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O plus E誌 2020年11・12月号掲載
 
 
『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒
(ギャガ配給 )
      (C)2019 SHANGRILA FILMS LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月13日より新宿バルト9他順次公開中]   2020年11月1日 サンプルDVD観賞
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  1作毎に進化しているCGと3Dプリンタの利用  
  紹介予定の大作映画が,またしても公開延期になってしまった。あわやメイン記事なしになるところだが,ゴールデングローブ賞受賞のこのアニメ作品があったので,当然トップ記事で紹介する。アカデミー賞では長編アニメ部門に,アニー賞では7部門にノミネートされたが,受賞は逸している。実を言うと,スチル写真を観ただけでは,フルCGアニメだと思っていた。予告編を観て,ようやくコマ撮りのストップモーション・アニメーション(STA)であることに気がついた次第だ。
 製作会社はライカ(Laika)で,米国オレゴン州にある2005年設立の新興スタジオである。1990年からSTAを手がけていたウィル・ヴィントン・スタジオの流れを汲むらしいが,『ティム・バートンのコープス ブライド』(05年11月号) の制作を担当する際に,独立した新ブランドの会社となったようだ。STA分野では,『ウォレスとグルミット』『ひつじのショーン』の両シリーズを有する英国のアードマン・アニメーションズが輝かしい伝統を誇るが,ライカはそれに対抗し得る勢力となっている。とりわけ,劇場用長編作品に熱心で,ライカ・ブランドではこれが5作目となる。当欄では,過去に 『コララインとボタンの魔女 3D』(10年2月号)『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(17年11月号)の2本を紹介し,いずれも高評価を与えている。
 これまでの作品と同様,全くのオリジナル脚本である。時代はヴィクトリア朝のロンドンで,主人公の「英国紳士」とは,「神話と怪獣研究の第一人者」を自称するライオネル・フロスト卿である。知的好奇心から「未知の生命体」を発見することをライフワークと考えているが,同時に憧れの「貴族クラブ」の会員として認められたいという野心ももっている。ある日,米国から届いた手紙に,「ビッグフットの居場所を教えましょう」と書かれていたから,彼はワシントン州まで出向く。
「ビッグフット」とは,2m以上ある巨大生物で,類人猿から人間へと進化する中間過程の「生きた化石」で,進化の「失われた環=Missing Link」に相当すると考えられていた。現地の森でライオネル卿を待っていたのは,何と人間の言葉を話し,読み書きまで出来る大猿だった。彼はライオネル卿に「Mr.リンク」と名付けられ,彼の親族と思われるイエティが住む伝説の「シャングリラ」を探すため,共にヒマラヤの奥地を目指す。即ち,Mr.リンクが「秘密の相棒」である。
 本作の監督・脚本は,ライカの2作目『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(12)でも監督・脚本を手がけたクリス・バトラーだ。声の出演の目玉として,ライオネル卿の声をヒュー・ジャックマンが担当している。その他,Mr.リンクにザック・ガリフィアナキス,ヒロインのアデリーナにゾーイ・サルダナ,イエティの長老にエマ・トンプソンが声優として配されている。
 以下,当欄の視点からの論評とコメントである。
 ■ STA専用スタジオとして,ライカは先端技術を大幅に採り入れている。基本となるのは人形や模型のデザインと制作技術であり,パーツを入替え,わずかな動きを与えて行くノウハウだが,そこにCGデザイン結果を実物化する3Dプリンタが大きな役割を果たしている。1つずつ手作りしなくても,少しだけ違う多数のパーツをコンピュータが生み出してくれるのだから,強力な武器である。既に1作目から利用していたようだが,3Dプリンタの低価格化が貢献し,特に人形の顔での感情表情が豊かになった(写真1)。長老の長い白髭もその産物だろう(写真2)。ライオネル卿だけで39,000,全人形で106,000種類の顔パーツを作ったという。
 
 
 
 
 
写真1 顔の部品が多数になり,表情も豊かに
 
 
 
 
 
写真2 長い白髭も3Dプリンタの産物だろうか
 
 
  ■ 公開されているメイキング画像を観るだけで嬉しくなる(写真3)。映画本編のエンドロールには動きのあるメイキング映像も含まれていた。主たる人形の大きさはこれらで分かるが,シーンによってはもっと大きなもの,小さなものも存在する。一段と進化したのは,背景セットの多彩さとスケールの大きさだ(写真4)。その制作にも3Dプリンタが貢献している。ミニチュアセットは100(ライカ史上最大)も作られ,WAからNY,ロンドン,インド,ヒマラヤへと旅する撮影が可能になった。
 
 
 
 
 
写真3 メイキング画像でキャラの大きさがよく分かる。  
 
 
 
 
 
写真4 STAでもこうしたスケールが大きい屋外を描けるようになった
 
 
  ■ もう1つの進化は,CG利用の上達と撮影後の映像に加えるVFXだ。例えば,写真5のカモメの大半や写真6写真7の奥の山はCGで,それぞれの雲,霧等も後で描き加えられている。圧巻はシャングリラでの氷の橋上でのアクションシーンだ(写真8)。このシーンの大半はCGだと想像したのだが,ここは氷の橋も宮殿もすべて実物を作り,シーン毎にスケールを変え,人形のサイズもそれに合わせたそうだ。呆れるばかりの職人気質である。
 
 
 
 
 
写真5 背景の雲や多数のカモメはCGを合成
 
 
 
 
 
写真6 人物や手前の岩山は実物で雲や遠景はCG
 
 
 
 
 
 
 
写真7 (上)岩を登るシーンも1コマずつ丁寧に
    (下)背景の山を描き加えた完成画像
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真8 クライマックスのアクションシーン。氷の橋はすべて実物を作った。
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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