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O plus E誌 2008年2月号掲載載
 
 
 
purasu
君のためなら千回でも』
(ドリームワークス映画
/角川映画配給)
 
      (C)2007 DreamWorks LLC and Kite Runner Holdings, LLC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月23日より恵比寿ガーデンシネマほか全国公開予定]   2007年12月27日 リサイタル・ホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  アフガニスタンの文化をリアリティ高く描いた佳作  
 

 こういう映画を当欄で紹介できるのは嬉しいことだ。映画のポスターを観ただけで,2人の少年の友情を描いた感動系だと分かるだろう。当初は短評欄での扱いのつもりだったのだが,しかるべきVFXシーンがあったので,急遽メイン欄に格上げして述べることにした。
 原題は『The Kite Runner』。邦題は洋画のタイトルらしくないが,これは劇中で少年たちが交わし合う友情の言葉だ。原作は,アフガニスタン出身でフランス経由で米国に亡命した無名の新人作家,カーレド・ホッセイニが2003年に著したデビュー作(邦訳は,ハヤカワepi文庫収録)である。実話ではないが,余り語られることのなかったアフガニスタンの文化や政情を背景に,友情,贖罪,家族の絆といった普遍的なテーマを描いて,全米で300万部,全世界で800万部を売り上げたベストセラーとなっている。
 監督は,本欄で『ネバーランド』(05年1月号)『ステイ』(06年6月号)『主人公は僕だった』(07年5月号)と3回も取り上げているマーク・フォースターだ。ドラマ性の高い,繊細な作品にはぴったりだ。主人公のアミールを演じるのは,エジプト系英国人のハリド・アブダラ,その妻ソラヤ役はアフガン=イラン系ドイツ人のアトッサ・レオーニ。もちろん馴染みはないが,その他の主要な役にもイランやペルシャ系の俳優を配している。そして,アミールの幼少期と1歳年下の召使いの子ハッサンの2人の子役は,欧米では適任が見つからず,アフガニスタンで約1ヶ月をかけて探したという。この映画の大半は,同国のダリー語のセリフだからだ。
 米国に渡って作家を志し,努力が報われて念願の処女作を上梓したアミールのもとに,故郷のアフガニスタンにいる恩人からの電話が入るところから物語は始まる。回想シーンは,1970年代の首都カブールの町,まだソ連侵攻前の平和な時代に遡る。冬休み最大のイベント凧揚げ合戦に優勝した2人の少年の関係を,思いがけない出来事が引き裂いてしまう。子役がいい映画は引き締まるが,このやり取りの間の2人の少年の演技は見事だ。パキスタンからアフガニスタン入りをしたアミールには,タリバン独裁政権下の非情な現実が待ち受ける……。原作はアミールの30年間を描いているが,映画は70年代と2000年の2つの時代に絞っている。後半はドキュメンタリー調だが,ケレン味のない好い脚本だ。
 この映画をソ連とタリバンに翻弄されたアフガン事情の政治ドラマ,米国礼賛のプロパガンダと見る向きもあるが,それはひねくれた見方過ぎるだろう。アフガニスタンの文化と民族を語る映画と捉えたい。さらに,前号で紹介したインド文化を描いた『その名にちなんで』と対で観て欲しい。映像表現の中には,小説では表現しきれない異文化の香りと味わいがある。この映画では,言語や子役探し以外にも,そう言えるだけの徹底したリアリズム追求がなされている。ハリウッドのパワーだ。
 子役も脚本もいいが,ロケでの映像も秀逸だ。とはいえ,現在のカブールは1970年代の豊かな時代でもタリバン政権下の荒廃した状況でもないから,中国西北の新疆ウイグル自治区で2つの時代のカブールを再現している。それをしっかり支えているのが,Cafe FX社担当のVFXである。家々の屋上で凧揚げをする壮大な光景は感動ものであったが,そのかなりの部分がCGで描かれていると知れば別の感慨も湧くだろう(写真1)。一軒々々,かなり丁寧なテクスチャマッピングの賜物である。
 VFXシーンは140カット。下から上から凧を追うシーンでの凧は,勿論3D-CGでの描写だ。『ハリー・ポッター』シリーズのクイディッチの試合を彷彿とさせる。ラストのサンフラシスコ湾の公園のシーンでは,凧だけでなくカモメもCGで描かれていたようだ(写真2)。こうしたのどかな光景を演出するのに,さりげなくVFXが使われているのを観るのも喜ばしい。
 ところで,この公園のシーンでは,筆者は『男はつらいよ』で寅さんが登場する江戸川の河川敷を想い出してしまった。全く繋がりはないが,洋の東西を問わず,人々が平和に暮らす日常の象徴なのだろう。    

 
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写真1 1970年代のカブールの町を再現(上:処理前,下:処理後) 
   
 
 
 
 
写真7 この光景は,凧もカモメもCG製
(C)2007 Paramount Vantage 
 
   
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