大味だった『日本沈没』(06年8月号),感情移入できない『ゲド戦記』など,興行的には成功でも期待外れと言わざるを得なかったこの夏の邦画界だが,最後にやって来たこの映画が案外拾いものだった。「笑いと涙の感動作」というから,VFXは期待していなかったのだが,これがどうしてどうして,しっかりした役割を占めているではないか。
原作は1994年に「ミスターマガジン」(現在は廃刊)に連載された一色まこと作のファンタジー・コミックで,監督はテレビ界出身でこれが初監督作品となる水田伸生だ。いずれも話題を呼ぶほどメジャーな存在ではない。一番のウリは,『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年11月号)で存在感のある圧倒的演技を見せてくれた名子役の須賀健太が,坊主頭の主人公「花田一路」を演じることだった。そりゃあの子なら上手いわと,期待したのはそれだけだった。
舞台は小さな港町,時代は不祥で,古き良き昭和時代かと想わせるが,計算上は21世紀に入ってからの現代のはずだ。自動車事故で遭って重傷を負い,一旦は幽体離脱して生き返った少年が,以後幽霊が見えるようになり,彼ら会話を交わすという設定だ。『シックス・センス』(99)に似ているわけではなく,むしろ『ALWAYS
三丁目の夕日』を相当に意識した演出ぶりだ。
なるほど須賀健太の花田少年は上手いが,他の少年少女も見事な演技だ。柄の悪い母親役の篠原涼子もいい味を出しているが,若き日のシンガー・ソングライター時代も様になっている。脇役陣は父親大路郎役の西村雅彦他,北村一輝,もたいまさこ,安藤希,杉本哲太らで,全員が生き生きしている。原作・脚本,そして初監督の演出も冴えている。笑いを取る呼吸もホロリとさせる展開も,松竹の良き伝統を受けついでいると言える。こういう演出をすれば,日本人俳優だっていい味を出せるじゃないかという見本だ。
随所で笑いを引き出すコメディタッチが基調だが,しっかり涙を誘うシーンも用意されている。父と母の秘密や幽霊たちの過去も明らかにするミステリーも構図がしっかりしている。原作の骨格があるからとはいえ,この脚本はいいデキだ。
VFXは一路少年の幽体離脱から始まって,幽霊の大半もワイヤーアクションで登場する。単純な合成で,そう高級な視覚効果ではないが,この素朴さがノスタルジーを感じさせる作品には合っている。吉川の婆ちゃんが和式トイレから登場するシーン(写真1)は効果満点で,笑ってしまった。このシーンの演出者には座布団2枚だ。
褒めてばかりのレベルではないので難点も上げれば,クライマックスの父娘の対決シーンのVFXはお粗末過ぎる。見せ場で使うなら,もう少しハイレベルでないと白けてしまう。エンドロールにはVFX担当で,IMAGICA
VFX,NTT MEDIA LAB等がクレジットされていたが,どこが担当であれ,これは金を取れるレベルではない。監督は遠慮せず,何度も作り直しを命じるべきだった。
それでも,そんなVFXの稚拙さは吹き飛ばしてしまうパワーのある,いやハートのある作品ではある。
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