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O plus E誌 2006年6&7月号掲載
 
 
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『ポセイドン』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
      (C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.  
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2006年5月17日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
  [6月3日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  パニック映画の原点となった作品のリメイク  
 

 1972年に製作されて大ヒットした娯楽大作『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク作品だ。旧作が日本で公開されたのは1973年の春休みで,当時のことはよく覚えている。休日には東京・日比谷の有楽座の周りには何重にも長蛇の列ができ,前売り券をもっていても簡単に入場できなかった。その後『大地震』(74)『タワーリング・インフェルノ』(74)と続くパニック映画ブームの先駆けとなった作品で,後年の『タイタニック』(97)にもかなりの影響を与えたとされている。
 大晦日の夜,北大西洋を航行中の豪華客船ポセイドン号は,海底地震による大津波で転覆し,上下逆さまの状態で静止する。パニック状態の船内で,サバイバルをかけて上へ上へと移動する人々の人間模様と遭遇する危機を描いた佳作だった。タイタニック号のように結末は分かっていないので,誰が死んで行き,誰が生き残るのか,全く予測できないのが面白みの1つだった。
 このリメイク作の監督は,『パーフェクト ストーム』(00年8月号)『トロイ』(04年6月号)のウォルフガング・ペーターゼンだ。大波だけが話題だった『パーフェクト…』のような駄作に終らず,かつての出世作『U・ボート』(81)のように,密室ものの緊迫感あふれる演出を期待したいところだ。
 既に来年のアカデミー賞視覚効果賞は,本作品が大本命だとの呼び声が高い。当然予想できるのは,CG製の大津波であり,船の転覆シーン等でのデジタル技術の活躍の場だ。ILM以下,多数のVFXスタジオが参加して,本欄としては絶対に外せない作品だが……。

     
  なるほど最新のCGはスゴイが,ただそれだけだ  
 

 シチュエーションは前作を踏襲しているが,予想通り登場人物は一新されていた。脱出行のリーダー役となるギャンブラーのディランに『メラニーは行く』(02)のジョシュ・ルーカス,ヒロインのジェニファーに『オペラ座の怪人』(05年2月号)のクリスティーナ役の記憶が新しいエミー・ロッサム,彼女の父親の元NY市長には『バックドラフト』(91)等の名脇役カート・ラッセル…,といったキャスティングだが,ちょっとこの登場人物たちが弱かった。主役はポセイドン号で,CG/VFXに製作費の大半をかけたためだろうが,もっと個性的で著名な俳優を揃えても良かったかと思う。
 この大作で1時間38分は短か過ぎる,何かの間違いかと思ったが,そうではなかった。前置きは少なく,あっという間に転覆し,次々と遭遇する困難の中をくぐり抜ける展開は,この映画を短くは感じさせない。その分,人間ドラマは希薄で,余裕もなければ,遊びもない。企画は安易で,脚本の詰めが甘過ぎる。この点では前作に遠く及ばないし,あらゆる面で『タイタニック』より小粒だ。どうしても,過去の偉大な2作品と比較してしまうので,評価が低くなってしまう。
 それでは,美術や技術部門の労は報われないので,本欄としては精一杯以下のように評価しておこう。
 ■ 『タイタニック』や『男たちの大和/YAMATO』(06年1月号)のように実物大の船も各種サイズの模型も作らず,海も船も完全にCGで表現したという(写真1)。この点ではILMの技術力は存分に発揮されている。スタンフォード大学の計算流体力学部門の協力を得て開発した波の表現ソフトは,『パーフェクト ストーム』を完全に凌駕した映像を見せてくれる。高さ45mの大波(写真2)も船と波がぶつかる数々のシーン(写真3)も,まさに最新のCG技術ならではの迫力だ。

 
     
 
 
 
 
写真1 船の細部も海もすべてCGで表現
(C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
 
 
 
 
 
写真2 押し寄せて来る高さ45mの巨大な水の壁。ワイドスクリーンで動画で観るとかなりの迫力だ。
(C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
     
 
 
 
写真3 最新の流体力学計算で船と波の衝突も描写
(C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
     
 

 ■ 圧巻は,約2分半のオープニング・シーンだ。海中から始まり,海上に出てポセイドン号をぐるりとなめ回し,甲板上でジョギングするディランに迫り,最後は再び海中へと視点を移す。明らかにジェームス・キャメロン監督とデジタルドメイン社が作ったタイタニック号出航後のシーンへの挑戦でありオマージュだ。この背景の海や空の描写が実に見事だ。人物のMoCap表現も格段に進歩しているなと感じる。ディランのアップのシーンは実写に違いないが,どこでCGと繋いでいるのか全く分からない。それでも「この船全体はCGだな」とすぐ感じてしまうのは,筆者だけだろうか。
 ■ 外観はすべてCGに頼った分,船内の大型セットは豪華そのものでこれはかなりの製作費だろう。その主役であるダンスホールは,転覆前の正しい位置のものと転覆後の逆さまの両方が作られている(写真4)。後者は9万ガロンの水の衝撃に耐えられてる構造だというが(写真5),水や炎の一部はCGによる合成だろう(写真6)。
 ■ 最後は何人か脱出して救出されるに決まっているが,その後の沈没シーンに関しては『タイタニック』の迫力には及ばなかった。これは技術力というより,演出力の差だ。エンディング・シーンはもっとお粗末で,失笑を買う。感動もなければカタルシスもない。これでは,最高峰の技術を提供したILMも浮かばれない。10年以上逃しているオスカーは,来年もまた黄信号だ。少なくともこの作品で取ることはないだろう。  

 
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写真4 こちらは転覆前のダンスホール
  写真5 9万ガロンの水が押し寄せても平気な設計  
 
 
(C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
     
 
写真6 すべて逆さまの高層セットだが,この炎はCG合成か
(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
   
 

 [注]試写会と原稿締め切り日の関係で,予め冒頭部を書いておき,観賞後に評点を与え,後半は次号に掲載しました。このページでは両者を統合し,多数の画像データを載せています。

 
   
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