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O plus E誌 2002年11月号掲載
 
 
『トリプルX』
(レボリューション・スタジオ/東宝東和配給)
 
    
  オフィシャルサイト日本語][英語]  2002年8月29日 東宝東和試写室 
  [10月26日より全国東宝洋画系にて公開中]    
     
 (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。) 
  
 超一級のスタント・アクション,すげー! 
   本格的にこの映画時評欄を始めて3年余。同期間に3本の作品で監督兼脚本家として不動の地位を得たのが先月号紹介の『サイン』のナイト・シャマラン監督なら,俳優としてブレークしたのがヴィン・ディーゼルだ。こちらも『ピッチブラック』(00年12月号)『ワイルド・スピード』(01年10月号)に続いて3度目の登場である。
 原題は『xXx』で,真ん中のXだけが大文字だ。この過激の3乗マークのタトゥーを首の後ろに入れたスキンヘッド,筋骨隆々,ドスの利いた声のアウトローが,NSA(アメリカ国家安全保障局)からスカウトされ,007ばりのスーパー・シークレット・エージェントとして活躍するという設定である。筋の通った見所ある盗っ人を密偵にする「鬼平犯科帳」を思い出させてくれる。アンチヒーローをヒーローにという構図で,このヴィン・ディーゼルほどの存在感のある俳優は思いつかないから,エンターテインメントとしてはいい企画だ。
 トリプルXをスカウトする鬼平役のギボンズNSA捜査官には『英雄の条件』(00年8月号)『スター・ウォーズ エピソード1&2』のサミュエル・L・ジャクソン。こちらも貫録は十分だ。xXxガール,エレーナ役のアーシア・アルジェンもそこそこ魅力的で悪くはないが,男2人の存在感の前にかすみ気味だ。
 旧ソ連の開発した生化学兵器を盗んだアナキスト・グループのテロ計画を阻止するため,「毒には毒を」とスカウトされた悪漢ザンダー・ケイジが,先に潜入していたロシアの美女エージェントと力を合わせ,間一髪で大惨事を救う……。
写真1 ウリの1つは派手なバイク・アクション。(このシーンの顔は本物?)
という展開は,前半ワルのザンダーをいかにしてエージェントに仕上げるかという取ってつけた設定部分以外,何から何まで007そのものだ。ここまで来ると,改めて007シリーズの偉大なマンネリ,娯楽映画としての基本構図の素晴らしさに恐れ入ってしまうほどだ。
 ジェームス・ボンドと張り合うのに,それを超えるだけのアクションに継ぐアクションの連続をウリにしている。監督のロブ・コーエンや主要スタッフは『ワイルド・スピード』と同じというから,見る前からぎんぎんのジェットコースター・ムービーであることは分かっていた。この映画では,橋から飛び降りたり,ヘリと絡んだりの派手なバイク・アクション(写真1),スノボーをつけたままでのスカイ・ダイビング,そして雪山に着地してからのスノーボードでの大滑降(写真2)と見せ場が続く。スタントマンだけで約150人,スノボーの代役だけで4人もいる。ハリウッド流アクションを見慣れたファンでも,これは素直に「すげー!」と感じるレベルだ。
 
     
 
写真2 もう1つのウリは雪山でのスノボー大滑降。(CGの合成シーンか?)
 
     
   この超一流スタント・アクションとがっぷり四つに組んだ視覚効果を見せてくれるのは,デジタルドメイン社だ。最近不振でILMには大差をつけられた感のある同社としては,久々の意欲作だろう。数々のアクション・シーンで,スタントマンの実写の演技をCGで描いたヴィン・ディーゼルの顔とすげ替えた。『ジュラシック・パーク』(93)『タイタニック』(97)の時代から,顔のすげ替え自体は珍しくないが,この映画では予め撮影された俳優の顔との単純な交換ではなく,CGで生成した顔を使っている。V・ディーゼルの頭部・顔面の幾何形状を忠実に入力し,顔の筋肉や多層の皮膚モデルを作って,多数のシーンに使える様々な顔を生成できる方法を採った。
 SIGGRAPH 2002でのこの方法のメイキング講演に大口孝之氏がいたく感心していたが,本人の顔テクスチャー画像を使うなら,最近のCG技術をもってすればそんなに絶賛するほどのものではない。スキンヘッドだから,最も難しい髪の毛の処理も必要ない。なるほど,これだけ沢山のシーンで使うなら,このやり方もコスト的に合うかもしれない。こうして作ったと知らなければ,ちょっと分からないシーンも多々あるが,図に乗って使い過ぎで,いかにもCGと分かる嘘っぽいシーンも少なくない。
 スカイダイビングもスノボー滑降もアクションは本物だが,かなりディジタル合成が使われている。合成そのものは上質だ。雪山の雪崩も意図的に発生させては危険だから,CGで生成したのだろう。本物は見たことないのだが,このシーンは少し不自然に感じた。洪水や降雪は過去にあったが,雪崩の物理モデルはそう簡単でないだろうから,これが精一杯かもしれない。ザンダーに迫り来る雪崩は,『ロード・オブ・ザ・リング』で同社担当の洪水から白馬が登場するシーンを思い出した。同じプログラムを変形して使ったのだろう。
 ヴィン・ディーゼルは適役であるが,「札付きのワルがそんなすぐにいい人になって美女を助け,惨事を防ぐのかよー」と感じた。ま,娯楽映画だから野暮は言うまい。すでにシリーズ化が決定しているが,2作目以降どんな活躍を見せてくれるのか楽しみにしておこう。
 
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