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O plus E誌 2007年9月号掲載
 
 
 
『ベクシル
-2077日本鎖国-』
(松竹配給)
 
      (C)2007「ベルシル」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [8月18日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開中]   2007年6月15日 松竹試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  FFSWの失敗から,何も学んでいないのか?  
 

 今月取り上げる邦画は,フルCGアニメのこの作品だ。こちらには実写部分は一切ない。既に公開中であるが,まだしも『西遊記』よりも俎上に乗せる価値があり,上述の『アーサー…』とも比べ甲斐があるかと思い,今月号まで待った次第である。とはいえ,ちょっと論評するのに困る映画だ。結論を先に言えば,敬意を表し,賛辞を送り,ねぎらいと励ましの言葉をかけたいのだが,作品としてはつまらなく,何も残らない映画だからだ。
 題名からすぐ分かるように,70年後の日本を描いたSF作品で,特に原作はなく,オリジナル脚本である。バイオ・テクノロジーとロボット産業で世界を征した日本は,その危険性を指摘し規制を求める世界各国の干渉を跳ねのけ,2067年に国連を脱退して「鎖国」を強行する。それから10年後,米国特殊部隊「SWORD」所属の女性兵士が,日本に潜入し,そこで観たものは,想像を絶する荒廃した光景だった……。という設定である。何やら1933年の国際連盟脱退から太平洋戦争に至る過程のようだが,第3次世界大戦ではなく,あくまで日本国内に限定した物語に終始している。
 監督は『ピンポン』(02年7月号)の曽利文彦。この監督第1作は,松本大洋作の人気コミックの映画化で,実写とCGの合成がウリだった。フルCGは,彼がプロデュースした『APPLESEED アップルシード』(04)で経験済みである。こちらは,士郎正宗原作のSF漫画の映画版で,トゥーン・シェーディング技法で登場人物をセルアニメ風のタッチで表現する「フル3Dライブアニメ」の嚆矢となったが,興行的には成功しなかった。両作品とも原作を知る熱烈ファンには不評だったから,オリジナル脚本でリターンマッチをという計算だろう。
 ベクシル(Vexile)とは,主人公の女性兵士の名前だ。他に男性兵士のレオン・フェイデン,日本人女性のマリアの女性2人,男性1人が主役級で,それぞれ黒木メイサ,谷原章介,松雪泰子がその声を演じる。女性兵士にロボットという組み合わせは,『APPLESEED』と同工異曲だし,『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)の世界からも脱しきれていない。いや,ジャパニメーションの中心ファン層を意識して,この枠組を踏襲し続けていると言うべきだろうか。
 日本鎖国という発想は面白いが,それを活かしきっていない。石油はどうする,食料自給はできっこないじゃないかという疑問は残るが,60〜70年後の日本社会を鎖国という前提下で描けば,もっと興味深い作品になったに違いない。映像表現としては,未来社会を感じさせる描写も少しあったが,きちんとした分析に基づくものとは思えない。人物だけセル調で残す流儀は許すとしても,ストーリーも語り口もありきたりの世界に留まりたがるのかが理解できない。
 3D-CGによる映像のクオリティは,『APPLESEED』よりも数段進歩している。本映画時評欄では,これまでずっと日本製CGアニメに対して,2Dセル基調の映像表現力の限界を指摘し,フル3D-CGへの早期転換を力説してきた。『ブレイブ ストーリー』(06年8月号)や『アタゴオルは猫の森』(06年11月号)は,その延長線上で評して来たが,本作品のCG表現力には異存はない。なるほど,ロボットを始めとしたメカ表現の光沢感は3D-CGならではの威力だ(写真1)。躍動感では,先月号の『トランスフォーマー』に一歩譲るが,あそこまでやる必要はない。群衆や背景の描き込み,光と水面の織りなす光景にも惚れ惚れする(写真2)。カメラワークも,3D-CGの長所を活かしたシーンが随所に見られる。最近の日本のCGクリエータたちの伎倆向上や層の厚さに感心する。かなりいい線行っている。
 その一方で,だからどうした? それじゃ映画版『ファイナルファンタジー』(01年9月号)の失敗から何も学んでいないじゃないかとの想いも湧いてくる。絶大な人気を誇ったRPGシリーズの映画化作品(原題:『Final Fantasy: The Spirits Within』は,全編フルCGの意欲作だったが,興行的には大誤算で,社運を賭けた親会社スクウェアの屋台骨はこの1本で揺らいでしまった。映画としての完成度は低かった。注目したのはCG関係者だけで,映画ファンもゲーマーも支持しなかった。その記憶も今や風化しつつあるが,この映画にはそのFFSWの教訓が何1つ活かされていないと感じる。ただただ見事なCG映像が流れているだけで,そこには全く人間が描かれていない。感情移入できる物語もない。
 「映画は技術ではなく,脚本だ」とは言い古された言葉である。それは百も承知の上で,映像表現力としての3D-CGへのシフトを力説して来たのだが,こういう作品出会うと本欄の主張も揺らいでくる。日本のCG業界の実力はかなりアップした。今の日本映画界に必要なのは,まともなホンが書ける脚本家の育成だ。

 
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写真1 この金属の光沢感は3D-CGならではのもの   写真2 光と水の処理は高水準で,デザインもいい
 (C)2007「ベルシル」製作委員会
 
   
   
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