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O plus E誌 2007年5月号掲載
 
 
purasu
俺は,君のためにこそ死ににいく
(東映配給)
 
      (C) 2007「俺は,君のためにこそ死ににいく」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [5月12日より丸の内TOEI 1ほか全国東映系にて公開予定]   2007年3月15日 東映試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  表題は野暮だが,ドラマは真面目な作り  
 

 今月も活気のある邦画から入ろう。本稿を執筆しているのは統一地方選挙の夜だが,圧勝で3選を果たした石原慎太郎都知事が製作総指揮・脚本を手がけたという話題作である。太平洋戦争末期,鹿児島県の知覧の町から飛び立った特攻隊員を描いた物語で,若い隊員から「特攻の母」と慕われた鳥濱トメさんに会って,石原氏が直接聞いた話がもとになっている。
 特攻隊員を主人公にした映画は過去にも多数作られている。「特攻の母」を題材とした映画は,同じ東映作品の『ホタル』(01)が記憶に新しい。降旗康男監督,高倉健主演という『駅 STATION』(81)『鉄道員』(99)のゴールデン・コンビの作で,心に傷を負った生き残り兵夫妻の物語だった。それに比べると,本作品は,岸恵子演じるトメさんも実名で登場し,特攻隊員との心の交流を中心に描いている。監督は沖縄出身の新城卓。特攻隊員は,徳重聡,窪塚洋介,筒井道隆,前川泰之,中村友也らが演じ,伊武雅刀,江守徹,長門裕之,石橋蓮司,寺田農,勝野洋らのベテランが脇を固める。
 全体として『男たちの大和/YAMATO』(06年1月号)の成功による同工異曲の続編のイメージがあるが,人間模様はずっとよく描かれていた。岸恵子の演技と存在感は光っていたが,それでも『男たちの…』の方が印象が強かった。やはり実物大・戦艦大和の圧倒的な存在には,一式戦闘機「隼」で太刀打ちできないようだ。同じ玉砕ものでは,『出口のない海』(06年10月号)よりも数段上だが,『硫黄島からの手紙』(06年12月号)には敵わないといったところだろうか。
 超タカ派の石原氏の存在ゆえに,戦争賛美映画か,反戦メッセージが感じ取れるかなど,試写段階なのに既にネット上で議論百出のようだ。戦前ならともかく,明確な戦争礼賛映画などはない。最近の戦争映画はリアルに描けば描くほど,その解釈は観客1人1人に委ねられる。この映画での軍幹部の馬鹿げた作戦や憲兵隊の横暴ぶりは,筆者が子供の頃から観てきた映画やTV番組と同じだった。今でも生き証人は多数存命しているから,事実もこれに近かったのだろう。だとすれば,この軍部専横の様に嫌悪感をもつ観客は,戦争放棄,改憲反対の強い想いをもつに違いない。それでいて,若くして散って行った英霊には,靖国神社で手を合わせたくなるだろう。既製の単純なイデオロギーの枠では説明できない感情,それが観客個々人が映画に没入した結果だ。
 それだけのリアリティは感じさせてくれる真面目な映画だが,興行的には表題が野暮過ぎるのがマイナス要因だろう。石原氏のセンスの悪さが感じられる。

 
     
  VFXの出来映えは日本映画の最高水準  
 

 戦闘機「隼」の存在感は「大和」には負けても,その空中戦や敵艦への突入シーンは素晴らしかった。言うまでもなく,CG/VFX技術のなせる技で,準備からは約1年間をかけたという。特撮監督・佛田洋,VFXスーパーバイザー・野口光一という布陣は『男たちの…』と同じだが,特撮班とCG班の腕はさらに上がっていた。映画としては☆☆だが,VFXは文句なく☆☆☆であり,全体は☆☆+というのが当欄の評価である。
 通常の数枚のスチル画像では惜しいので,直接野口氏にコンタクトして,数十枚のメイキング画像の提供を受けた。全部は載せ切れないが,以下その見どころである。
 ■ 実物大の隼は2機建造された。それ以上の機体があるシーンは,実写画像の複製かCGによる水増しだ(写真1)。セスナ機のエンジンが搭載されたというが,プロペラが回るシーン,滑走シーンはあっても,離陸シーンはなかったから飛ぶことはできなかったのだろう。
 ■ 操縦士が乗り込むコクピット部分は3機分製作され,スタジオ内でジンバルに取り付けて撮影された(写真2)。戦闘機映画では定番の手法だが,この技術もマスターし,フルCGシーンと違和感なく合成されているのが嬉しい。
 ■ 1/10スケールの隼,1/25スケールの米軍空母も作られ活用されているが,迫力あるシーンの背景部はフィリピン海軍の協力を得ての現地撮影だという(写真3)。実際に3.5インチ砲も発砲したらしい(写真4)。そこに描き込まれたCG映像が実に多彩だ。多数機の編隊飛行や突撃パターンだけが派手な映画は多々あったが,本作品の空中戦の多彩さは出色だ。
 ■ 戦闘機の飛行シーンの大半は,実写の空をバックにCG映像が合成されている(写真5)。戦闘機CGのプロフェッショナル栃林秀氏も参加したというだけあって,見事な突入シーンや墜落シーンを描いている(写真6)。どのシーンも実写とCGのライティングに違和感がない。ここにも如実な技術向上の跡が見られる。
 ■ 当時の記録映像に着色したり(写真7),フルCGで記録映像を再現する試み(写真8)もなされているようで興味深い。普通はちょっと観ただけでは,どのシーンがそうかは分からないだろうが。

 
     
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写真1 上:実物大の隼は2機だけ
    下:残りはCGで追加描画
  写真2 ジンバルで揺らした機体(上)が
    CGを付加して飛行シーン(下)に
 
 
 
 

写真3 フィリピン海軍の協力でマニラ沖で撮影した実写映像(上段)にCGを合成

 
 
 
 
 

写真4 実際に砲弾を発射して撮影したという

 
 
 

写真5 徳之島上空の実写映像にCG製の戦闘機を合成

 
 
 
 
 

写真6 被弾し,煙を上げて墜落・分解する様はすべてCGで描画。見事だ。

 
 
 
 
   
 
写真7 残存する記録映像に着色
    (映像提供:セレプロ)
 
 
 
 
 
 
写真8 記録フィルム(左上)を参考に,艦上の機体(右上)も海(左下)もすべてCGで再現して完成(右下)
   (映像提供:セレプロ)
(C) 2007「俺は,君のためにこそ死ににいく」製作委員会
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)   
   
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