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O plus E誌 2007年11月号掲載
 
 
purasu
『ALWAYS
 続・三丁目の夕日』
(東宝配給)
      (C)2007「ALWAYS 続・三丁目の夕日」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [11月3日より日劇2ほか全国東宝系にて公開予定]   2007年10月13日 東宝本社試写室  
         
   
 
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自虐の詩』
(松竹配給)
      (C)2007 「自虐の詩」フィルムパートナーズ  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [10月27日より渋谷シネクイントほか全国公開予定]   2007年9月12日 松竹試写室  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  東京タワー vs.通天閣,コミックが原作の下町対決  
    今年は6月号を除いてずっとメイン欄で邦画を最低1本取り上げて来たが,いよいよ真打ちの登場である。
  本欄が監督第1作『ジュブナイル』(00年7月号)以来ずっと応援してきた山崎貴監督の第3作『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年11月号)は,画期的なヒットとなり,日本アカデミー賞を席捲し,作品賞・監督賞等に輝いた。応援団としては,この上ない喜びだった。すぐに続編製作の噂が伝わってきた。
 前作の終わりからの4ヶ月後,昭和34年を描くこの続編でも,懐かしい三丁目の世界は健在である。ただし,一旦壊されたセットはもう一度再制作され,小道具も小物ももう一度集め直すのに,苦労があったようだ。
 この下町世界の物語に,思わぬところから強力な伏兵ライバルが現われた。4コマ漫画を原作とし,大阪の下町の舞台にした『自虐の詩』である。東京タワーが見える(架空の)夕日町三丁目に対して,こちらは通天閣の見える大阪ミナミに実在の飛田地区を舞台にしている。
 まずは『続・三丁目の夕日』から語ろう。昭和34年といえば,皇太子ご成婚,巨人阪神戦天覧試合での長嶋のサヨナラホームラン,少年マガジン・少年サンデーの同時創刊,伊勢湾台風の襲来,第1回レコード大賞……と筆者はそらんじて言える。前年の昭和33年に引き続き,戦後日本の最も輝かしい時代で,団塊の世代より上の日本人なら誰もが郷愁を感じる想い出の年である。この時代を選んだこと自体に,この映画の成功がある。東宝美術部の職人ならずとも,当時の生活と風景の再現に力がこもる。オヤジ世代は嬉々として,この輝かしい時代の解説に蘊蓄を傾け,若い世代も何度も刷り込まれている内に,まるで戦後高度成長の原点たるこの時代を生きてきたかのような錯覚をもつ。つまり,時代選択だけで皆に幸せを与える映画なのである。
 鈴木オートと茶川商店を中心に,再び三丁目の世界に集まった顔ぶれはほぼ同じで,新しい登場人物はごくわずかだ。黙って去って行ったヒロミ(小雪)を思い続ける茶川竜之介(吉岡秀隆),彼と暮らす淳之介(須賀健太)を連れ戻そうとする実父の川淵(小日向文世),男を上げようと一念発起で「芥川賞受賞」をめざす茶川を中心に物語は展開し,鈴木オート一家(堤真一,薬師丸ひろ子,小清水一揮)のエピソードがこれに絡む。茶川の受賞なるか,ヒロミと彼は結ばれ,淳之介と3人で暮らすことはできるのかは観てのお楽しみだが,この種の映画にサプライズはなく,観客の予想通りの結末が待っている。物語はベタで,途中かったるさすら感じる展開だが,この映画はこれでいい。誰もが人それぞれの人生を懐かむための映画だからだ。
 山崎監督お得意のVFXはといえば,前作を上回るスケールで昭和34年当時の風景を描くのに多用されている。東京駅前(写真1),羽田空港,浅草,西銀座,日本橋などが描かれている。羽田空港を発着する当時の飛行機は無論CG製だが,音は海外で本物を収録して来たという(写真2)。特急こだま号や当時のクルマも可能な限り実物指向なのが嬉しい(写真3,写真4)。最も力が入っているのは日本橋の光景(写真5)で,デジタル加工は数百レイヤに及ぶという。東京タワーからカメラを引いて行くシーン(写真6)も印象的だった。
 なるほど,登場するVFXシーンのクオリティは一作毎に進化している。残念なことに,VFXがウリにしてはカット数が多くない。これは監督率いる白組の少人数チームだけで制作し,他に外注しないため,作業量が限られるからだ。多くのシーンでカメラを据え付けたままの合成なのも,同じ理由からだろう。願わくば,東京タワーの展望台では,鈴木オート一家が眼下を一望するシーンが欲しかった。昭和34年当時の東京を再現するのは容易ではないが,あのシーンにはそれが欲しかった。
 
