の宮川大輔とケンドーコバヤシの演技がまとも過ぎる。熱演ではあるが,これでは「笑い」は単発で,物語に溶け込まない。もっと徹底して荒唐無稽なアホ映画にしなくては,この映画の意味はないだろう。
 ■『マチェーテ』:これぞ究極のB級映画,超B級映画だ。パロディ映画『グラインドハウス』(07)内で流した偽の予告編を本当に映画化したという由来に相応しい展開と布陣である。製作総指揮クエンティン・タランティーノ,監督・脚本ロバート・ロドリゲスというセールストーク通りの出来映えで,『キル・ビル』(03 & 04)や『シン・シティ』(05)のファンならば絶対に気に入るだろう。凄まじい悪人面のダニー・トレホが正義の元捜査官役で主演し,ナイフの妙技を見せ,美女にもてまくる。それは勿論ご愛嬌だが,ロバート・デ・ニーロの悪徳上院議員,スティーヴン・セガールの麻薬王は,まさにハマリ役だ。難を言えば,美女2人(ジェシカ・アルバ,ミシェル・ロドリゲス)が結構似ていて,最初区別が付かないが,やがて意図的に似せていたと分かる。映像のタッチはロドリゲス調だが,音楽はタランティーノ好みの選曲だ。などと,勝手に観る側が愉しむ映画でもある。
 ■『クレイジーズ』:ゾンビ映画の元祖G・A・ロメロ監督の1973年の作品のリメイクもの。ただし,本作で戦うのはゾンビではなく,細菌兵器に感染して凶暴化した住民であり,「非ゾンビ系感染パニック映画」に属する。原版は未見だが,一連のロメロ作品と比べるとかなりスピーディーであり,現代風ノンストップ・サバイバル・アクション・ホラーに仕上がっている。ずばり言って,かなり面白い。有名俳優は出演せず,取り立てて話題作でもなく,映画史にも残らず消費される映画だろうが,入場料分の価値は十二分にある。なるほど,Rotten Tomatoesで満足度71%は頷ける数値だ。
 ■『ゲゲゲの女房』:NHK朝の連続テレビ小説で大人気の題材だが,こちらは漫画家・水木しげる夫人の同名自伝を別途企画し,映画化した作品だ。主演は,最近有力作品への出演が目立つ吹石一恵。役名が実名(武良布枝)であること,水木しげるを演じる宮藤官九郎の奇人ぶり,極貧生活のリアルさからも,本作の方が現実の水木(武良)夫妻に近いと想像できる。苦楽を共にする夫婦の純愛,ほのぼのとした人間関係の描写は,懐かしい昭和の風景に溶け込んでいる。高度成長前の日本にはこんな時代もあったことを思い出す。ただし,赤貧時代だけで終わらず,水木妖怪漫画が人気を呼ぶ,もう少し後の時代まで描いて欲しかった。
 ■『レオニー』:彫刻家イサム・ノグチの母である米国人女性の物語。それ以外の予備知識なしでこの映画を観た。日本人詩人と恋に落ち,一児を設けた彼女の心情を,繊細な音楽がセリフよりも雄弁に物語る。日本に渡ってからは,純和風の美しい光景が心を癒してくれる。明治末期らしさ描くVFXには,少し苦労の跡が見られるが,母レオニーの年齢経過を示すメイクが素晴らしい。原田美枝子,竹下景子,吉行和子らの使い方も見事だ。ここまで日本を理解している洋画は『ラスト サムライ』(03)『SAYURI』(05)より上だと思ったが,何と,日本人監督・松井久子の作品だった。同監督の映画は初めて観たが,邦画として観れば,このスケールでこの繊細な映画を撮れるという才能は非凡だ。
 ■『行きずりの街』:原作は志水辰夫作の恋愛ミステリー。行方不明の教え子を捜すため東京にやってきた塾講師(中村トオル)が,かつて自分を追放した名門女子高を巡る殺人事件に巻き込まれる設定だ。人物関係や過去の事件を小出しにして明かす前半は,クロスワードを解くかのようで面白い。さすが,阪本順治監督の構成力と語り口のうまさだ。12年ぶりに再開した訳ありの男女の展開は少し無理があるが,後半の暴力シーンの描写はリアルだ。『東京島』(10)での窪塚洋介は単なる嫌な奴だったが,同じ嫌な奴でも本作の方がずっと似合っている。これも監督の演出の腕だろう。  
   
  (上記のうち,『マチェーテ』はO plus E誌には非掲載です)  
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