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O plus E誌 2020年5・6月号掲載
 
 
ザ・ボーイズ』
(アマゾン・スタジオ)
      (C) Amazon Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2019年7月26日よりAmazonプライム・ビデオにて配信中]   2020年5月9日 シーズン1(全8話)ネット観賞完了
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ドーピングで生まれたヒーロー達のゲスぶりに注目  
  次はAmazonオリジナル作品で,当欄定番のスーパーヒーローものだ。TVドラマシリーズで,シーズン1は全8話,各話は55〜66分なので,こちらも映画4本分に相当する。上記『ダーククリスタル: エイジ…』より約1ヶ月早い昨年7月下旬から,ネット上で独占配信されている。Amazonビデオ史上,最も視聴されたシリーズとのことだ。なるほど,確かに面白い。
 ガース・エニス(作),ダリック・ロバートソン(画)の同名コミックの実写映像化だ。作者らはコミック界ではそこそこ知られた存在だが,著名なヒーローは登場しない。SFブラックコメディなる位置づけだが,「ブラック」といっても敵役のビラン,所謂アンチヒーロー,ダークヒーローではない。全員超能力はあり,表向きは正義の味方として活躍するスーパーヒーローなのだが,アベンジャーズやジャスティスリーグの面々ほど凄くはない。全員「ヴォート社」なるヒーロー派遣会社に所属し,要請に応じて,契約し,各都市に配されている。言わば,大手芸能プロダクションのようなものだ。宣伝文句や広報ビデオで売り込まれる「作られたヒーロー」であるだけでなく,ドーピング薬「コンパウンドV」の投与で超能力を維持しているという疑惑もある。
 200余名の所属ヒーローの頂点は「セブン」と呼ばれる7名のエリートで(写真1),星条旗を背負ったリーダーの「ホームランダー」はさしずめ「キャプテンアメリカ」,アマゾネス・ルックの「クイーン・メイヴ」はまるで「ワンダーウーマン」,水棲生物と会話ができる「ディープ」はさながら「アクアマン」…という風に,人気ヒーローのパロディになっている。その何人かは人格も酷く,「ゲス・ヒーロー」と呼びたくなるくらいだ。
 
 
 
 
 
写真1 ヴォーグ社が誇るヒーロー軍団の「セブン」
 
 
  彼らの悪行の被害者(非超能力者)たちが,ヴォート社と戦うために結成した軍団が「ザ・ボーイズ」だ。といっても,青年は主人公のヒューイ(ジャック・クエイド)だけである。リーダーのビリー(カール・アーバン)は全くの中年オヤジで,悪役でも通じる顔立ちだ。
 高速疾走可能な「Aトレイン」に激突され,ヒューイの恋人ロビンが落命したところから物語は始まる。ヒューイはビリーに勧誘されてザ・ボーイズに加入する。一方,少し超能力のある少女アニーがオーディションに合格し,「セブン」の一員に抜擢され,「スターライト」としてデビューする物語が並行して展開する(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 アニーは,セブンの一員「スターライト」としてデビューする
 
 
   TVシリーズらしく,各話で監督も脚本も異り,誰一人知らない。劇場用映画で知られている俳優は,ヴォート社副社長役のエリザベス・シューとヒューイの父親役のサイモン・ペグくらいで,他はほとんど無名に近い。ヒロインのアニー役は,エリン・モリアーティなる若手女優で,エイミー・アダムスを若くした感じだ。即ち,美形だが,どこにでもいそうな平凡な顔立ちである。
 ヴォート社の存在,堕落した彼らの生態が,ヒーローものとしては異色で,第1話から引き込まれる。シリーズだと,何話もかけて正体を暴くことができる。ホームランダーとAトレインのゲス振りが際立っているが,ヒューイとアニーのロマンスが清涼剤となっている。
 以下,当欄の視点からの評価とコメントである。
 ■ 物語としては面白いのだが,CG/VFXの観点からは全く評価に値しない。同じアマゾン・スタジオ製作の『グッド・オーメンズ』(20年Web専用#2)はTVシリーズのVFXの好例として紹介したのだが,それよりも数段落ちる。計8時間近くの尺であるから,VFX利用シーンはいくつもある。例えば,Aトレインがライバルと速さ比べをする競技場やその大観衆,ディープの腹部の鰓,彼が連れ出したイルカ,宗教儀式での空中浮揚(まるで麻原彰晃),ホームランダーのヘマでジェット機が墜落するシーン等々であるが,何も目新しくない。強いて言えば,身体を透明化できる「トランスルーセント」を可視化するのに,血まみれにさせたシーン(写真3)は,少し褒められる。ヴォート社はNYマンハッタンの高層ビルにあるが,その最上階のメインルームのデザインも古くさく,お粗末だ。無名俳優の起用やビジュアル面のプアさは,意図的演出かと思えるほどだ。
 
 
 
 
 
写真3 流れる血でトランスルーセントの姿が見える
 
 
   ■ そんなレベルでもVFXメイキング映像が公開されているので,紹介しておこう。ホームランダーの目から照射される殺人光線がマデリンの顔を焼くシーンでは,単に顔の表面を加工したのではなく,内部の骨格モデルを用意して,焼けただれた顔を描いている(写真4)。身体を伸長できる「エキゼエル」の手が伸び,ヒューイを掴むシーンでは,間にもう1人介在させ,CGの腕で繋いでいる(写真5)。CG/VFXの主担当は,Mavericks VFXで,他に12社もクレジットされていた。DNEG, Soho VFX, Framestore, Method Studios, Pixomondo等の実力スタジオが参加してこのレベルなのは,よほど製作費をケチったのだろう。最高視聴率を達成した以上は,シーズン2で豪華なVFXを見せて欲しいものだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 ホームランダーは,目から発する殺人光線で女性の顔面を焼き尽くし,死亡させる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真5 エゼキエルの腕が伸びるシーンは,もう1人介在させ,CGで上腕と前腕を繋いでいる
(C) Amazon Studios
 
    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
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