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O plus E誌 2002年10月号掲載
 
 
『ロード・トゥ・パーディション』
(20世紀フォックス映画
&ドリームワークス・ピクチャーズ)
 
 
    
  オフィシャルサイト日本語][英語]  2002年8月12日 20世紀フォックス試写室 
 [10月5日より全国東宝洋画系にて公開予定]   
     
 (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。) 
  
 いい映画だが,優等生過ぎるのが玉に瑕 
   TVスポットCMでも,今から堂々と来年度アカデミー賞有力候補と自ら謳っている。なるほど,トム・ハンクス主演,ポール・ニューマン助演はいかにも賞狙いがミエミエのキャスティングだ。ところが,2人の演技はその意図通りに,いや予想以上で憎らしいくらいに上手い(写真1)。今をときめく美男俳優,『リプリー』(00年7月号)『A.I.』(01年7月号)のジュード・ロウが個性的な殺し屋役で登場し,2人の重厚さを引き立てている(写真2)。
     
 
写真1 2大スターの共演。どちらもいい味で上手い! 写真2 カメラマンを装った殺し屋
(c)2002 TWENTIETH CENTURY FOX AND DREAMWORKS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
 
     
   トム・ハンクスは,『キャスト・アウェイ』(01年3月号)で一旦太っておいて,そこから大減量したはずなのだが,以前にもまして太めだった。これはリバウンドなのか,役作りの上の再増量なのだろうか。すっかり貫録がつき,マフィアの若頭役がよく似合っていた。彼を実の子のように可愛がるギャングのボス役のP・ニューマンも見事に渋い。『ハスラー』(61)のエディ,『スティング』(73)のヘンリー・ゴンドーフは,こういう風にスマートに老けるのかという高齢化教本のような役柄だ。同じ往年の大スター,チャールトン・へストンがテレビやリメイク版『猿の惑星』(2001年8月号)で,かつての栄光を踏みにじるような老醜を晒して登場するのとは好対照である。
 製作は,元20世紀フォックス会長で大プロデューサのリチャード・D・ザナックとその息子のディーン・ザナック父子。監督は『アメリカン・ビューティ』(99)でアカデミー作品賞・監督賞に輝いたサム・メンデス。撮影監督は,その『アメリカン・ビューティ』でコンビを組み,かつてのP・ニューマン主演の『明日に向って撃て』(69)に続いて2度目のオスカーを獲得したコンラッド・L・ホール。いわくといい,腕といい,文句のつけようのない布陣だ。
 グラフィック・ノベルを原作とするこの作品は,ハリウッド資本の下でのヒット狙いのキャストとスタッフを与えられて,方程式通りの良心的ドラマに仕立てられている。この映画も親子の絆がテーマで,父親という存在が大きな意味をもつ。それでいて,ちゃっかりVFXの出番も作り,銃撃戦にもかなりの迫力を持たせる等のサービスも怠っていない。これを「アクション叙事詩」とは,よくぞ名付けたものだ。
 時代は1931年。黄金の20年代は過ぎ,既にアル・カポネは逮捕され,大恐慌真っ只中のシカゴやイリノイ州ロックアイランドの町が舞台だ。アイルランド系ギャングの殺し屋として働くマイケル(マイク)・サリヴァン(T・ハンクス)と父親のような存在のボス,ジョン・ルーニー(P・ニューマン)に,それぞれの実の息子マイケル・ジュニア(タイラー・ホークソリン)とコナー(ダニエル・クレイグ)がからみ,2組の実の父子と1組の疑似親子関係のもつれが描かれている。
 偉大な父への恐怖と父が可愛がるマイクへの嫉妬心に燃えるコナーは,殺人現場をマイケル・ジュニアに目撃される。その口封じのためサリヴァン家を襲うが,間違って母アニーと弟ピーターを殺害してしまう。コナーへの復讐を誓ったマイクは,父と慕うジョンと訣別し,残されたマイケル・ジュニアを連れての報復&逃避行へと旅立つ。ここで「パーディション」とは父子2人が向う町の名なのだが,「地獄」という意味もかけてある。
 マイク,ジョン,コナーの関係や妻子を殺されて復讐を誓う主人公という設定は,『グラディエーター』に似ている。ところが,敵役のコナーがあまり憎々しげに感じない。これは単に演技が下手なのか,それとも実の息子を選択をしたジョンの心境に力点がおこうとしたためだろうか。
 この映画のVFX担当はお馴染みのシネサイト社。たった14人しか名前がなかったから,分量的にはそう多くない。明らかにそれと分かるのは,ワイドで登場する1931年のシカゴの街の光景だ。まだ当時を知る生存者もいるので,往時のクルマや列車を走らせる映像は誤魔化しが効かなかっただろう。短いが,VFXならではのシーンだ。他のシーンもなるべく旧市街地を活用して作られたというが,新しいビルを消去したり,古く見せる加工もディジタル処理の出番だ。サリヴァン父子がクルマで移動するシーンでは,リアウィンドウから見える屋外の風景やフロント・ガラスの映る光景が目まぐるしく変わるが,これもディジタル処理の産物と思われる。
 映像は雪と雨の使い方が印象的だった。マイクがマシンガンでジョンを襲う雨中のシーンは,映画史に残る名場面の1つだろう。
 なるほど,いい映画だ。少し希望を持たせた終わり方も臭すぎず,うまい脚本だ。この映画も観て損はない。ただし,ひねくれた見方をすれば,「どうです,いい映画でしょ。演技もうまいでしょ」という優等生的なところが少し気になった。名画というには何か物足りないなと思ったら,この映画は何を語りたかったのか,テーマが少し希薄だ。父子の絆だというが,組織と家族愛の間での心の葛藤はこの程度なのか,少しスマート過ぎるなと感じた。
 
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