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O plus E誌 2017年11月号掲載
 
 
KUBO/クボ
二本の弦の秘密』
(ギャガ配給)
      (C) 2016 TWO STRINGS, LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月18日より新宿バルト9他全国ロードショー公開予定]   2017年9月27日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  CGも巧みに織り交ぜたコマ撮りアニメの逸品  
  待ち遠しかった映画だ。人形を使ったストップモーション,所謂コマ撮りアニメである。米国では昨年8月公開であり,昨夏のCGの祭典SIGGRAPH2016で,そのメイキング・セッションを聴いたことは既に述べた(映画全編は観ていない)。ところが,秋以降,日本での公開予定は全く聞こえてこなかった。物語の舞台は日本だというのに,なぜ早く公開しないのか不思議だった。
 年末から年始にかけて,アニー賞初め各国のアニメ映画祭での受賞が続いた。そして,第89回アカデミー賞で長編アニメ賞,視覚効果賞の2部門にノミネートされたことにより,俄然注目度がアップした。その頃,ギャガ配給での本邦公開が明らかになり,欣喜雀躍した。
 コマ撮りアニメと言えば,『ウォレスとグルミット』『ひつじのショーン』両シリーズを制作する英国のアードマン・アニメーションズの知名度が高いが,本作は米国のライカ(Laika)社が制作している。CMや幼児番組用の短篇が得意だが,長編は『コララインとボタンの魔女 3D』(10年2月号)が同社の第1作だった。『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(12)『The Boxtrolls』(14)を経て,本作が第4作目となる。全作アカデミー賞ノミネートを果たしているので,かなりの実力だと言える。
 主人公は,闇の魔力をもつ祖父の「月の帝」に片目を奪われ,父や母も失った少年クボである。木彫りのお守りが実体化したサルやクワガタムシの化身らと力を合わせて月の帝と戦い,その魔力から村を解放する……。
 それだけなら,よくあるアクション・ファンタジーに過ぎないが,封建時代の日本(室町時代? 江戸時代?)を舞台とし,船や港,廃屋,竹林等々,見事な色彩感覚と和風デザインで全編を描き切っている。欧米人にとっては,エキゾチックな香りがする逸品なのだろう。スタジオジブリ代表取締役の鈴木敏夫氏をして,「この映画をアメリカ人が作ったというから二度驚く。日本も捨てたモンじゃない!」と言わしめたほどである。
 監督は,アニメーター出身でライカCEOのトラヴィス・ナイト。前2作はプロデューサーであり,本作が初監督作品だ。声優陣にはシャーリーズ・セロン,マシュー・マコノヒー,レイフ・ファインズ,ルーニー・マーラ等の大物俳優を起用し,本気度が伺える。
 以下,当欄の視点からの感想と評価である。
 ■ コマ撮りアニメは,実体感,手作り感がウリであるのは言うまでもないが,本作の美点は,人形の表情の豊かさだ。頭部全体を入れ替える従来の方法でなく,顔のパーツを部分的に入れ替える手法で,クボは4,800万通り,サルは3,000万通りの表情生成が可能だという(写真1)。クライマックスのアクションシーンも素晴らしい。従来の人形アニメにはなかった動きの激しさだ。ダンスとアクションの振付師を採用し,彼らがデザインしたアクションを反映できるシステムを作り上げている。
 
 
 
 
 
写真1 左がクワガタ,手前がサル。なるほど表情は豊かだ。
 
 
  ■ 手作りに拘る一方で,CGも巧みに織り込んでいる。例えば,写真2のクボと背景の家屋はミニチュア模型であり,他の村人たちはCGで描かれている。冒頭の大嵐の海のシーンは,模型の船を動かすのに,紙で作った多層の波を作り,その上にCG製の波を重ねている。一方,模型を作ってから,それをスキャンしてCGモデルを作ったり,逆にCGでデザインしてから3Dプリンターで模型のパーツを製造する方法も採用している。
 
 
 
 
 
写真2 クボと家屋は模型で,村人たちはCG製
 
 
  ■ クボや家屋の大きさの基本形は写真3のミニチュアだが,最小は折り紙で作った5cmのハンゾウである。一方,巨大骸骨(写真4)は4.9mもの大きさで,人形アニメ史上で最大だそうだ。大き過ぎ,重量超過でアニマトロニクス化ができず,パペット操作で動かしている。陰影表現にも拘りがある(写真5)写真6などは,何が実物で,どれだけVFX加工したのか識別できない。多分,灯籠の大半は本物で,鳥への変身からがCGなのだろう。
 
 
 
 
 
写真3 家や人形の大半は,ほぼこの程度の大きさ
 
 
 
 
 
写真4 骸骨は人間より大きく作ってパペット操作
 
 
 
 
 
写真5 この陰影や透明表現はCGならではの威力
 
 
 
 
 
写真6 灯籠が鳥に変形して,初めてCGだと分かる
(C) 2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.
 
 
  ■ ダリオ・マリアネッリ作曲のスコアは,オーソドックスで美しい映画音楽だが,それに重なる和楽器の音色が心地よい。エンドソングだけが歌入りで,“While My Guitar Gently Weeps”が鳴り響く。この選曲とアレンジに痺れた。歌はジョージ・ハリスンでなくレジーナ・スペクターで,泣きじゃくるのはエリック・クラプトンのギターではなく,三味線と琴の音だった。    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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