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O plus E誌 2004年5月号掲載
 
 
『コールド マウンテン』
(ミラマックス・フィルムズ/東宝東和配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年3月11日 東宝東和試写室(大阪)  
  [4月24日より全国東宝洋画系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  美しいディジタル映像で綴る本格ラブ・ストーリー  
   本映画時評は,ディジタル技術が映像メディアに与える影響を同時代体験として語り,記録として留めることを目的としている。よって,CG, VFXを多用しているとの事前情報がある映画を取り上げることになるが,様々な映画でディジタル視覚効果が活用されるようになったとはいえ,どうしても宇宙,怪獣,亡霊ものや,コミック・ヒーローの映画化などが中心になり,心温まるヒューマン・ドラマや燃えるようなラブ・ロマンスには縁遠くなる。筆者の映画の好みが,ここまで浅薄なわけではない(念のため)。
 いつものようにVFX専門誌Cinefexのウェブ・サイトがリストアップしていたので,この映画を待ち受けたのだが,正直言って「儲けた。得した」という感じだ。戦争の酷さ,愚かしさを描くとともに,素晴らしく美しい風景をバックに繰り広げられる至高のラブ・ストーリーである。いやぁ,本欄でこの映画を取り上げられるというのは実に倖せだ。
 原作は,1997年に米国で出版されたチャールズ・フレイジャーの同名小説で,処女作ながらベストセラーとなり「近年アメリカ文学の最高傑作」との評判を呼んだ。時代は1860年代前半,「新しい自由の誕生」を目指し国を二分して戦った南北戦争の真只中で,否応無しにこの戦争に巻き込まれた南軍の兵士や農場主や女性たちが経験した苦しみや明日への願いを描く。小説の体裁をとっているが,下敷きとなっているのは,ノースカロライナ州のブルーリッジ山脈でC・フレージャーが聞いて育った曽々祖父や大々叔父たちの実体験だ。
 ヴァージニア州ピーターズバーグの戦いで,北軍の包囲攻撃により重症を負った南軍の兵士インマンは,3年前の出征の直前に一度だけ口づけを交わした牧師の娘エイダにもう一度逢いたいとの一念で病院を抜け出し,脱走兵の汚名を着て,彼女の待つ約500km離れたノースカロライナ州のコールドマウンテンへと向かう。物語の骨格は単純だが,ホメロスの『オデュッセイア』を思わせるロードムービー仕立てで,時代の激動と普通の人々の苦悩を織り交ぜながら,ストイックで美しいラブ・ストーリーが展開する
 この話題作を自ら見事に脚色した監督は,『イングリッシュ・ペイシェント』(96)で9つのオスカーを得て,『リプリー』(99)でも文芸監督らしい手腕を見せたアンソニー・ミンゲラ。撮影・美術・衣装・音楽等にも,両作品に参加した超一流スタッフを再結集している。その彼が最も気を配ったキャスティングでは,まず深窓の令嬢から大地の女に成長するエイダにニコール・キッドマンを選んだ。最近ことさらよく見かけると感じるが,数えてみると標準的な年2作のペースだった。印象深いのは,今絶好調で,話題作ばかりに出演しているトップスターだからだろう。『ムーラン・ルージュ』(2001年11月号)『アザーズ』(2002年5月号)も好演だったが,オスカー主演女優となった『めぐりあう時間たち』(02)のバージニア・ウルフ役よりも,この映画のエイダ役の方が良く似合う。壮大なスケールで描かれるこの大作は,21世紀の「風と共に去りぬ」と称されるだけあって,N・キッドマンには「スカーレット・オハラ」を演じさせてみたいと思わせる華がある。
 次に決めたのが,エイダのパートナーとなって農場を再建する流れ者のルビー役のレニー・ゼルウィガーだという。『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)『シカゴ』(2003年4月号)ではオスカー候補止まりだったが,この粗野でたくましい女性役で見事アカデミー賞助演女優賞に輝いた。なるほど批評家好みの演技だが,確かに上手い。キッドマンとのコントラストも鮮やかだ。着実に演技派として成長しているのが分かる。そして,この女性2人を決定してから,最後に主演のインマン役に『リプリー』でも印象深い演技を見せたジュード・ロウを選んだという。長々と配役について書いたが,このキャスティングの妙が,何よりもこの映画の成功を支えている。語るとキリがないから省略するが,脇役陣の人選も相当に凝っているなと感じさせる。
 Cinefex誌がVFX多用作品としてリストアップしてくれたのは,前半の戦闘シーンのおかげである。戦前の大作『風と共に去りぬ』(39)に比べても,最近の映画らしい戦争の描写は迫力ある。ここでVFXが活躍しているのは言うまでもないが,「多用」と言うほどでもない。時代を感じさせる建物を追加するのに使われているのかと思ったが,そうでもなかった。
 写真1の多数の兵士や写真2の爆発シーンなどは,CGの産物ではなく,エキストラや従来の爆破術の範囲内での描写だろう。その分リアルさは増しているが,映像のスケール感は少し控え目に留まっている。この映画はこれでいい。むしろ,マルチカメラを同期させたシーンの切り替わりの方が印象的だった。
     
 
写真1 この多数の兵士はディジタル・コピーではなく,エキストラを集めたのだろう。
 
写真2 爆発シーンも従来の火薬術のなせる技だろう。この爆風で吹っ飛ぶ兵士はCGかも知れないが。
 
     
   中盤以降は,脱走兵狩りの酷さを前面に出した物語だが,その酷さを際立たせるかのように,極上の美しいシーンが続く。19世紀後半のアメリカ東南部の山々を映像化するのに,ルーマニアの地を選び,大規模なロケを行なった。構図もカメラワークも色調も,息を飲むほど素晴らしい。さすがミンゲラだ。戦闘シーンはまるで中世の油絵のよう,雪山の遠景は山水画を彷彿とさせ,庭園や蓮の池はすぐにモネを思い出す。明らかに絵画を意識した映像作りだ。絵葉書やカレンダー以上の芸術的とも言える一連の光景は,これをワイドスクリーンで眺めるだけでも映画館に足を運ぶ価値がある。残念なのは,掲載を許されたスチル写真がほとんどないことだ(写真3)。
     
 
写真3 この他にも,叙情的で絵画のような美しいシーンがどっさり
 
 
 
   そこにはCG技術や合成技術の出番はないが,高精度のディジタル画像処理がしかと使われている。担当は,最近Framestore社とCFC (Computer Film Company)社が合併して生まれたFramestore CFC社だ。高精度のフィルム・スキャナとライタ,カラー・マネージメント・ソフトウェア等からなるDI(Digital Intermediate)技術がセールスポイントである。 凄惨な戦争シーン,インマンがたどる逃避行の美しい光景,時代を感じさせる屋内シーンの照明の色調表現に,この技術がフル活動している。この中間処理があるゆえに,撮影時に大胆なフィルタを使う冒険も許されるし,旧式のカメラレンズを模した映像を作り上げることもできる。一般観客の目にはそれと分からないだろうが,進化したディジタル画像処理技術はこんなところにも使われている。  
     
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