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O plus E誌 2011年1月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『シチリア! シチリア!』:『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)のジュゼッペ・トルナトーレ監督作品で,あどけない少年が描かれた素敵なポスターからはほのぼのとした素朴な物語を想像したが,映画の印象はだいぶ違っていた。時代は1930年代から1980年代,監督自身の出身地シチリアを舞台に,ある家族を中心に描かれた一大叙事詩である。力作ではあるが,エピソードがてんこ盛り過ぎて十分に消化できない。4,5時間分の題材を2時間半に詰め込んでいると感じられる。いくら美味なイタリア料理であっても,朝・昼・晩の三食が一気に出されて,全部平らげろと言われれば閉口する。ただし,バックに見える遠景,俯瞰構図の場面はいずれも美しく,絵画を観るかのようだ。それに合わせたエンニオ・モリコーネの音楽も絶品だ。
 ■『バーレスク』:人気シンガーのクリスティーナ・アギレラの映画初主演作で,彼女が歌って踊るミュージカルというので楽しみにしていた。ロサンゼルスのバーレスク・クラブで働く田舎出の少女が,ダンスの才能と抜群の歌唱力で頭角を現すという典型的なシンデレラ・ストーリーである。名のある舞台ミュージカルの映画化なのかと思ったら,オリジナル作品らしい。なるほどアギレラの歌は迫力満点で,大した歌唱力だ。踊りも一級だ。物語もまあこんなものだろう。それだけあれば,ミュージカルとしては上出来のはずなのだが,今一つ満足度が足りない。『ムーラン・ルージュ』(01)に比べると華やかさに欠け,『シカゴ』(02)『ドリームガールズ』(06)ほど登場人物に魅力がない。主演の男女が,マドンナとブラピの二番煎じにしか見えないのが,オリジナリティの欠如の象徴だろうか。
 ■『しあわせの雨傘』:カトリーヌ・ドヌーヴの最新主演作。原題は『Potiche』(飾り物)なので,邦題が単に『シェルブールの雨傘』(63)にあやかっただけかと思えば,彼女は雨傘製造工場の社長夫人役で,しっかり幸せな気分にさせてくれる佳作だ。冒頭から赤いジャージー姿でジョギングする大女優のオバタリアン然とした体形を目の当たりにして,少し愕然とする。47年前の美貌を追い求めてはいけないと思いつつも,複雑な心境だった。ところが,このブルジョア主婦の変身,魅力満載の活躍振りに,思わず拍手を送りたくなる。英語でなく,仏語の甘い響きがすべてを許してしまう。政治家を志した演説はクリントン国務長官を彷彿とさせ,エンディングの堂々たる歌唱は美空ひばりを思い出す。いや,女性版プレスリーというべきかも知れない。
 ■『ウッドストックがやって来る!』:1969年夏に開催された伝説のウッドストック・フェスティバルの舞台裏を,この野外コンサートを誘致した青年の目を通して描く。ドキュメンタリーではなく,コンサートの模様や演奏された曲は全く登場しない。筆者らの世代は,アポロ11号の月面着陸,中国の文化大革命,ベトナム戦争,大学紛争と70年安保前夜……といった時代背景をすぐに思い出し,このコンサートの名前だけでヒッピーとカウンター・カルチャーの香りを感じる。少し年代が下のアン・リー監督にも,何か想い出があるのだろう。同時代体験のある観客は格別の感情を起こすだろうが,それ以外の世代にはどう映るのかが気になった。やっぱり,コンサートの模様やその楽曲を入れて欲しかったというのが,正直な感想だ。
 ■『愛する人』:工夫のない邦題だが,原題は『Mother and Child』。14歳で妊娠・出産し,すぐに乳児を手放した母親(アネット・ベニング)と母を知らずに育った娘(ナオミ・ワッツ)の37年後の姿を描く。共に満たされぬ想いで人生を送った2人が,人々の愛に触れ,優しい気持ちに変化して行く様子の描写が素晴らしい。女性を繊細に描くことでは定評のあるロドリゴ・ガルシア監督だが,ジミー・スミッツ,サミュエル・L・ジャクソン,デヴィッド・モースら男優陣の使い方が秀逸だ。女性監督だとその点が甘く,女性に好都合な凡庸な男ばかりになってしまい,却って女性が引き立たない。多くを語らず,さりげなく物語を進める語り口に酔いしれる。エンディングも見事だ(ところで,野次馬的好奇心からは,隣の若夫婦がその後どうなったかが気になった。やっぱり,荒れているだろうな……)。  
   
   
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