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O plus E誌 2004年4月号掲載
 
 
『オーシャン・オブ・ファイヤー』
(タッチストーン・ピクチャーズ
/ブエナビスタ配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年3月4日 ヘラルド試写室(大阪)  
  [4月17日より全国松竹・東急系他にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  J・ジョンストンが描く19世紀のサバイバル・レース  
   何事にも旬というものがあるものだ。ヴィゴ・モーテンセンといって通じなくても,『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで,フロドを守って戦う人間の王アラゴルン役の俳優といえば分かるだろう。デビュー以来約20年,さしたる役も演技もしていなかったのが,1作(実はシリーズ3作だが)だけでこうも変わるものだろうか。一枚看板をはるのはこれが初めてだが,寡黙で抑えた演技の中にも,既に40本近い映画に出演してきたキャリアがものを言っている。詩人であり,画家であり,ミュージシャンであり,自分を映画スターだと思っていないというから,不思議な俳優だ。
『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の大ヒットの余韻が醒めかけた頃に,女性ファンを狙ってこの映画を投入するのは巧みな興行作戦だ。筆者が注目したのは,むしろ監督とこの映画のシチュエーションだ。
 ジョー・ジョンストンは私の大好きな監督の1人で,『ミクロ・キッズ』(89)でデビュー以来,『ロケッティア』(91)『ジュマンジ』(95)と娯楽作品を手がけた。もともとILM所属のイラストレータで,『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』ではあのヨーダをデザインしたことで知られている。SFX,VFXに通暁しているのは言うまでもない。その彼が一転して,視覚効果とは無縁のヒューマンドラマ『遠い空の向こうに』(99)を撮った時には驚いた。今後その路線で行くのかと思いきや,再び『ジュラシック・パーク3』では,CG/VFXフル稼働,小気味いいテンポでシリーズ最新作を盛り上げた。その彼が,19世紀のアラビアを舞台とした実話物語を撮っているという。加えて,予告編を観ると,どうみてもCG製の大砂嵐が馬で逃げるヴィゴ・モーテンセンを追いかけている。一体どんな映画ができ上がったのか,愉しみでないわけがない。
 時は1890年,アメリカ西部のクロス・カントリー・レースで無敵を誇る馬ヒダルゴと騎手フランク・ホプキンス(V・モーテンセン)がいた。その彼に,アラブの族長の主宰するアラビア馬のレースに参加を呼びかける誘いが舞い込む。アラビア半島最南端のアデンからアラブの砂漠を越え,ペルシャ湾沿いに進み,クウェート,イラクを抜けてシリアのダマスカスに向かう3,000マイルのサバイバル・レースである。さしずめパリ・ダカール・ラリーの競馬版である。こんなレースが実際19世紀に行われていたとは知らなかったが,カウボーイのフランクが自分の馬を連れ,アメリカ西部からそこに参戦したのが実話だというから驚く。
 アラブの族長シーク・リアドを演じるのは,『アラビアのロレンス』(62)『ドクトル・ジバゴ』(65)『ファニー・ガール』(68)等で存在感のある演技を見せてくれた伝説のスター,オマー・シャリフだ。懐かしい。精悍な黒い髭はすっかり白くなった。表情豊かな演技はどこか三国連太郎を思わせる。威厳と人間性をもったこの役は,エジプト出身の彼にとって正にはまり役だ。その存在だけでこの映画がぐっと引き締まっている。さすがだ。
 邦題の「オーシャン・オブ・ファイヤー」(炎の海)はサバイバル・レースの名だが,これは灼熱の砂漠のたとえで,海を舞台にした映画ではない。原題は馬の名の「Hidalgo」で,この映画の大きな存在である。存在感だけで言えば,オマー・シャリフ>ヒダルゴ>ヴィゴ・モーテンセンの順になる。
 ジョー・ジョンストンは,この19世紀の壮大で過酷なレースをどのように描き,どの程度のVFXを駆使するのかが興味深かった。勿論,VFX担当は彼が今も親交をもつILMで,この映画は1社での担当だ。ということは,シーン数的にはそう多くなく,出来も悪かろうはずがない。きっとJ・ジョンストンは,効果的なところでのみCG/VFXを駆使していると予測したが,その通りだった。
 まず,この映画のイントロの映像が素晴らしい。音楽もいい。映画の冒頭部のアメリカが舞台の間は,19世紀の光景を描くのに不要物を消したり,書き加えたりに多少の視覚効果があったかと思う。雪や爆発のシーンにもディジタル処理が施されていたとしても不思議はない。 フランクがニューヨークから出港し自由の女神像を見上げるシーン,アラブに到着するシーンは明らかにディジタル合成だ。見ものは,むしろ中盤から後半である。
予想した通り,大砂嵐(ジニス)が迫り来る様はCGでしか描けない迫力だった(写真1)。『ハムナプトラ』(99)にも似たシーンはあったが,技術はずっと向上している。『パーフェクトストーム』(00)の大波を大砂嵐に換えただけとも言えるが,波と砂塵で物理モデリングがかなり違う。砂漠は基本的にはモロッコ・ロケだが,ジニスの他にも,死の砂漠(ルブアルハリ)や流砂地獄(ウムアルサム)の描写,イナゴの大群の襲来はCG技術による産物で,ILMの技術水準の高さが表われている。
 
     
 
 
 
写真1 VFXの最大の見せ場は迫り来る大砂嵐
(c) 2003 Touchstone Pictures. All rights reserved.
 
     
   まだら模様のムスタング,ヒダルゴも主役の一員であるが,その扱いがよく分からない。制作ノートによると,「撮影後,ヒダルゴを演じた5頭のうち1頭が,実際にヴィゴの愛馬になった」とある。これを読む限り,ヒダルゴ役には交替用と予備とで5頭の馬が用意されていたことになる。通常動物ものでは一般的な対策だ。しかしながら,このヒダルゴはまだら模様だ。模様まで同じ馬がいる訳がない。映画途中も気をつけて観ていたし,今何枚かのスチル写真を見比べても,模様は同じで1頭にしか見えなかった(写真2)。動きが速く識別ができないシーンで代役の馬を投入していたというのか,それとも,一頭ずつ異なったまだら模様をディジタル処理で書き換えているというのだろうか。そこまでの処理を施しているとは思えなかった。 
 この馬の表情がとてもいい。傷ついたヒダルゴが応急処理だけで全力疾走する様は,「ホントかよー」と思うが,良くできたエンターテインメントだ。ただし,ヴィゴ・モーテンセンはこの映画のようなスッピンよりも,アラゴルンのヒゲ面の方が似合っている。と,編集者らしき女性観客2人が試写室で語り合っていた。
 
     
 
 
 
写真2 同じ馬かどうかの識別は,まだら模様が手掛り
(c) 2003 Touchstone Pictures. All rights reserved.
       
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