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O plus E誌 2006年8月号掲載
 
 
森のリトル・ギャング』
(ドリームワークス映画 /
アスミックエース配給)
      (C)2006 DreamWorks Animation LLC and DreamWorks LLC. Over The Hedge TM DreamWorks Animation LLC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月5日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2006年6月26日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
   
 
ブレイブ ストーリー』
(ワーナー・ブラザース映画 )
      (C)2006 フジテレビジョン/GONZO/ ワーナーエンターテイメントジャパン/電通/スカパー!WT  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月8日よりサロンパスルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2006年6月8日 ワーナー試写室(東京)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  フルCGとセル調で激突するこの夏のアニメ戦線  
 

 音楽なら,クラシック,ジャズ,ロック等々,評論家は細分化されているのに,映画評論に関してはそうした区分はない。さすがにアダルト系だけが別で,他は何でも観てこなしていると言える。映画祭や観客自体も何でもござれのところがある。アニメだけは別格かといえば,そうでもなく,むしろアニメはその製作手法で結構好みが分かれるし,作品毎の想定顧客層が狭いと言える。
 ストップモーション(コマ撮り)アニメを苦手という人もいれば,その職人ぶり,芸術性を珍重する向きも多い。セル調アニメでのディズニー・ブランド信仰は崩れつつあるが,とって替わってファミリー層を狙ったピクサーの3D-CGアニメが世界を席巻している。その一方で,セル調では宮崎アニメを頂点とする「ジャパニメーション」が堂々たる1ジャンルを築き,一部の熱烈なマニアを生んでいる。コストダウンのためコマ落ちを巧みに利用した手法なのだが,それに慣れ親しんだファンはディズニー調のくねくねしたキャラの動きを嫌う。
 本欄の読者なら既に気づいておられるように,筆者はこの「ジャパニメーション」が好きになれない。和製のコミックも映画も大好きなのに,日本製のアニメだけが苦手なのだ。喰わず嫌いではなく,どの作品を観ても,その独特のタッチが肌に合わない。ピクサー製のフルCGアニメは大好きなのに,そのピクサーの御大ジョン・ラセターが尊敬してやまない敬愛する宮崎アニメやジブリ作品が苦手なのだから,皮肉なものである。
 さて,今年の夏は例年にもまして各種アニメ作品のラッシュだが,そのピクサーの『カーズ』(前号参照)と宮崎ジュニアの初監督作品『ゲド戦記』が真っ向から張り合う。この強力2作品に対抗して,フルCGではピクサーのライバルのドリームワークスの『森のリトル・ギャング』を投入し,ジャパニメーションではTV界で確固たる地位を築いたGONZOが『ブレイブ ストーリー』でジブリを追う。特に後者は,2D-VFXや3D-CGを大幅を取り入れたことを大いに吹聴している。

 
     
  物語は陳腐だが,CG表現力の進歩は顕著だ  
   まず『森のリトル・ギャング』のドリームワークスだが,大ヒットした『シュレック』シリーズではブラックユーモアた名作のパロディが目立ったのに,『シャークテイル』(05年3月号)『マダガスカル』(05年8月号)と量産化態勢をとるとともに毒気は消え,典型的なファミリー層向きの心温まる健全路線に転じてきた。
 原題は『Over The Hedge』(垣根を越えて)。同名の人気コミックが原作で,森に住む動物たちの勇気と友情の物語である。動物たちが冬眠から目覚めたら,自然が一杯の大切な森が半分になっていた。宅地開拓が一気に進み,境界線となる生け垣の向こうには人間たちが住んでいる。この環境破壊の中で生き残るには,垣根を越えて人間社会に乗り込み,危険を冒して食物を取ってくるしかない。味をしめてこの横取りを繰り返すうちに,人間達の動物捕獲作戦が始まった……。
 登場動物は,アライグマのRJ(ブルース・ウィリス/役所広司),カメのヴァーン(ギャリー・シャドリング/武田鉄矢)の他,リス,スカンク,ヤマアラシ,オポッサム等,リトル・ギャングの名に相応しい小動物たちだ。その毛の表現や森の樹木の描写は素晴らしい(写真1左)。『シュレック』(01年12月号)から既に基本技術は確立されていたが,一段と磨きがかかっている。芝生や生け垣の描写は芸術的とさえ言える。人間界で遭遇する各種グッズの表現もリアルで,そのデザイン力に感心する。開かれた冷蔵庫の中身などは圧巻だ。CG表現力で言えば,カメラワークやライティングでなど,意図的に映画的な手法を駆使していることが特筆できる(写真1右)。デフォーカスの使い方など,まさに古典的撮影技法だ。
 CG技術の進歩を感じる半面,キャラ設定も物語も平凡だが,ファミリー路線をとるとこうなるのだろう。主人公のアライグマRJは表情が乏しく,これは基本デザインのミスだと思う。相棒のカメはいいキャラ設定で,その風貌と日本語吹替の武田鉄矢の声は合っている。ただし,セリフが多過ぎて,存在感のある彼の声がうるさく感じられた。一方,プチ切れオバサンのグラディスに夏木マリを配したのは大正解で,これは名キャスティングだ。

