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O plus E誌 2008年2月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ぜんぶ,フィデルのせい』:粋な題だ。フランス語で話すフランス映画というのも,久々で嬉しい。フィデルとは,キューバの指導者カストロのこと。共産主義に目覚めた両親とその仲間の行動を,9歳の少女アンナの視点から眺めて,1970年代のパリを舞台に激動の時代を描く。着想がいいが,女性監督のデビュー作品のせいか,ちょっと肩に力が入っていて,クソ真面目過ぎる。もう少しユーモアと遊び心が欲しかった。惜しい。大きな目をした子役の表情はいいが,大人が無理やりしゃべらせたセリフとしか受け取れないのが難だ。
 ■『母べえ』 :山田洋次監督が,藤沢周平時代劇三部作の後,戦前の動乱期を描いた意欲作。時代に翻弄されながらも,夫のいない家庭を支える健気な母親を吉永小百合が演じる。平和と家族愛の大切さを訴える感動作であるのに,大の山田ファンである筆者がこれまで唯一泣けなかった映画だ。戦争を知らないはずの団塊の世代の筆者は,この時代の悲惨さを何度も伝え聞き,肌で感じている。巨匠は日本人が忘れてはならない過去を映像として残したのだろうが,筆者には余り聞きたくない,想い出したくない時代の出来事と感じてしまった。
 ■『アメリカン・ギャングスター』:見応えのある映画だ。舞台は70年代初期のニューヨーク。ハーレム育ちで国際麻薬ルートを創り上げた実在の人物をデンゼル・ワシントンが,彼の組織を追う正義派刑事をラッセル・クロウが演じる二大スターの競演だ。一見,S・ソダーバーグ風の題材だが,監督は巨匠リドリー・スコットだった。2時間37分の長尺で中盤少しだれるが,後半のまとめようは流石だと感心する。当然オスカー候補になるだろう。キャッチコピーの「グラマラスな実録クライム・アクション」は言い得て妙だ。
 ■『潜水服は蝶の夢を見る』:この映画もフランス語のセリフで,一度観ただけで記憶に残る不思議な映画だ。ファッション雑誌の華麗なる編集長から,自動車事故でほぼ全身不随になり,左目だけの動きで同名の自伝を書いた人物の闘病と著作の様子を映画化している。自分がベッドにいる気がして,映画を観ながら思わず目を動かしてしまうこと必定だ。20万回の瞬きで1冊の本を書くという気の遠くなる作業に,人生を無駄にすべきでないという力強いメッセージが感じられる。回想シーンの映像が美しく,目に眩しい。
 ■『L change the WorLd』:一昨年大ヒットした『デスノート』からのスピンオフ映画で,松山ケンイチが演じた探偵L(エル)をフィーチャーしている。確かに,藤原竜也演じる主人公・夜神月(やがみライト)より,Lの方がユニークで魅力的だった。彼が主役なら,頭脳犯との知的ゲームで楽しませるべきなのに,ウィルス兵器を狙うテロリストとの戦いでは話が大き過ぎる。これじゃまるで,『ダイ・ハード』のマクレーン刑事だ。話の展開は悪くないが,このネタなら,ハリウッド規模の迫力でないことに不満を感じてしまう。ワーナー・ブラザース配給でも純然たる日本映画だが,いくら和製英語とはいえ,題名には三単現の「s」はキチンとつけて欲しい。
 ■『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』:世界一有名な女流写真家の仕事ぶりに迫るドキュメンタリー。世界中のセレブが次々登場し,彼女の凄さを語る証言が,これまた凄い。その中で,最も存在感があったのは,やはり暗殺数時間前のジョン・レノンだ。凡人とは別世界の人生だ。ドラッグ体験や出産のエピソードなど,よくぞここまで素顔に迫ったなと感心したが,この映画を撮ったのは実妹だった。21世紀を生きる女性たちに希望を与える存在,憧れだという。そんなものか。憧れたってなれないから,諦めた方がいい。
 ■『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』:楽しそうな表題,カラフルなスチル写真。夢を与えてくれそうな雰囲気が漂っていたが,期待ほどには面白くなかった。ナタリー・ポートマンは演技も上手くなったが,その魅力だけでは引っ張れない。騒々しく,まとまりが悪く,字幕も見にくい。大人向きか,子供向きかもはっきりしない。ただし,このオモチャ屋のデザイン担当者は,さぞかし楽しかったことだろう。
 ■『KIDS』:ライトノベル作家乙一の短編小説『傷 -KIZ/KIDS-』の映画化作品。主人公が不思議な超能力を発揮するSFファンタジーであり,若い男2人と女1人の青春映画でもある。なかなか面白い設定で前半はワクワクしながら観たが,後半はやや緩み,まとめ方も少し雑だったのが残念だ。邦画としては健闘の部類だと思うが,脚本も演出も演技も,そして白組のVFXもそこそこなのだ。この映画の直後に観た洋画に比べると,やはり日本映画界の実力はこのレベルなのかと嘆息してしまう。
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  (上記のうち,『KIDS』はO plus E誌には非掲載です)  
     
   
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