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O plus E誌 非掲載
 
 
purasu
『茶々 -天涯の貴妃(おんな)-』
(東映配給)
 
      (C)2007「茶々 ー天涯の貴妃(おんな)ー」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [12月22日より丸の内TOEI1ほか全国東映系にて公開中]   2007年12月14日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  またも女性が主役の豪華絵巻  
 

 2005年『男たちの大和/YAMATO』(06年1月号),2006年『大奥』に続き,東映・京都撮影所が年末に贈る渾身の大作で,豪華絢爛・戦国絵巻だそうだ。東映・京撮と言えば,日本映画の黄金期を支えた由緒あるスタジオである。往時には,この撮影所内に「東映城」が常設されていた。今も広大な敷地を有しているが,併設の「東映太秦映画村」は今なお時代劇のオープンセットであり,「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」等のTVシリーズが常時撮影されている。それが,2年連続で女性が主役の時代劇ということは,やはり時代の変化を感じさせる。
 筆者は,小中学校時代,月に2回,大宮東映(京都・四条大宮にあった東映の直営館)で封切り作品を観るのが最大の楽しみだった。当時のスターは,片岡千恵蔵,市川右太衛門の両御大に,大友柳太朗,東千代之介,中村錦之助(後の萬屋錦之介),大川橋蔵で,美空ひばりは別格の大スターだった。里見浩太朗や山城新伍は若手の新星で,松方弘樹や北大路欣也の二世俳優は,まだ未成年だったと記憶している。今でも,お姫さま役や悪役の名前も顔も容易に思い出せる。ちと,個人的想い出に浸り過ぎか……。
 この正月映画は,完成披露試写が公開の約1週間前で,O plus E誌1月号には間に合わなかった。Webページだけの紹介にならざるを得ないなら,紙幅の制限もないので,いっそ観たまま,感じたままを全部書き綴ろう。
 さて,主演の茶々(淀殿)を演じるのは,元宝塚宙組のトップスター「和央ようか」である。「誰だ,それ? 聞いたことないぞ」という映画ファンが大半だろう。もともと宝塚では男役で,映画初出演どころか,女性役も初めてというから,多分大した芝居は期待できない。それを言うなら,東宝のお手軽映画に出て来るジャリタレだって,どれも下手糞の極みだ。淀殿役というと,まず「黒木瞳」か「小雪」クラスを期待するが,こういう話題性のある新星もいいじゃないか。同じような顔ぶればかりの日本映画で,このキャスティングには新鮮味がある。週刊文春のカラーグラビア「原色美女図鑑」にも茶々姿で登場していたが,颯爽とした美人だ。
 原作は,井上靖の「淀どの日記」。監督は,東映の社員監督の橋本一で,TVは『京都迷宮案内』『科捜研の女』,映画は『新・仁義なき戦い/謀殺』(03)『極道の妻たち 情炎』(05)が代表作である。キャストは,浅井三姉妹の母・お市の方は原田美枝子,次女・はつ は富田靖子,三女・小督(おごう)は寺島しのぶ,という布陣である。おいおい,寺島しのぶじゃ貫録があり過ぎて,末娘には見えないよ。これじゃ,どっちが姉だか分からない。せめて,松嶋菜々子,松たか子,仲間由紀恵あたりにならなかったのかと思うが,きっと演技力が要るシーンを想定してのキャスティングなのだろう。そして男優陣は,信長・秀吉・家康に,それぞれ松方弘樹,渡部篤郎,中村獅童を配している。今までの三武将の固定化されたイメージとは,別の側面を出したというが,さてはて……。
 総製作費は10億円,衣装代に1億円,大坂城に見立てた伏見桃山城の装飾にも1億円,そのミニチュアの制作に2000万円かけたという。ハリウッドと比べたら1桁違うが,角川春樹事務所やTV局のヒモ付きでなく,この額を投じたのなら,邦画としては大健闘の部類と言えるだろう。

 
     
