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O plus E誌 2008年9月号掲載
 
ハンコック』
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
       
オフィシャルサイト[日本語][英語]
[8月30日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定] 2008年7月10日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
   
(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)
破壊パワーよりも,ウィル・スミスの悪人面が印象的

 先月案内したように,ソニー・ピクチャーズ配給のスーパーヒーローもの3本の2作目である。主演は絶大な人気を誇るウィル・スミスだから,期待も大きい。『アイ,ロボット』(04年9月号)『幸せのちから』(07年2月号)という秀作の後,前作『アイ・アム・レジェンド』(08年1月号)は前評判倒れだっただけに,本作で名誉挽回を図って欲しいところだ。
 役柄は,空を飛び,ビルや道路を破壊する怪力をもつハンコックだが,「やりすぎパワー」で一般市民に迷惑をかける嫌われ者というアンチヒーローだ。酒と女好きで,「グズ!」と言われてキレるという設定も面白い。コミックの映画化作品ではなく,オリジナルのキャラクター設定だ。いわゆるスーパーヒーローを皮肉ったパロディ調のコメディに味付けされている。ウィル・スミスは,黒人の中ではシャープで知的な顔立ちなのだが,この映画ではすっかり悪人面で登場する(写真1)。『マトリックス』シリーズのローレンス・フィッシュバーンに似ているなと感じることが何度もあった。
 監督は,マイケル・マン製作の『キングダム/見えざる敵』(07年10月号)に抜擢されたピーター・バーグ。TV畑出身で脚本・俳優もこなすが,どうやら監督業が板について来たようだ。ハンコックを「愛されるヒーロー」として再製しようとPR役を買って出るレイ・エンブリーを,その『キングダム』でFBI捜査官役だったジェイソン・ベイトマンが演じる。いかにも善人のレイが再婚した妻のメアリーがとてつもなく美人だ。誰だこの女優はと,しげしげと眺めてしまった。最初気がつかなかったが,これが何とシャーリーズ・セロンだった。以前は,九重佑三子型のぽっちゃり美人だったのが,『モンスター』(03)などで汚れ役を経験したためか,顔も引き締まって一段と魅力的になった(写真2)

   
写真1 今回はかなりの悪役面   写真2 少しスリムになって魅力的に
 
 ちょっとネタバレになるが,最初から訳ありの伏線があり,前半で明かされるからいいだろう。このメアリーが実はハンコックの元パートナーで,彼女もまた何千年も生きている不死身のスーパーパワーの持ち主だったという設定である。となれば,この2人の掛け合いやスーパーパワーの発揮は見せ場だらけのはずなのだが,どうも切れ味が今一つ鋭くない。軽快さでは『アイアンマン』(次号予定)に勝てないし,重厚さでは先月号の『インクレディブル・ハルク』や『ダークナイト』に一歩譲ってしまう印象だ。この監督はコメディ向きでなく,シリアス系,サスペンス系の方が得意そうだ。
 VFXの担当は,勿論Sony Pictures Imageworksが主担当で,御大ジョン・ダイクストラが指揮をとる。数々の破壊シーンや空を飛ぶシーンのVFXに,ワイヤーアクションやグリーンバックでの合成,CGキャラクターによるデジタルダブルも登場するのは言うまでもない(写真3)。前述の『ウォンテッド』ほどではないが,列車の脱線シーンやその破壊された姿は当然CG表現だ。前半の破壊シーンは丁寧に作られているし,後半のビルの谷間を飛翔し敵と戦うシーンは,『スパイダーマン』で培ったVFXパワーで安心して観ていられた。
 J・ダイクストラは今年のSIGGRAPHでも元気な姿を見せていたが,彼が「技術進歩が早く,常に業界初を目指す気概で臨まないと,公開時には陳腐化してしまう」と指摘するように,なるほど細部はきめ細かな作りだ。それでも新鮮さは少なく,もはや誰も驚かない。VFX技術の中身ではなく,使いどころの問題だろう。よって,この作品も評価が低くなってしまった。
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写真3 VFXは予想通り,ワイヤーアクション,グリーンバック,CG製のデジタルダブル等の併せ技で多彩

(画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加しています)
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