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O plus E誌 2008年3月号掲載
 
 
 
purasu
Sweet Rain
 死神の精度』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
      (C) 2008「Sweet Rain 死神の精度」製作委員会 .  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [3月22日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年11月25日 新宿ミラノ座[東京シネシティ・フェスティバル・クロージング上映]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  意欲は買うが,邦画界の欠点まで真似なくてよい  
 

 2, 3年前から邦画界が好調というが,興行成績面では東宝の1人勝ち状態である。当欄で紹介した『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年11月号)等,秀作もたまにはあるが,上位ランクはテレビ番組の延長のようなお手軽ムービーばかりだ。心ある映画人はこの商業主義を嘆くが,それが若い観客層の心を捉えているのだと開き直られれば,その営業戦略の見事さに脱帽するしかない。たまらないのは洋画の配給会社だ。洋画大作のTVスポットには高額のCM料を取られ,向こうはテレビ番組や特番と結託してタダ同然の広報作戦で来られれば,採算的に勝ち目はない。単館系の良心的佳作などは,マスメディアに乗る機会すらないのが現状だ。
 対抗策として,洋画配給各社が資本投下して日本市場向きの作品製作に乗り出した。ワーナーの『DEATH NOTE デスノート』(06年7月号),ソニー・ピクチャーズの『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年10月号)などがその類いである。前者は原作コミックと共にアジア各国で大ヒットし,先月号で紹介したようにスピンオフ作品まで登場した。それで稼いで,良作の洋画配給が安定化するのなら,大いに応援しようではないか。
 本作品の原作「死神の精度」は,伊坂幸太郎作の連続短編集で,直木賞の本命作と目されながら次点で破れ,日本推理作家協会賞短編部門を受賞した話題作だ。「死神」を選んだのは『デスノート』に続けという縁起担ぎで,表題に英文字が付されているのは『ALWAYS…』にあやかろうという想いからだろうか。原作は6短編の連作だが,映画では1,2,6作目をベースにしている。3部構成という点では『憑神』(07年7月号)にも似ているが,こちらは最初から死神が登場する。
 監督・脚本は,漫画家出身の筧昌也。妙に人間くさい死神・千葉を演じるのは,日本映画6年振りの主演となる金城武。ヒロインは,朝の連続テレビ小説『ちゅらさん』でブレイクした小西真奈美。この映画の結末を締めくくるのは,最近映画出演と好演が続く富司純子というから,かなり意欲的なキャスティングだ。
 では,これだけの話題作を映画化して,面白く仕上がっているか,邦画各社に脅威を与える出来映えかというといくつも疑問符がつく。好い素材をもらっておきながら,脚本にメリハリがなく,演出も素人の域を出ていない。日本テレビとタイアップというのも安易だし,製作費はかなり抑えているなと感じられる。それじゃまるで,邦画界の欠点ばかりを引き継いでいることになる。
  それでは応援にならないので,愛の鞭で厳しい評点をつけつつも,以下,評価できる点を上げておこう。
 ■ この死神が仕事をするときはいつも雨という設定だから,全編雨のシーンだらけである。当然,自然の雨はそう期待できないので,人工的な「雨降らし」での撮影の連続だったことだろう。スタッフの苦労が察せられるが,あまり人工的に見えず,暗いじめじめ感はなく,明るく仕上がっている。
 ■ 映画では,この死神に黒い犬を侍らせているが,ビジュアル的には,これがなかなか様になっている(写真1)。犬種はフラットコーテット・レトリバーだが,よく躾けられていて,良い演技だ。ただし,この犬が死神と交わす会話は字幕表示にせず,少し重厚な声での吹替えであった方が,映画として引き締まったと思う。

 
     
 

写真1 仕事をする時はいつも雨で,黒犬を連れている

 
 
     
 

 ■ 当初,宣伝媒体でVFXプロデューサーの名前が上がっていたので,CG/VFXの多用を期待したのだが,製作費を抑えるため,最小限に留めたという印象だ。天上で「どこでもドア」のような扉を開くシーン,死神が手を触れて花や人間が変色するシーン,窓の外の景色の急変,枯れた向日葵が甦る場面等,数えるほどしかない。可もなく不可もない出来映えだが,担当CGクリエータ達は低予算で頑張ったのだなと感じるシーンではある。
 ■ 最後のエピソードで,なぜか突然人間型ロボットが登場するが,2028年の想定らしい。このロボットは冴えなかったが,理髪室は少し小粋だった。「未来の美容室」とのことだが,どうみても床屋であり,レトロ調の手作り感がいい(写真2,3)。これは実存する店舗を使わず,撮影所内にセットを組んだようだ。

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写真2 2028年に海の見える場所にある美容室という設定

 
 
   
 
 
 
写真3 こちらが屋内。美容室というより,レトロな感じの床屋だ。
(C) 2008「Sweet Rain 死神の精度」製作委員会
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
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