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O plus E誌 2002年12月号掲載
 
 
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
    
  オフィシャルサイト日本語][英語]  2002年11月16日 相鉄ムービル先行上映 
  [11月23日より全国松竹・東急系にて公開中]    
     
 (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。) 
  
 予想通りの満足度。でも,2時間41分は長い。 
   小説も映画も,もはや世界の秘境以外では知らない人のいなくなった人気シリーズの2作目である。前人気も上々で,映画公開の少し前に出た第4巻目の邦訳『炎のゴブレット』は,初版230万部で日本出版界の記録となった。映画の公開は昨年と同様,欧米より約1週間遅れの11月23日だったが,先行オールナイトやレイトショーが780館で行われたから,実質ほぼ同時公開と言ってよい。
 しっかり第1作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』のDVDを見直して登場人物とVFXのデキを確認してから,土曜の夜の先行上映の列に並んだ。字幕スーパーの列は若いカップル中心で,隣の日本語吹替え版の列には小中学生の親子連れが多い。日本にもこれだけのポッタリアンがいるのだ。なぜこんな列に並んだかというと,別に民の生活を見て回る黄門様気取りなのではない。昨年と違って,この2作目は試写をみせてもらえなかったからである。一般用試写会はどんどん案内しているのに,今年は親会社の方針でマスコミ用試写会はなしだという。当たると分かっていると現金なもので,辛口の評論はシャットアウトしようという魂胆のようだ。プレス資料はくれたので「全く見ずに書けということか?」と尋ねると,「そういうことだ」との答えが返ってきた。
 そういう経緯は忘れ,偏見なくこの2作目を評価するならば,まずまず無難でほぼ期待した通りの出来栄えと言えるだろうか。大きな驚きはないが,そこそこ面白く,大人も子供も十分鑑賞に堪え得るレベルということだ。勿論,世界中のポッタリアンたちの目を十二分に意識した脚本であり,小説は読まないものの1作目を見たファンを前提とした話になっている。
 監督のクリス・コロンバス以下,脚本・音楽・美術等も1作目と同じで,ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)に親友のロン(ルパート・グリント),ハーマイオニー(エマ・ワトソン)の3人組を始め,ライバルのドラコ・マルフォイ,ダンブルドア校長,マクゴナガル副校長などホグワーツ魔法魔術学校の主要メンバーやハリー叔母一家の顔触れは変わりない。ここに新たにドラコの父ルシウス,ロンの妹ジニーが加わる。また,「闇の魔術の防衛術」を教える新任教師ロックハート(ケネス・ブラナー)や,かつてホグワーツの生徒だった亡霊トム・リドル(クリスチャン・コールソン)も2作目の重要な役どころだ。こういう長編シリーズは,前作に加えてどんどん登場人物が増えるので,覚える方も一苦労だ。
 物語は,1年生を終えた夏休み,突然ハリーの部屋に"屋敷しもべ妖精"のドビーが現われ,「今学期,ホグワーツで世にも恐ろしいことが起こります」と言ってハリーを学校に戻らせないように警告するところから始まる。その妨害を切り抜け,学校に戻ってみると,ハリーにだけ聞こえる不吉な声,壁に書かれた身の毛もよだつ血文字の警告文,ボグワークに伝わる「秘密の部屋」の伝説から不思議な出来事が次々と起こる……。
 直前に前作のビデオを見ていただけに,まずハリーとハーマイオニーの顔が少し変わったと感じた。子役の成長は早い。まさに1年ぶりの里帰りの感じだ。1年1作のこのシリーズとしては,この成長の感覚は悪くない。この軽い違和感はすぐに消え,ダイアゴン横丁,9と3/4番線,ホグワーツ特急,大男のハグリット,学校に戻れば,スネイプ先生,フリントウィック先生等,お馴染みの名前や顔触れの登場に懐かしさがこみ上げてくる。
 そう,この物語はファンをまず懐かしがらせ,喜ばせ,色々な学校生活での新しい出来事を描いて,少し謎解きの伏線を張っておき,そして後半大きな盛り上がりをみせ,ハリーが大活躍をするという構図だ。小説を読んでいるファンには1つ1つのエピソードの登場が嬉しいらしいが,映画だけの観賞者には詰め込み過ぎで,2時間41分は長過ぎる。後の巻で再登場し,重要な意味をもつ事柄や人物が多いから,簡単に切れないのだという。なるほど,前作の始めに出てくる動物園での蛇との会話が,2作目でこんな形で繋がって来るとは予想もできなかった。
 この2作目では,知的な美少女ハーマイオニーの出番が少ないという不満も多い。なぜ出番が少ないかを言うと,多少ネタバレになるので,これは伏しておこう。
 VFX全体のスーパバイザは,ILMのジム・ミッチェルとニック・デイビス。ILMの他には,Mill Film社とThe Moving Picture Co.が主担当で,他にシネサイト社やCFC社も名を連ねている。以下,全く予備知識,事前情報なしに観て感じたVFXについての感想である。
 ■本作のドビーは少々うるさいが,CGとしては良くできている(写真)。
写真 これが新キャラクターのドビー。陰影や表情や動きのつけ方も悪くない。
(C)2002 WARNER BROS. HARRY POTTER CHARACTERS, NAME ADN RELATED INDICIA ARE TRADEMARK OF AND (C) WARNER BROS. ALL RIGHTS REDERVED. HARRY POTTER PUBLISHING RIGHRS (C) J. K. ROWING
動きはモーション・キャプチャがベースで,時としてアニメータが個性的な挙動をつけたのだろう。ハリーや他の人物との絡みも複雑だ。ハリーがドビーの衣服を掴むシーンがあるが,どうやって撮ったのだろう? このドビーはフルCGなのか,実物に首から上だけすげ替えたのだろうか?
 ■クイディッチの試合シーンは今回も結構長く,クオリティ的には前作より良くなっていた。ハリーが骨抜きになるシーン,文字が消える日記帳,亡霊の描き方などは,最近のディジタル技術ならさしたる苦労もなく実現できる視覚効果だ。
 ■ドビーの他に,植物の根が赤ん坊になっているマンドレイク,群青色のピクシー小妖精の群れ,不死鳥のフォークスなど,クリーチャーのデザインも動きも水準以上で合格点だ。それに対して敢えて言うならば,空飛ぶクルマとこれを襲ってくる暴れ柳は,デザイン的にも動きの与え方も今一つだと感じた。
 ■(少しネタバレだが)クライマックスとして,秘密の部屋で大蛇と戦うシーンは良くできていた。この大蛇は大半はCG映像だと考えられるが,顔から滴る水や跳ね回ったとき舞い上がる水飛沫もディジタル生成したのだろうか? それは実写ベースで合成したと言われても不思議ではないが,メイキング映像を楽しみにしたい。
 ■第1作に比べると,魔法の授業のシーンがふんだんにあると聞いていたが,それほど多くなかった。それでも,前作を上回るVFXのオンパレードで,全体としてのレベルは低くない。ただし『SW EP2』が見せてくれた感動,あの執念とも言うべきVFXの実力の前には,少し評価を下にせざるを得ない。
 
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