 
     
 
 
 
写真1 森の植物や芝生の描写は精緻を極め,ボケ味や照明の使い方にも映画的手法が随所に見られる
(C)2006 DreamWorks Animation LLC and DreamWorks LLC. Over The Hedge TM DreamWorks Animation LLC.
 
     
  3D-CGとジャパニメーションの融合は不完全燃焼  
 

 対する『ブレイブ ストーリー』は,和製ブラッカイマーのヒットメーカー亀山千広氏(フジテレビ)がアニメにも触手を伸ばした第1作で,配給ルートにワーナー・ブラザース,アニメ制作スタジオにGONZOを選んだ大プロジェクトだ。先にこの組み合わせでの製作を決めてから,物語に宮部みゆきの原作を選んだという。
 主人公はいたって平凡な11歳の少年ワタル(声:松たか子)だが,題名通り,彼の勇気と成長の物語だ。対するもう1人の重要キャラは,成績優秀でスポーツマンのミツル(声:ウエンツ瑛士)だ。彼がある日入って行った階段の上の扉の中に,ワタルも向かうところから物語は一変する。扉の向こうは,剣と魔法とファンタジーが渦巻く「幻界(ヴィジョン)」と呼ばれる異次元の世界だった……。
 大部の原作のしっかりした世界観とストーリーがあるだけに,多彩な人物が登場し,ロードムービー風の物語が展開する。これを2時間弱の映画に詰め込むのは,ちょっと無理があったように感じた。ハりウッド流のハイテンポの展開ならともかく,ジャパニメーションのかったるい構図や動きでは,この緊迫感もスケール感も描けていない。この原作ならば,『ロード・オブ・ザ・リング』級の脚本やカメラワークをもってしなければ描き切れない。そう感じたのは,私だけではないはずだ。
 「幻界(ヴィジョン)」に向かう扉から始まり,なるほど随所に3D-CGの出番が感じられる。窓の外の景色,遠景の風景や大きな建物内部を描くのに,3D-CGの威力は感じられるが,そのレベルに留まっている(写真2)。この映画の基本は,セル調アニメであり,ジャパニメーションに特有の動きとカメラワークだ。その限界を超えてはいない。
 後半に登場する「イルダ帝国」では3D-CGが主流だが,いかにも取ってつけたような感じで,セル調とは全くマッチしていない。もっとも,このバラバラ感がGONZOの定番で,持ち味だと評する業界関係者もいたが,そりゃないだろう。単に融合する技術が未熟なのか,感性が鈍いのか,2D部門と3D部門の調和にまで手が回らないだけだろう。
 想定観客の年齢層は『カーズ』や『森のリトル・ギャング』よりも高く,物語にはそれだけのコクがある。観て損はない。もっと違う描き方をすれば,世界に通用する作品になったのにと少し惜しまれる。

 
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写真2 遠景や自然風景の描写には3D-CGが威力を発揮しているが,基本はセル調のジャパニメーション
(C)2006 フジテレビジョン/GONZO/ワーナーエンターテイメントジャパン/電通/スカパー!WT
 
   
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