  伝統ある東映・美術部門が飾り上げた宝塚歌劇  
 

 以上の前振りの下で始まった試写の感想を,ほぼ感じた順に述べておこう。
  ■ まず少女時代の茶々役の菅野莉央が,主役の和央ようかによく似ている。口元が変だと思ったら,和央ようかの歯並びの悪さまでも似せようとしたようだ。『スーパーマン リターンズ』(06年9月号)『自虐の詩』(07年11月号)など,最近はこうした気配りをした人選の作品が増えている。これは嬉しい。そうした配慮のある作品は,しっかりしたプロダクション・デザインができていて,他の細部にも目配りが行き届いているからだ。もっとも,茶々だけが似ていて,妹2人は全く似ていなかったが。
 ■ 再三登場する「大坂城」は,京都市の所有物である伏見桃山城を,この映画のために刷り直した(写真1)。時代考証の上での復元だろうから,観光的にも価値がある。京都市としては丸儲けだ。映画の中でミニチュアとして登場する模型(写真2),京都撮影所の中に設営された高さ5mの模型(写真3)も,外観は統一されているが,やっぱり本物は違う。それだけの質感,威風がある。ただし,金をかけただけあって,映画中では何度も登場させている。これだけ頻出すると,天下の大坂城にしては少し小さいなと感じてしまう。周りを映し込むと現代であることがバレるので,天守閣だけの狭いシーンが多くなるのが欠点だ。1カットだけ登場する大坂城の俯瞰シーンは,現在の大阪城を空撮し,CGで加工したものだ(写真4)
 ■ 美術・衣装部門の張り切りようは,画面からも伝わって来る(写真5)。豪華絢爛ぶりは昨年の『大奥』で経験済みだが,茶々の衣装は素晴らしい。『マリー・アントワネット』(07年1月号)『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(08年2月号で紹介予定)などを観ると,ハリウッドの底力を感じるが,それに負けじという意気込みが感じられる。時代劇は金がかかるというのが分かるが,それを実現してこそ映画だ。NHK大河ドラマより下じゃ困る。製作費をケチるため,現代の東京を舞台にした安直な作品が多過ぎるが,あんなものは劇場で観るべき映画ではない。学生の卒業制作に毛の生えたようなものだ。
 ■ では,昔の時代劇はどうだったのだろう? スターばかり観ていた気がつかなかったが,もっとチープだったのだろうか,それとももっと豪華だったのだろうか? 「旗本退屈男」の衣装を引き合いに出すまでもなく,もっと豪華だったと思われる。セットもしかりだ。東映・美術班ならではの蓄積が随所に出ているが,贅沢を言えば,「聚楽第」はもう少し豪華にならなかったかと感じた。CGでは嘘っぽいし,そこまでの製作費は無理だったか……。
 ■ 芝居は予想通り,ほとんどダメだった。その中で唯一,松方弘樹の信長だけが光っていた。狂気の信長がよく似合う。出て来るだけで存在感がある。渡部篤郎の秀吉がお粗末だ。登場場面もセリフも多いだけに,拙さが目立つ。中村獅童の家康も今イチだ。脂ぎっていて,家康らしくない。主役でないのなら新味は不要で,皆がよく知っているキャラクター通りの方が良い。宝塚の大スターもぎこちなく,映画は苦手のようだ。もっとも,見方を変えれば,しぶしぶ側室となった茶々の嫌悪感,主家の血筋に手をつける負い目から遠慮がちの秀吉が結果的によく出ていたとも言える。怪我の功名だ。
 ■ 『大奥』同様,CG/VFXとは無縁の映画と思っていたのだが,意外とデジタル技術の登場場面が多いのに気がつき,途中から目を凝らして見ることにした。天守からの俯瞰はいかにも合成と分かるが,夏の陣での遠景での炎上シーンは素晴らしい。このシーンが何度も出てくるが,何度見てもいい。これは,後述しよう。
 ■ 城内の衣装だけでなく,騎馬武者も合戦シーンも,予想以上に本格的だった(写真6)。女性主役の映画とはいえ,ここは手を抜いていない。さすが時代劇の東映だ。現在の松竹や東宝には,この真似はできまい。
 ■ 後半,和央ようかの茶々が,ぐんぐん良くなってきた。映画撮影の呼吸に慣れてきて,監督も演技をつけやすくなったのだろう。極め付けは,大坂夏の陣での甲冑姿だ(写真7)。カッチョエー! 惚れ惚れする。このシーンを観るだけで,この映画の価値がある。さすが,宝塚の男役スターだ。ベルばらのフェルゼン役が似合ったというのも,退団時にファン1万人が詰めかけたというのも理解できる。史実と違っていても構わないから,最期の炎上シーンも,この甲冑姿で通しても良かったと思う。見終わって気がついた。これは東映時代劇ではなく,東映・美術部門が創り上げた宝塚歌劇なのだ。

