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O plus E誌 2006年4月号掲載
 
 
ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』
(ドリームワークス映画
/アスミック・エース配給)
      TM&(C) Aardman Animations Ltd. (C)DreamWorks Animation LLC and DreamWorks LLC  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月18日よりシネカノン有楽町ほか全国ロードショー公開中]   2006年2月6日 ヘラルド試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  CGアニメを押しのけて,長編でオスカー受賞の快挙!  
 

 クレイ・アニメーションの人気シリーズの待望の初長編作品である。先月号でも紹介できたのだが,この作品を取り上げるのを1ヶ月遅らせた。第78回アカデミー賞長編アニメーション部門の候補3作品にノミネートされていたので,その行方が気になったからである。
 結果は,同じくクレイ・アニメの『ティム・バートンのコープス・ブライド』(05年11月号),宮崎アニメの『ハウルの動く城』(05)を抑えて,見事にオスカー受賞作となった。過去のシリーズ3作品はすべて短編部門にノミネートされ,2度受賞しているから,ものすごい打率だ。監督・脚本・製作のニック・パークは,本誌シリーズとは別のデビュー作『快適な生活』(89)でも受賞しているから,これが4度目となる。
 注目すべきは,フルCGアニメ全盛の時代に候補作がいずれもCG作品でなかったことだろう。興収1億ドルを軽く突破したヒット作,『シャーク・テイル』(05年3月号)『ロボッツ』(同8月号)『マダガスカル』(同8月号)『チキン・リトル』(同12月号)はノミネートすらされなかった。昨年は元祖ピクサー作品が公開されなかったこともあるが,CGの余りの勢いに,古き良き時代を懐かしむ映画人達がクレイやセル調のアニメの味を再評価したとも言える。しかし,本欄が上記4作品に☆☆☆を打たなかったように,フルCGならではと感心する驚きも減り,ストーリー的にも今イチだった。
 英国のストップ・モーションの名門アードマン社の名作シリーズに,ドリームワークスの資本が入ったこの長編はさすがに力が入っていた。この組み合わせでの長編は既に『チキンラン』(01年4月号)があるが,人気シリーズの長編化となると気合いの入れ方も尋常ではない。筆者はこの機会に4本入りのDVDボックスを買って過去の作品も眺め直したが,何しろ登場人物の数が違う。背景となるセットは30にも及び,細かなオブジェクトにも製作費をかけたなと感じさせる(写真1)。特に,主な舞台となる野菜畑の作り込みはすごく,屋根から野菜畑を見下ろすシーンは圧巻だ。85分の長編で,これだけの登場人物のストップ・モーションとなると,気が遠くなる時間を要したことは,単純計算しただけでも容易に想像できる。

 
     
 
 
 
写真1 お馴染みのクレイ人形はもうお手のもの。建物,芝生,植物等の作り込み,本物感が嬉しい。
(C)DreamWorks Animation LLC and DreamWorks LLC
 
     
 

 お馴染みの2人,いや1人(さえない発明家ウォレス)と1匹(愛犬グルミット)だけに,このコンビの活躍振りはもはや円熟の境地とさえ言える。恒例のウォレスの起床から朝食にいたるオートメーションは,一段とパワーアップして爆笑させてくれる。グルミットが軽飛行機を操縦するシーンは『ウォレスとグルミット,危機一髪!』(95)でもお馴染みのアクションだ。他のキャラの中では小ウサギ達がすこぶる可愛い。
 では,すべて粘土作りの人形と模型の実写コマ撮りかと言えば,毛皮に覆われたウサギ男はパペット操作で動かし,さらにはデジタル処理によるVFXも登場させている。VFX担当は,今やトップ・スタジオの1つMoving Pictures Co.で,数十人のデジタル・クリエータ達が参加した。霧,埃,煙などの表現は絶対的にCG技術が有利だし,ウサギ吸引マシーンBV6000でウサギ達が空中浮遊するシーンでもCGが使われていたようだ。これをワイヤーとコマ撮りでやるのは馬鹿げている。
 今やCGの表現力は増したから,クレイ・アニメーションの実写の方が本物感・実物感が特に上ということはなくなった。では,人形らしさ,ぎこちない動きの味わいだけで勝負できるかと言えば,それで世界中の観客を呼べるほど甘くはない。一方,フルCG側も描画力,動きの表現力の優位性にあぐらをかいてはいられない。観客にとっては制作手法の違いなどどうでもよいのだ。これだけ劇場公開のアニメ作品が増えると,もはや物珍しさは通用しない。それゆえ,ピクサーのジョン・ラセッタや,アードマンのニック・パークといった真の映画好きが作る魂のこもった作品が好まれるのだろう。
 色々絶賛したこの映画にはご祝儀で☆☆☆をつけたが,個人的には『…コープス・ブライド』の方が良くできていると思う。また,本シリーズ中のベストかといえば,それもちょっと怪しい。躍動感という点では,『ペンギンに気をつけろ!』(93)のあの模型列車でのチェイス・シーンは超えていない。このコンビのシリーズには,85分という尺は長く,従来の30分弱の方があっていると思う。質感は向上しゴージャスさが増したが,サイズが大きくなって,かつてのキビキビした動きが感じられなくなった愛車……。そんな感じが少し残った。  

 
          
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