     
 
写真1 昭和34年の東京駅前。
もうすぐ大改修される。
  写真2 国際線就航のDC-6機。音はアラスカまで録りに行った。
 
     
 
 
 
写真3 夢の特急こだま号。(上)1/45ミニチュアを走らせて合成。(下)交通博物館の本物を借用し,ホームは作った。
 
     
 
 
 
写真4 西銀座の日劇前。バスやクルマは本物,背景はデジタル製。
 
     
 
 
 
写真5 日本橋の光景。こちらは都電もクルマもCGで描いた。
 
     
 
 
 
 
 
写真6 スタジオ内からカメラを引いてCG製の東京タワーの外へ。
(C)2007「ALWAYS 続・三丁目の夕日」製作委員会
 
     
  CGの質の差は歴然だが,泣かせ方は互角の勝負  
   対する『自虐の詩』は,週刊宝石に連載された同名の4コマ漫画を『トリック』(00)『明日の記憶』(06)の堤幸彦監督が映画化した作品だ。薄幸の主人公・幸江を中谷美紀がノーメイクで演じ(写真7),ヤクザで短気な旦那・イサオ役をパンチパーマ頭で阿部寛が務める(写真8)。脇役は,西田敏行,カルーセル麻紀,名取裕子,遠藤憲一,竜雷太といった面々である。
 原作通りに,前半は名物の「卓袱台返し」の連続ギャクで笑わせ,後半は胸に染みる人情ドラマで迫って来る。正直言って,この映画でこの監督を見直した。同じ阿部寛主演作でも『大帝の剣』(07年4月号)とは雲泥の差である。今どきこんな男女がいるのかと思うが,案外いるのだろうと感じてしまう。見方によっては,『嫌われ松子の一生』(06)の松子と『パッチギ!』(04)のアンソンが同棲していて,結末を少しハッピーにした感じである。映画も原作も別の味があるが,まず映画を観て,後日原作漫画をじっくり味わうのがオススメだ。
 CGはといえば,ポスター等に使われている写真9はどう見てもデジタル加工したものなので大いに期待したのだが,本編の「卓袱台返し」は実写であった。雷,ネズミ,1万円札から飛び出す鳥など,CGも随所に登場するが,『続・三丁目の夕日』に比べれば児戯に等しい。それでも,この映画のCGはこれで良い。うま過ぎたのでは,原作の稚拙な絵のイメージが損なわれる。
 この映画の成功要因は2つある。1つは,中学生時代の幸江役・岡珠希が中谷美紀ととてもよく似ていて,再三登場する回想シーンで違和感がないことだ。もう1つは,原作とは異なり,大阪の下町を舞台にしたことだ。猥雑で庶民的な大阪の町は,この男女の奇妙な関係に見事にフィットしている(写真10)
『続・三丁目の夕日』は,前作で淳之介が戻って来るクライマックスに劣らず,何度も泣かせてくれる。分かっていながら,最低5回は画面を見ながら涙する。「日本一泣ける4コマ漫画」と称するだけあって,『自虐の詩』も同格以上に渡り合う。こちらは幸江が上京する列車のシーン,最後の浜辺のシーンで友情と人生の意味を考え,あとでしみじみ涙することだろう。
 
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写真7 スッピンで貧乏臭くても,元が美人だと魅力的   写真8 アベカンのヤクザ姿は結構似合う
 
     
 
写真9 この「卓袱台返し」は,どう見てもデジタル合成
(C)2007 「自虐の詩」フィルムパートナーズ
   写真10 この猥雑な感じが,いかにも大阪らしい
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
   
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