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O plus E誌 2009年11月号掲載
 
 
 
かいじゅうたちのいるところ』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
      (C) 2009 Warner Bros. Entertainment Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [1月15日より丸の内ルーブルほか全国ロードショー公開予定]   2009年11月10日 角川試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  癒し系のファンタジーならではのCGの使い方  
   原題は『Where the Wild Things Are』という。この題だけを観た時は,バイオレンス・アクション映画かと思った。平仮名だけの邦題をみると随分感じが違う。モーリス・センダック作の絵本の実写映画化なので,既に邦訳されている絵本の題が映画にも適用されている。
 漢字で「怪獣」と書くと,恐竜系・爬虫類系のおぞましい生物を想像してしまうが,平仮名にすると柔らかく,ほのぼのとした感じが漂う。実際,この映画は癒し系のファンタジーで,登場するモンスターは毛むくじゃらの動物だ。熊や狒狒に近い。広辞苑第6版で「怪獣」は,
@あやしいけもの。正体不明の不思議な獣。
A映画・漫画などで,恐竜などをもとに創作した,特別な力をもつ生き物。
と記されている。我々の感覚がAに毒されていただけで,この映画の「Wild Things」は本来の@の獣たちだ。
 物語は,いたずら少年のマックスが母親に叱られて家を飛び出し,ボートに乗ってたどり着いた島で遭遇する冒険を描いている。島に棲む「かいじゅうたち」に王様に祭り上げられ,やがてその嘘がバレて命の危険に晒される……。という展開だが,よくあるファンタジー物語の設定だ。離れ小島でなくても,地下の別世界でも,扉の向こうの魔法の世界でも構わない。
 監督は『マルコヴィッチの穴』(00年9月号)『アダプテーション』(03年9月号)のスパイク・ジョーンズ。彼がこうしたジャンルの映画を撮るとは意外だったが,原作者センダックのたっての希望で実現したとのことだ。主人公のマックス少年役は,この映画で抜擢されたマックス・レコーズ。撮影時は9歳で,現在12歳とのことだが,長編映画初出演にしては堂々たる演技だ。てっきりこの役から芸名をつけたのかと思ったら,偶然の一致だったようだ。母親役は『カポーティ』(05)『脳内ニューヨーク』(08)のキャサリン・キーナー。『マルコヴィッチの穴』にも出演していたから,S・ジョーンズ監督のお気に入り女優のようだ。
 他に姉やママの恋人も少し登場するが,映画の大半はマックスと7匹のかいじゅうたちの登場場面だ(写真1)。マックスに最初に出会うのは,かいじゅうのリーダー格のキャロルだが,これを観てすぐ,CGではなく着ぐるみでの撮影だと判った。他のかいじゅうたちもしかりである。なぜだろう? スチル画像を観た時は全部CGだと思ったし,最近のCG技術ならこれくらいの毛の質感は出せるはずだが,画面からはそうではないと感じるのである。ちょっとした動きなのだろうか,それともマックスと掛け合いが実物でないと自然ではないせいか?
 
   
 
写真1 この毛並みの質感はCGでないと分かる
 
   
   この映画の成功は,このかいじゅうコスチュームの造形にある(写真2)。原作絵本は,味はあるものの,そう上手い絵ではない。漫画風で滑稽であったり,恐ろし過ぎたりする。先入観なしで両方を眺めたら,この映画のかいじゅうの方がずっといい。それでも,平均身長3m弱,重さ135kgのコスチュームでの演技はさすがに大変で,随所にパペット操作も導入されていたようだ。  
   
 
写真2 これが,かいじゅうコスチューム
 
 
 
   いくら実物主義とはいえ,顔の表情が豊か過ぎる。これはどう考えても,CGでないと表現できないはずだ(写真3)。「そーか,口や顔をCGですり替えるアニマルトークを使えば,できるじゃないか」と気付いたのは,映画が中盤に差しかかる頃だった。そこまでかかったのは,実写とCGの繋ぎ目処理が見事だったからである。実際,毛皮コスチュームのテクスチャを撮影し,これをCGの毛にマッチさせるのに新技術を開発している。顔面アニメーションは,『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(09年2月号)で開発した技術が再利用されたようだ。クリーチャーデザインは英国のJim Henson's Creature Shopが担当し,CG/VFX制作には,Rising Sun Pictures,Animal Logic,Ilouraの豪州勢に加え,英国のFramestoreが参加している。
 家族連れで安心して観られる,良くできたファンタジーだ。こうした映画を観ると,「子供だまし」としか呼べない作品と「大人も童心に戻って楽しめる作品」の違いは,何なのだろうかと思う。原作絵本のクオリティだけではないだろう。最近の邦画の脚本のレベルの低さは再三述べたが,脚本家はもとより,美術・衣装・撮影等のスタッフの層の厚さの違いも大きい。最初から世界市場を狙って,万人に愛される作品を作ろうというマインドと,とりあえず春・夏・冬の国内市場で子供相手に稼げばいいと思っている映画人との志の違いではないか。改めてその想いを強くした作品だった。  
 
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写真3 顔の表情だけCG映像を合成。継ぎ目はほとんど分からない。
(C) 2009 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
     
  (画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加しています)  
   
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