 
     
 

写真1 京都市の伏見桃山城の外観を修復して,大坂城に見立てた

 
 
 
写真2 映画中でミニチュアとして登場するミニチュア  
写真3 これが高さ5mのミニチュア。
実物を観てみたいな。
 
 

写真4 現在の大阪城を空撮し(左),CGで天守閣や武家屋敷を描き加えた(右)

 
 
 

写真5 金屏風で飾った時代劇セットはお手のもの。最後に登場する茶々の白い鳳凰の着物が格別豪華だ。

 
 
 
写真6 合戦シーンも本格的で手抜きなし   写真7 この甲冑姿には惚れ惚れする。さすが宝塚。
 
   
  さほど高度な技術ではないが,仕上げが上手い  
 

 エンドロールで確認すると,予想通り,特撮監督・佛田洋,VFXスーパーバイザー・野口光一の名前があった。『男たちの大和/YAMATO』『俺は,君のためにこそ死ににいく』(07年5月号)のコンビである。前作と同様,連絡してメイキング画像を提供してもらった。
 この映画では,CGよりもミニチュアの方が存在感は上だ。かなり精巧な模型で,これは東映・美術部ではなく,佛田洋氏率いる特撮研究所の制作物である。かなり精巧な作りだが,それをより効果的に見せるのに視覚効果が加えられている。ミニチュアへのCG合成は,照明や焦点の合わせ方など,実物大とは少し違ったテクニックを要するが,それも無難にこなしている。
 写真8は,京都撮影所内での撮影風景である。炎上と言っても,模型本体には火をつけていない。後で,この模型を映画村等で特別展示するためだろうか。ま,許そう。
 これをデジタル技術で加工したのが写真9である。映画中で何度も登場するが,アラはなく,効果的に使われていた。写真10は戦場のセットの合成だが,いずれも良い出来映えだ。この炎はCGで生成したものではなく,実写の炎の映像を縮小し,デジタル合成したものだろう。その方がミニチュアの周りとの相性も良い。
 注意せずに観ていたが,醍醐の花見のシーンもVFXの活躍場面だったようだ(写真11)。手前の桜の木も花も,CGではなく実写映像の合成のようだ。グリーンバックは奥の部分だけだから,道の両横は手でロトスコープしたのだろう。カメラを固定したままなら,それで十分だ。さほど高度な技術は使っていないのだが,このグルーブは仕上げが上手い。白組の山崎貴作品は別格として.東宝系,松竹系のスタジオよりずっと高品質だ。系列の東映アニメーションが担当だから,中間搾取が少なく,コスト的に有利で,丁寧な仕事ができるからなのだろうか。さりげなくVFXを使って,かつ仕上げがいいのは大きな美点だ。

 さて,全体の評点はといえば,芝居は☆,甲冑姿で☆+,美術・衣装に敬意を評して☆☆,VFXの仕上げの良さで☆☆+まで上げておこう。ご祝儀だ。
 今年の正月映画の大作は,12月号で紹介したように,ファミリー映画ばかりで,他はゾンビかエイリアンだ。オールドファンは,リメイク版『椿三十郎』に失望するだろう。となると,他に何かないのかと探す普通の映画ファンには,この映画を勧めておこう。
 次は,この女優(?)のアクション活劇を観てみたい。宝塚出身なら歌えるだろうから,ミュージカル仕立てならもっと良い。日本映画界が大切に育てて行くべき好素材だと思う。

 
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写真8 ビルを暗幕で覆って,ライトアップして,いざ撮影開始

 
 
 

写真9 デジタル技術で描き上げた大坂夏の陣の夜の光景(左:加工前,右:加工後)

 
 
 

写真10 こちらは実物大セットの遠景に合成(左:加工前,右:加工後)

 
 
 
 
 
写真11 醍醐の花見のシーン(左:加工前,右:加工後)
(C)2007「茶々 ー天涯の貴妃(おんな)ー」製作委員会
 
   
   
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